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27話目

 と、アナエルが何かに気がついたようだ。


「・・・・・・おやおやぁ、誰かが私達を見ている気配がある★」

「そいつが犯人じゃないのか? 追うんだ!」

「そこだ!」


 アナエルが無詠唱でルミナス・アローを放った。どうやらいちいち技名を叫ばなくても撃てるようだ。そんなことに光太郎は気がついた。

 ズガッ! 電柱に突き刺さる光の矢。


「くそっ!」


 書物を持った怪しげな男が電柱の陰から飛び出してくる。


「なんか本を持っているし、もう見るからに不審者だろう!」


 不審者は退転し逃げ出して行った。後を追いかける二人。

 と、不審者が本を開いて何かを詠唱している。・・・・・・本から紫色の光が漏れ出し、あっという間に光の塊は大きく膨れ上がる。光が消えると、そこにはヘルハウンドがいた。


「やれっ、ヘルハウンド! 目撃者を食い殺しちまえ!」


 男はそう命令を下すと一目散に逃げてゆく。


「囮を使って逃げる算段でございますか☆」

「ぐるるるるるるる!」


 ヘルハウンドが唸り声を上げている。どうやら倒さねばならないようだ。


「でかい犬程度の扱いになっている雑魚魔物君。倒しても見せ場にならないからさっさと消えてね。ルミナス・アロー☆ シュート★」


 アナエルは光の矢をヘルハウンドへと打ち込んだ。


「きゃいんきゃいん!」


 情けない犬のような鳴き声をあげてヘルハウンドは消えて行った。


「犯人には逃げられちゃったみたいだね★」


 ヘルハウンドはその目的を果たしたようだ。ものの見事に使い捨てられている。犯人はおめおめと逃げたかに見えた。しかし、そうはいかなかったようだ。


「うわーっ!」


 どこからともなく悲鳴が聞こえる。光太郎達は悲鳴のした方向へと走った。


「やれやれ、危うく取り逃がすところでしたね」


 そこに立っていたのはザフキエルとゆえだった。

 不審者は頭上から空間をゆがめて現れた神の拳によって、地面へと殴りつけられて動けなくなっていた。


「ザフキエル様!」

「あなた方の戦いは見ていましたよ。犯人を逃がすといけないので、瞬間転移してきました」


 そういうとザフキエルは犯人に近寄った。


「く、くそっ、放しやがれ!」


 犯人はじたばたもがいているが、神の拳に完全に押しつぶされている。

 ザフキエルは犯人の持っていた本を手に取った。


「ふむ、やはり写本の方のようですね。これは魔術書の魔力を用いてコピーされた写本。ただの劣化コピーですので、ヘルハウンドの召喚方法しか書かれていないようです。この書は燃やしましょう」


 ザフキエルの手の中で、写本にぼっと火がついた。あっという間に写本は燃え尽きていく。


「さて、犯人に聞きますが、あなたはどうやってこれを手に入れましたか?」


 ゆえが犯人に屹然と尋ねた。犯人を見下ろすその視線は冷ややかだった。侮蔑がこもっている。


「しらねえよ! ある日いきなり郵便受けに投函されていたんだ!」

「嘘を言っていると、為になりませんよ?」


 ゆえが脅すように語り掛ける。


「ほ、ほんとうだ。俺はその本に本当に力があるかどうかを試していただけだ! 俺は悪くねえよ!」


 犯人が命乞いをする。ゆえはちらりとザフキエルのほうを見た。


「よろしい。汝は自らに罪は無いといいますね? では審判の時は来た。・・・・・・あなたは魔術書を手にいれ、その力を試すべくヘルハウンドを召喚し、面白半分に人を襲わせていた。死者こそ出ていないようですが、危害を加えようとしていたのは確かです。よって汝に罪あり。ギルティ!」


 ザフキエルがギルティと叫んだとたん、犯人は稲妻に打たれたかのようになった。やがて神の拳から解放されるが、犯人はショックで気絶している。


「なぁ、アナエル。ザフキエルは今何をやったんだ?」


 光太郎がアナエルに尋ねた。


「あれは最終審判。本来なら死後に行われる裁きを生前に行う秘儀。あれによって有罪と裁かれた者には悲惨な運命が訪れる。人の法では裁けぬ者でさえも逃れる術はなし★」

「お前にも出来るのか?」

「天使なら誰だって出来るよ☆」


 ザフキエルは気絶している犯人を調べているようだ。


「過去視で彼の過去を拝見させて頂きました。いつの間にか郵便受けに投函されていたのは本当のことのようですね」

「困ったわね、ザフキエル。これでは手がかりは掴めないわ」


 ゆえは腕組みをし、目を閉じた。


「やはり黒幕は最悪の人物像になるようで間違いありませんね。きちんと悪用する人物を狙って写本を渡したのでしょう」


 ゆえとザフキエルの表情は固かった。


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