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35話目

 翌日。月曜日の放課後。光太郎とアナエルは学校の屋上にいた。そこにはゆえとザフキエルもいる。


「と、いうわけなんだ。今度の魔術書の所持者はやくざなんだよ!」


 光太郎は前日の話をした。この問題は手出しできないから手を引こうという提案をするつもりのようだった。


「ふむ、グリフォンですか。今回がこの地方で初めての目撃例ですね。魔術書の写本の中身を替えたのかもしれません。厄介ですね。想定する魔術書がより高度なものになりますから。やはり魔王の魔術書なのでしょう」


 ザフキエルは光太郎の話を静かに分析していた。


「で、光太郎君。アナエルの力はグリフォンに通用したのかしら?」

「えっ、その時はアナエルが戦おうとするのを止めたから・・・・・・」

「なぜ? 魔獣が現れたのでしょう?」


 ゆえはさも不思議といわんばかりに疑問を光太郎にぶつけた。光太郎はなぜ戦わなかったのかの事情説明はもう済んだものとばかり思っていた。


「だって相手はやくざなんだよ!? うかつに攻撃できないよ!」

「あら、それはおかしいわね。光太郎君。だって、やくざこそ反社会組織の人間。正義の鉄槌を下すべき相手じゃないのかしら?」


 ゆえならば構わずグリフォンの相手をしていたのだろう。そんな物言いだった。


「えっ、高校生にやくざの抗争に首を突っ込めと?」

「やくざの抗争はやくざの抗争。そちらの事情に興味はありません。私達は魔術書の行方を追っているのです。魔術書を悪用する輩を退治しなくてなんとするのですか」


 世間知らずのお嬢様と言うほど世間知らずでもないであろうに、平然とまかり通らない正論を告げるゆえだった。


「ゆえ様。光太郎殿はやくざに目を付けられたらどうしようという事を危惧しているのです。人間を殺すわけにも行かないでしょうから、ゆくゆくは彼らにマークされる事になるのは間違いないでしょうね」

「正しきをなそうと言うのに己の保身を気にしていかがするのです」


 ゆえには一般人の価値観は通用しないようだった。


「アナエル。あなたは現場で見ていて、グリフォンは何とかなりそうと思えましたか?」


 ザフキエルはアナエルに向きなおした。


「それはもちろんです。ザフキエル様。中級の魔獣は卒業試験で倒す相手。ですが、今の私ならば勝てると感じました」


 アナエルは自信満々だった。少なくとも魔獣に負ける心配はなさそうだった。


「よろしい。ならば必要な時にはあなたに任せましたよ。アナエル」


 ザフキエルは既に相手と事を構える方向で考えを固めているようだ。ゆえの決心を見て取ったからだろう。


「ちょ、ゆえさん。本当にやくざを相手にするんですか!」


 光太郎はひどくうろたえていた。このままではやくざを相手にどんぱちする羽目になる。


「当たり前でしょう。関東ざやく組と言ったかしら。相手にとって不足は無いわ!」

「不足はないどころか大余りだよ! 僕は普通の読書家男子なんだ! やくざを相手にする主人公は大抵バトルモノ系の主人公だろう! 僕には無理だ!」

「光太郎君。ついに私をもメタネタで巻き込んだわね。知らないの? 昨今の女子高生キャラは武闘派も多いのよ?」


 ゆえはやる気のようだ。ともすれば日本刀を持っているのが似合いそうなのが困った者だった。刃物の似合う女の子はごめんだな、と光太郎は思った。


「ゆえ様。あの辺り一体のやくざの事務所を調べておきましょう。戦うからには正面突破。ご安心ください。最終審判を下せば、相手は執行者達には手出しできませんから」


 ザフキエルが気になる事を言ったのを光太郎は聞き逃さなかった。


「えっ、あのギルティ! ってやつはそんなにすごいやつなの?」

「そうだよ、光太郎。正義は負けないんだ☆ あの審判を下せば相手はそれどころじゃなくなるからね」


 アナエルが「正義は勝つ☆」とポーズを決めているが、光太郎は無視した。


「ちょ、ちょっと待った。それって魔術書の無いやくざ相手にもやるの?」

「おや。光太郎殿。我々が裁くのは天の法に背いた者達ですよ。やくざをやくざとして裁くのは人の法の役目。だからそのような真似はしませんよ」

「それじゃあ、書物を持っているやつの仲間のやくざには追われるって事じゃないか!」

「その時はその時で私の出番ですな。天の使命を阻害する者は何人たりとも許しません。神の監視者として彼らにはふさわしい末路を与えましょう」


 ザフキエルがふふふっと笑った。


「頼もしいわね、ザフキエル。その調子で頼むわ」


 ゆえも頷いている。ザフキエルがこの調子だからゆえもこんな感じなのだろう。


「えー、僕の意見は無視ですか・・・・・・」

「さぁ、行くわよ、光太郎君」

「いざ、ご出陣☆」


 先をせかす女子と盛り上がっている天使女子を、とてもいやそうな目で見ている光太郎であった。


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