30話目
「どちらかが参ったというまでね。それでは一本勝負、はじめ!」
ゆえが戦いの合図をする。
「先手必勝☆ 今必殺のー、ルミナス・アロー☆」
アナエルの手に光の弓が現れる。
「先手必勝と言いつつ技名を叫んでいては、不意もつけませんし隙だらけですよ」
そういうザフキエルは笑顔のままでアナエルを見ていた。
「シュート☆ シュート★ シュート☆」
アナエル必殺の三連射。ただ単に三連射するのが限界なだけであった。
瞬間、ザフキエルの周囲に光輪が現れる。ぱきっ、ぴしっ、ばしっ! 光の矢が光輪に当たる。
「そんな正面からではガルガリンの光輪は抜けませんよ? あなたも天使なら未来視が使えるのでしょう? それを持って相手より一手先を見て手を打つのです」
ザフキエルは余裕の表情だった。
「エンジェル・アーイ☆」
そういうとアナエルは未来視をはじめる。・・・・・・どんな手を打とうともザフキエルはそれを読んで対処してくる。・・・・・・どんな未来を見ても同じ結果だった。
「さぁ、どうしましたか? 仕掛けてこないのですか?」
ザフキエルが挑発している。
「そんな! ザフキエル様も先が読めるから毎回こちらの動きが読まれているわ★ こんなのどうしようもないよ★」
「悪魔との戦いも同じなのですよ。常に先読みの戦いです。その上で必殺の技を放つのです。そうでなくては必殺技とはなりませんよ。ただ撃てばよいというのではないのです」
ザフキエルがアナエルに戦闘指導をする。
「こんなの勝てっこないよ★」
「こないのですか? ならこちらから行きましょう。天より下るは神の鉄槌。しかし、その手は開かれ、子をたしなめられる」
ザフキエルの詠唱。するとアナエルの頭上に空間のゆがみが現れる。
「こ、この展開なら見た☆」
アナエルが緊急回避行動を取ろうとするが、アナエルの動きに合わせて頭上の空間のゆがみもついてくる。
「読んでいた展開なのにどうする事も出来ないのですかね? では、はい終わり」
ザフキエルの笑み。そうするとアナエルの頭上の空間のゆがみから神の手のひらが現れる。その手がアナエルを上から押しつぶす。
「ぐえっ★」
アナエルはヒロインにあるまじき声を上げた。神の手によって地面に押しつぶされている。
「私の力はゴッドハンド。神の御手による断罪を行います。逃れる術はありませんよ?」
「むぎゅう★ 参りました★」
アナエルは降参した。神の手が消える。
「これでわかりました。アナエルはまだまだ未熟。天使としてもまだまだ駆け出し。その上勉強不足ともきました」
ザフキエルが残念な者を見るかのようにアナエルを見つめる。アナエルはようやく立ち上がった。
「真に申し訳ございません・・・・・・」
アナエルはしんなりと落ち込んでいる。
「天使には階級があります。その能力に応じて位が与えられるのです。かのミカエルとてかつてはあなたの一つ上の階位である大天使の位にいました。今でこそセラフの大天使長と言われていますがね。あなたも修行を積んで位を上げなくてはなりません」
「ザフキエル。あなたは座天使でしたわね。どのくらい修行を積んでその地位にまで上ったのかしら。・・・・・・そもそも、あなたはおいくつ?」
ゆえがザフキエルとアナエルのやり取りに入り込む。
「64000歳ほどになりますかね。どのくらいの鍛錬で、と申されましても覚えてはおりませぬなぁ。アナエル、あなたはいくつぐらいなのですか?」
「3000歳ほどになります☆」
アナエルの情報開示に光太郎が思わず噴出した。
「3000歳って、僕と同じくらいの見た目なのにババアかよ!」
光太郎が大笑いしている。
「ひどいなーもー。天使なら若い方なの。私もまだ学生で、実地研修で地上に一時的に来ているだけなんだから★」
「天使は天使でも研修中の見習いかよ」
「まぁ、そういうことです。これでは召喚者の成長だけを当てにするのはフェアとはいえませんね。アナエル。あなたも一人前の天使になるべく努力しなさい」
ザフキエルは厳しくアナエルに言いつけた。
「とはいえ、光太郎君。彼ら天使は召喚者の精神力を力の源とするのもまた事実。瞑想をするなどによって自己鍛錬を行う事は決して無駄ではないわ」
「えー、ゆえさんはいつもそんな事をやっているの?」
「やっているわね。私達預言書の所持者は修行を積んで預言者とならなくてはならないのよ。目指すは神の声を聞こえるようになる事。神のご意志を授かる事」
ゆえの台詞にザフキエルがうんうん頷いている。
「そんな事聞いていないよ!?」
光太郎が嫌そうな顔をする。
「それは言ってないもん★」
「それもいけませんね。アナエル。必要な事は全てお話しなければ。他に言い忘れている事はありませんね?」
ザフキエルがすかさずアナエルに駄目出しをする。
「うっ、ないと思います★ たぶん」
小さく最後にたぶんとつけて自己保身に走るアナエルであった。




