3話目
古書店を出た光太郎はそのまま帰路へついた。自転車に乗って家を目指す。神保町は家とは結構な距離があったが、しかし慣れたもので気にはならなかった。いくつものビルや住宅の合間を通り抜けてゆく。太陽がかたなへと沈みかける頃、光太郎は高校の最寄りの駅の付近を通りかかった。
しかし、その時に光太郎に緊張が走る。向かう先にいたのは光太郎をいじめているクラスメートの不良とその仲間達。彼らは駅前のコンビニでたむろしていた。このコンビニ付近は彼らのいつものたまり場なのだ。いつもはもっと暗くならないと出没しなかったので、光太郎は油断していた。道を変えようか迷ったが、車道を挟んで反対側を通れば大丈夫だろうと横断歩道を渡って行った。
そんな光太郎の様子を不良達がニヤニヤしながら見ていた。不良達も車道の反対側へと移動する。・・・・・・光太郎は逃げようかどうか迷ったが、たまたまこちら側へ来ただけかもしれないと考えて、現実逃避をした考えを抱いてしまった。光太郎は不良達と目を合わせないようにとうつむきながら通り過ぎようとする。
「よう、光太郎。お前、どこ帰りなわけ?」
クラスメートの為五郎が光太郎に話しかける。
「えっ、いつもの古書店だけど・・・・・・」
光太郎は馬鹿正直に答えた。だが、不良がそんな事に興味が無い事は明白だった。
「俺らこれからカラオケに行こうと思ってんだけどよ、ちょっと困っている事があってねー」
少なくとも彼らが光太郎をカラオケに誘うようなことは無いだろう。よって人数併せの話とは考えにくかった。
「な、なんなんだい?」
光太郎は声が上ずりながら尋ねる。内心嫌な予感がしていた。
「カラオケ代が必要でさぁ。ちょっと金貸してくんない?」
不良は光太郎にカツアゲをした。この金は貸したら戻ってこないだろう。
「も、持ち合わせないから・・・・・・」
光太郎が先を急ごうと不良達の脇を通り過ぎようとする。それを不良達が通せんぼした。
「おい、待てよ。本なんざ買う金くらいは持っていたんだろう。つべこべ言わずによこせよ!」
不良の一人が光太郎の鞄をひったくる。
「あっ!」
光太郎が奪われた鞄をなすすべなく見つめる。
「はいはい荷物点検しますねー。まず最初は・・・・・・なんだこの外国語の本。開かねーじゃねーか。ごみかよ」
不良が洋書を路面へとポイ捨てした。
「ああーっ!」
光太郎は洋書を拾おうとするが、他の不良にさえぎられた。
「続きましてー、はいはい。なんだこの古ぼけた本は。こんなんお呼びじゃねーんだよ」
不良は光太郎が買った本を背表紙ごと破り捨てた。乱暴に投げ捨てられる本。
「ああああ!」
光太郎が本を破り捨てた不良に掴みかかろうとした時、別の不良が光太郎を殴り飛ばした。地面に倒れ伏す光太郎は立ち上がれずにいた。
「はいはい。お次のアイテムはー、おやおや。御財布が出てきましたね。どれどれ中身はー? あー、はいはい。5千円ね。これは徴収するねー」
不良は光太郎の財布から5千円を抜き取った。そして財布を光太郎へと投げ捨てる。光太郎は呆然としながら投げ捨てられた本を見ている。
「せっかくの本が・・・・・・」
光太郎が両手を地面について破られた本を拾う。
「しかしだな。これっぽっちじゃたりねえんだよ!」
不良が光太郎にけりを入れる。不良の足の甲が光太郎のわき腹にめり込んだ。
「うぐっ!」
光太郎が腹を抑えて蹲りかける。
その光太郎の顔面を、不良のパンチが容赦なく襲った。殴り飛ばされる光太郎。光太郎は両手をついて尻餅をついた。手のひらの皮膚がアスファルトで擦り切れる。
「おい、顔面はやめておけ。親にばれないようにボディだけにしておくんだ。もっとも、こいつが親に泣きついたらそのかぎりじゃねーがな!」
仲間の不良が光太郎のクラスメートの不良を煽り立てる。
「そうだ。光太郎。てめぇ、教室で俺の事避けやがったよな。俺を舐めてんだろ?」
仲間の不良たちが「おまえこんなやつに舐められてんのかよ!」と為五郎をあざ笑った。クラスメートの不良は光太郎の腹に殴る蹴るの暴行を加える。
何の抵抗も出来ない光太郎が呻いた。
「光太郎くーん。俺はとても傷ついちまったな。慰謝料代わりに10万ほど持ってきてくんない?」
「・・・・・・そんなお金ないよ・・・・・・」
「あるとかないとか、お前の都合を聞いちゃいねーんだ!」
クラスメートは思い切り光太郎のわき腹を蹴り上げた。
「うぐっ!」
「持って来いっつったら持って来い。無いなら親の財布から抜いてくるなり何なり、やりようがあるだろうよ? なぁ、あーん?」
クラスメートが呻く光太郎の顔を覗きこむ。
「そ、そんなのできないよ・・・・・・」
「できるとかできないとか、俺が聞いたか? 俺は持って来いっつったのよ。なぁ、お前。俺の話を聞いてる? やっぱ俺を舐めてるだろ?」
クラスメートが光太郎の手の甲をぐりぐりと踏みつけた。
「そんな・・・・・・」
「じゃあな。次会う時までに用意しておけ」
そういうと不良達は去って行った。