38話目
「ルミナス・アロー☆ シュート☆」
突然響き渡るアナエルの声。光の矢がゆえの周りのやくざたちに突き刺さる!
入り口に立っていたのは白い翼を持つ天使姿のアナエルだった。
ゆえが自由になり、やくざの手から逃れる。
「光太郎君。来てくれたのね」
ゆえはアナエルの後ろに立っている光太郎へ駆け寄った。
「心配だったから・・・・・・」
光太郎はザフキエルに任せていれば大丈夫かと考えていたが、女の子一人に無茶な事を任せきりにしておくのに気が引けて、結局やくざの事務所に飛び込んだのだ。
「シュート☆ シュート☆ シュート☆」
アナエル得意の三連射。これしか特技はないのだが。
びしっ、バシッ、バチィッ! 次々にやくざの手下たちを撃ちぬいていく。
「なんだ? 新手か? 今日は次から次へと珍客が訪れる! やれっ、グリフォン!」
組長はグリフォンをアナエルにけしかけた。
「ぐがああああ!」
唸り声をあげて突進するグリフォン!
「ちょっと強い雑魚モンスターレベルくらい、どうにでもなるんだから! ルミナス・アロー☆ シュート★」
アナエルは渾身の力で弓を引き絞り、光の矢をグリフォンへと放った!
どがっ! 強烈な音。矢がグリフォンに突き刺さった。
「ぐぎゃああああああ!」
悲鳴を上げるグリフォン。だが、致命傷には至っていないようだった。
「まだまだですね、アナエル。神の拳は下賎の輩を制圧する!」
立ち上がったザフキエルの詠唱。グリフォンの周囲に現れる空間のゆがみ。ゆがみから無数の拳が乱舞する!
どががががっ! 圧倒的な連打。乱打。拳の応酬がグリフォンに炸裂する。グリフォンは壁に叩きつけられるが、それでもなお拳の連撃がグリフォンを襲った。
ドガッ! グリフォンがやくざの事務所の壁を突き破って外へとたたき出された。空中で霧散するグリフォン。
「ああっ、俺様のグリフォンが!」
組長は壁にあいた穴から外を見る。
「さて、あなたに最終審判とまいりましょうか」
ザフキエルはあっという間に組長との間合いをつめていた。
「て、てめえ。なにをする気だ!? まさかあの乱撃を俺にもやる気か!?」
ザフキエルは笑顔で首を横に振った。
「まさか! 神の怒りを直接下すほどのことではありますまい。汝の罪を問う。審判の時は来た。・・・・・・あなたは魔術書を手に自らのシマの拡大をもくろみ、やくざ同士の抗争にグリフォンを呼び出して暴れさせた。相手がやくざ者とはいえ魔術書で人に危害を加えたのは確かです。よって汝に罪あり。ギルティ!」
ザフキエルの指先が組長を指し示すと、組長が雷に討たれたかのようになる。
「おんぎゃあああああああ! 貴様らは一体・・・・・・ぐふっ」
組長は気絶した。関東ざやく組の次の活躍にご期待ください。
ザフキエルが事を済ませたときには、アナエルも手下のやくざを成敗し終えたばかりだった。
「そちらも片付いたようですね。さて、例の魔術書ですが・・・・・・」
ザフキエルは組長の傍らに落ちていた魔術書を拾い上げる。
「ザフキエル。それは原典の魔術書でして?」
ゆえがザフキエルに尋ねるが、ザフキエルは首を横に振るばかりだった。
「残念ながらこれも無記名の魔術書ですね。写本です。燃やしてしまいましょう」
ザフキエルの手の中で、魔術書に火の手が上がる。あっという間に写本は燃え尽きた。
「それは困りましたわね。この組長から事情を聞きだそうにも気絶されてしまいましては」
「ご安心ください。過去視によりこの者の過去を覗きます」
ザフキエルは組長の肩に手を当てた。何かを読み取っているようだった。
「ザフキエル、なにかわかって?」
「・・・・・・この者もある日突然に写本を事務所に送りつけられたようですね。前回の通り魔と手口は同じです。悪用するであろう者を見繕って写本を送り届ける。これは相手方がどのような人物かわかっていなければできない事でしょう。やくざはともかく、前の犯人はそうはいかない。すなわちこの辺り一体で活動している何者かによる犯行であることは確かです」
「それは前回からわかっている事は何も変わっていないと言うことかしら」
「残念ながらそうなってしまいますね、ゆえ様」
ザフキエルが立ち上がった。
「それは骨折り損と言うものね。窮地に陥ってまでして得たものはこれとは。それにしても光太郎君。あなたのおかげで助かったわ、ありがとう。君が来てくれるとは思わなかった」
「そうですか? 私は来ると思っておりましたがね」
ゆえとザフキエルの言葉に光太郎が照れる。
「いやぁ、やったのはアナエルだし」
「私は光太郎が行くと言ったからついていったんだよ☆」
アナエルはにっこりほほ笑んだ。
「さて、こんなところに長居は無用です。出ましょうか、皆様」
ザフキエルは退所を促した。気絶したやくざ達がゴロゴロと転がっている。
「うっ、本当に大丈夫なんだろうな・・・・・・」
光太郎は心配な表情を浮かべて事務所を後にするのであった。光太郎のとんでもない日曜日はこうして終わりを迎えた。




