37話目
やくざの事務所の中。殺風景なレイアウトの事務所には数人のかたぎではない男達がたむろしていた。その部屋の中央にゆえとザフキエルがいる。
「魔術書を所持している男が居るのはわかっています。出てきなさい!」
事務所に凛と響く声。
「おどれ、ここがどこかわかって来てんのかゴルァ!」
一人のやくざが恫喝する。まさに一触即発の状態だった。
「ほう、魔術書の事を知った上での事か。と、するとお前も魔術書の所有者か」
組長が椅子から立ち上がる。その手には魔術書を持っていた。
「やはりいたわね。魔術書は人の手に余るもの。処分させていただきます」
「処分と来たか。こんな便利なもの、捨てるわけがなかろう! 出て来い、グリフォン!」
組長が叫ぶと書物から金色の光が溢れ、巨大な光の塊となった。光が消えるとそこにはグリフォンの姿があった。
「ゆえ様。御下がりください。あれは猛禽のようにすばやい獣。近づいては危険です」
ザフキエルがゆえの前に立った。
「そこの優男。俺のグリフォンを前に余裕のようだな。お前が女の代わりに相手をするとでも言うのか?」
組長はグリフォンの首を撫でる。グリフォンが「ゴロゴロゴロゴロ」と、」機嫌の良いねこのような音を出す。
「申し遅れました。私は天使のザフキエル。魔術書を全て焚書にすると言う使命の為に、あなたに審判を下します」
「ほほう? 威勢だけはいっちょまえだな。やれ、グリフォン!」
組長がグリフォンをけしかける! グリフォンは跳躍してザフキエルへと襲い掛かった!
「ガルガリンの光輪よ!」
ザフキエルが巨大な光輪を前方に出した。グリフォンがその光輪に衝突する。グリフォンはザフキエルを押し倒そうとするが、光輪に阻まれて進めないようだ。
「な、なんだあの光は!?」
組長がザフキエルの能力に驚いている。
「魔獣を召喚しておきながら、一体何を驚いているのですか。まさか、特別な力があなたの専売特許とでも思っているのかしら?」
ゆえが組長を挑発する。
「ちっ! グリフォン。かまわねぇ。力押しでやっちまえ!」
組長の怒声。グリフォンは前足の鋭いかぎ爪でなんどもザフキエルを引き裂こうとする。しかし、その全てがガルガリンの光輪に阻まれた。
「所詮は魔獣。知恵なき獣。できる事と言ったらヘルハウンドに毛が生えた程度ですね」
ザフキエルは防戦しながら笑った。
「なにがおかしい! グリフォン、お前の力を見せてみろ!」
組長は突撃一辺倒の命令をグリフォンに下す。
「さて、防戦ばかりでもなんですから、そろそろ反撃させていただきましょう。その手は神の鉄槌。神の怒り。その拳は全てを砕く!」
ザフキエルの詠唱。その詠唱が終わるやいなや、グリフォンの頭上に空間のゆがみが現れる。ゆがみから現れるのは神の拳。握りこぶし。ドガッと鉄拳がグリフォンに降り注ぐ。
「ぐぎゃあああああ!」
拳を受けて絶叫するグリフォン。グリフォンは拳で押しつぶされて動けなくなった。
「我が力は神の力。さぁ、観念なさい。最終審判の時は来た」
ザフキエルは組長へと詰め寄る、その時。
「きゃっ!?」
ゆえの短い悲鳴。ザフキエルが振り返ると、ゆえが下っ端のやくざに捕らえられていた。ゆえはやくざに刃物を突きつけられている。
「おう、でかした、おまえら! おい、優男。女の命が惜しければ、グリフォンを解放しろ」
組長が形勢逆転を確信する。
「・・・・・・やれやれ。これは光太郎殿の試練の話ではあるが、手伝わないわけにもいかぬな。さて、ではこれは我々に課せられた試練か」
「何をごちゃごちゃ言っていやがる。はやくやれ!」
激昂する組長。これ以上相手を挑発するのは危険と、ザフキエルは神の拳を消し去った。グリフォンが自由になる。
グリフォンは多大なダメージを受けてよろよろとなっていたが、起き上がることが出来たようだ。
「よくも俺の可愛いグリフォンに! 覚悟は出来ているんだろうな?」
組長がにやりと笑った。
グリフォンがザフキエルに迫る。グリフォンの前足が振り上げられる。
「肉体の痛みなど一時の事。それに勝るものが得られるというのならば光栄でしょう」
ザフキエルは余裕の笑みを覆さない。
グリフォンの一撃! どがっとザフキエルに叩き込まれる。ザフキエルは壁まで弾き飛ばされた。激しい衝突音。ザフキエルは壁に打ち付けられた。壁に衝突した痕がひび割れている。激しい衝撃だったようだ。
「ふっふっふ! 世間知らずな女子高生には世間の厳しさをたっぷりと教えてやらねばならんなぁ?」
組長の目が光る。周りのやくざたちも下卑た笑いを浮かべていた。
「これしきの出来事、天使が許容したというのならば試練のうちにも入りませんわ!」
ゆえの瞳に意志の光は消えていない。
「気の強そうな女だ。果たしていつまでその虚勢が続くかな?」
刃物を持ったやくざが衣服を剥ぎ取ろうとするまさにその時。




