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33話目

「まぁ、アナエルですらも勉強はやらなきゃいけないもののようだし、どこもそんな感じなのかなぁ」

「うっ、嫌な話題で話を振るなぁ★ 私も勉強は頑張ってますよー。ほどほどに」

「そちらのお嬢さんは魔術書を探しているんだったね。オカルト趣味なのかい?」


 店主がアナエルに話しかける。


「えっ、えーと。その趣味と言うか仕事と言うか。それを探してこいって言う命令がありましてー」


 アナエルは嘘にならない範囲で話せる事を話す。


「それはまた変わった仕事だねぇ。流石にうちに魔術書は置いてないねぇ。あるところにはあるんだろうけれど。自分が見たのも昔のオカルトブームの時だからねぇ。今は流行ではないから出回っていないんじゃないかな。元々古書の魔術書ともなると好事家が手放さないだろうからね」

「そうですか。それは残念です★ まぁ、無いに越した事はないのですが」

「店主さん。今日はこの歴史書をください」


 光太郎はアナエルが店主と話している隙に本を見繕っていたようだった。


「はいよ、いつもすまないねぇ」


 店主は光太郎から本を受け取ると、いつものように紙袋に包んでくれた。光太郎は紙袋を受け取る。


「そうだ、店長。以前の格言の本は読ませていただきましたよ」

「あぁ、あの格言の本かね。君の人生に役立つとよいが」

「まだ、ああいう言葉を実感できるような人生観は持ち合わせていないですね。でも、心に留めておきます。ありがとうございます」


 光太郎は以前のお礼を言った。


「良い言葉は良い心を形作る。色々な言葉を知るといい。それが君自身の心となる」


 店長は光太郎達を見送った。

 光太郎とアナエルは古書店を出る。


「人の出来た店長さんだね☆」

「僕の数少ない話し相手の人さ。やっぱり本好きに悪い人はいないんだよ。本を粗末にするやつはろくなやつがいない!」


 光太郎は力説した。

 光太郎はアナエルと話しながら歩いていた。だから注意力が散漫になったのだろう。

 ドン! と、人と衝突してしまった。光太郎はぽとりと本を落としてしまう。

 ぶつかった相手が本の入った紙袋を拾った。


「おおっとすまない。不注意だった。おや、この紙袋は。君、あの古書店によく行くのかい?」


 ぶつかった男は紙袋をみるなりそう言った。長身の優男で、女性にもてるであろうルックスをした男だった。


「えっ、ええ。そうですが」


 光太郎は男から紙袋を受け取る。


「いいねぇ、君。学生かい? その年齢で古書集めとはすばらしい! 私も古書集めをしているから同好の士を見つけると嬉しくてたまらないよ」


 男は一気にまくし立てた。


「お兄さんも古書集めを?」

「そう。本はすばらしい。人間の英知の塊だ! これこそが人間の知恵、知性の証明だと私は思っている!」

「そうですよね! 僕もそう思います!」


 本への熱き情動。光太郎は男に親近感を覚えた。アナエルは二人についていけずに置いてけぼりを食らっている。


「君、いいね! この価値観に賛同してもらえたのは初めてだよ! 君は実に見所がある! 私の名前は冥堂寺空耶。空耶と呼んでくれ!」

「僕は魁光太郎と言います」


 二人はがっちり硬い握手をした。


「良い名だ。良かったらそこのブックカフェで話をしないか? おすすめの良いお店があるんだよ!」

「はい! 行きます!」


 光太郎はブックカフェと言う響きに魅力を感じた。一緒にいる女の子を置いてけぼりにして、男同士で盛り上がる光太郎。非モテ男子とはこのようなものである。女の子にもてたいと思っていても、気の合う野郎友達とかを優先してしまいがちなのだ。

 光太郎は冥堂寺についていった。仕方が無いのでアナエルもついていく。


「おっと、デート中だったようだがすまないね」


 冥堂寺はアナエルの事を気にかける。。


「あー、こいつですか? たまたま一緒にいるだけですし、お気になさらず!」


 光太郎のアナエルの扱いもぞんざいなものだった。


「よろしいのかね? では行こう!」


 冥堂寺の案内で一行は近くのブックカフェに立ち寄った。本の読める喫茶店。近年は増え続けている営業形態の一種だ。

 そこは洒落た雰囲気のお店だった。店の造りは洋風で、所狭しと壁には本棚がある。コーヒーと軽食を出してくれる本の読めるカフェだ。


「光太郎君はこういうお店は初めてかな?」


 冥堂寺がメニュー表を見せながらそう切り出す。


「はい! こんなお店があるだなんて初めて知りました」


 光太郎なら店構えの洒落た雰囲気だけで敬遠しているだろう。冥堂寺の勧めで二人はカフェオレを頼む。


「しかし、私は君に何か光る物を感じている。近年まれに見る出会いだよこれは!」

冥堂寺のテンションは高かった。

「空耶さんはどんな本がお気に入りなんです?」

「私かね? 歴史小説が大好きなものでね。昔の古風な作品を何作も読み込んでいるよ!」

「実は今日は歴史書を買ったんですよ」


 光太郎が紙袋から購入した本を取り出す。


「すばらしい! 歴史小説を読むにも前提知識が必要でね。私も歴史書はたびたび読んでいるよ! 特に昔の歴史書は当時の価値観で書かれているからね。同じ時代の歴史小説を読む時に大いに参考になるのだよ。何事も新しければよいと言うわけではないよい例だね」

「空耶さんのような方と知り合えて光栄です! 周りは本に興味のないやつらばかりで・・・・・・」

「私も似たようなものだよ。共通の趣味を持った相手を探す事がどれほど困難なことか・・・・・・」


 二人は意気投合していた。本好きは自分の世界に引きこもりがちなので、交友を広めにくいのだ。


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