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31話目

「ともかく、光太郎君。埋められない差はどうしても埋まらない。無理はしない事ね。場合によっては上位魔王が相手になるのでしょうけれど、その時は逃げなさい。ザフキエル。あなたなら相手に出来るのでしょう?」

「困難な相手ですが、戦えない事はないでしょう。噂に聞く魔王の力がどれほどのものか、楽しみなくらいですね」


 ザフキエルは笑みを浮かべたままだが、その身の内では静かな闘志を燃やしていた。


「そういうことです。難敵の相手はこちらでやりますから、光太郎君たちの仕事は魔術書の原典の所有者を見つけること。これをお願いできますね?」


 ゆえの話はお願いではない。力量差を見せ付けられて格付けが済んだようだ。出来損ないの人間と半人前の天使の組み合わせに対して、過度な要求は出来ないと踏んでの提案だった。ようは期待されていないのである。

 だが、光太郎の理解はそこまで及んでいなかった。


「そんな事でいいなら御安い御用ですよ。なぁ、アナエル?」

「えっ、うん・・・・・・それでいいのかな★」

「それでかまいませんよ。アナエル。あなたは研修中に任務中の天使の御手伝いをするだけのことです。それ以上の無理は期待しません」


 ザフキエルはアナエルの心配事を見透かしていた。アナエルは任務放棄、職務放棄にならないか心配していたのだ。


「ザフキエル様がそうおっしゃるならば・・・・・・」


 アナエルもおとなしく引き下がるようだ。


「ゆえさんはどこか捜索するあてでもあるのかな?」


 光太郎は事件のその後の手がかりがないことを思い出した。


「ありませんわね。これまでどおり、ザフキエルとこの街を監視するだけの事。魔術書の写本が出回ると言うのなら、一つ一つ焚書にすればよいだけの話」


 ゆえには明確な自信があるようだった。それは連れ歩いている天使が高位の存在だからなのか。それともそれは生まれつきか。少なくとも挫折とは程遠い人生を歩いて来たに違いなかった。


「じゃあ、僕らはまた何か出たら対処すると言う方針で」


 光太郎の話を聞いてゆえは頷いた。それならば問題ないだろうとザフキエルも反対しない。それでその場は話が収まり、解散となった。

 光太郎はアナエルと家に帰る。そのゆえの家からの帰り道の事。終始アナエルは無言だった。心ここにあらずといった風で、ずっと何かを考え続けているようであった。


「何だよアナエル。まださっきの話を引きずっているのかよ」


 光太郎はぼんやりしているアナエルに話しかけた。


「だって、大してお役に立てていないみたいで・・・・・・」


 アナエルはずっと気にしていたようだ。


「神の監視者と言われているやつだって見つけ出せていないような相手を、僕らに見つけ出せるとは思ってないじゃん。だから、何か起きたらそれに対処で十分だろうよ」

「私に何かやれと言われてもできないし、だからしかたがないといえば仕方がないんだけれどね★」

「適材適所。物探しが得意そうな人には物探しを任せ、雑魚退治ができるやつには雑魚退治を行ってもらうのが一番さ」


 光太郎は気楽にそう答えた。


「雑魚退治しかできないって、何だか私も雑魚扱いされている見たいで複雑なんですけれど★」

「だって事実だろう。現実を見ろ! お前は見習い天使なんだ! 研修中の天使がなぜに実戦投入されなければいけないんだよ! 半端者と半熟者のバディかよ! つき合わされるこっちの身にもなって見ろよ。っていうか、預言者にならなければいけないとか、あの話はなんなんだよ」

「えー、主人公が預言者になるとかかっこよくない?」

「全然そうは思わない」

「天使の世界観的には主役級の配役なんですけど☆」

「人間界的な世界観でお願いします」


 光太郎とアナエルのコンビは出来上がったばかりだった。息が合うわけでもなく、ぎゃぎゃあ言い合いながらの帰路となる。

 光太郎とアナエルが出会って最初の土曜日の事だった。


 翌日の日曜日。光太郎は神保町の古書店を目指していた。

今日はアナエルも一緒だ。前回はアスモダイが現れたので、一人じゃ危険だという事でアナエルもついてきていた。

 アナエルは人間に擬態したままだが、学校の制服ではおかしいので普段着に着替えていた。白いワンピースを着ているほか、全身白尽くめの格好となっている。とにかく白い色が好みのようだった。

 二人で電車を乗り継いで神保町を目指す。その電車の中。


「清楚系をイメージした格好をしやがって」


 光太郎はアナエルの普段着を見るなりそう言った。


「天使らしいイメージカラーを大事にしているんだよ。天使が黒とか金色の煌びやかな格好をしていてはおかしいからね」

「黒はともかく、金色は良いんじゃないのか?」

「金色はお偉いさまのする格好。下っ端の私には似合わないよ」

「ははーん? そういう意味でならお似合いの格好じゃないか!」


 光太郎はアナエルのファッションセンスに納得いったようだった。


「ぐっ、いつか白と金色の煌びやかな格好を出来るようになってやる!」


 そんなやり取りをしている二人であったが、目立っているという自覚はなかった。アナエルは外見が美少女外国人なので非常に目立つのだ。「あの子モデルかしら?」とかそんな声がたまに聞こえてくる。そこに付きまとう言葉の大半は「でも、隣にいるやつみすぼらしくない?」だったので、光太郎は敢えて気にしないようにしていた。


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