26話目
光太郎達は夜の街中に繰り出した。星明りは見えず、月だけがその姿を見せている都会の夜。光太郎達は家の近くの住宅地周辺を調査していた。普段は出歩かない時間帯。車道を車のテールランプが通り過ぎてゆく。行き交う人もまばらだった。
慣れない夜の街を歩く光太郎。
「こんな時間に出歩くなんて、まるで不良になった気分だよ」
光太郎は補導されるのを警戒している。アナエルの未来視によって警官のいそうな方角を避けているので問題ないとは言え、何時見咎められるのかと気にしている。
「非行活動は推奨しないけれど、これはやむをえない事態だから仕方がないよね★」
「お前もとんだ不良天使だよな。・・・・・・お前人目につきやすい外見しているから問題だな」
「え、そう?」
アナエルはくるりと一回転して可愛くポーズを決めた。・・・・・・決めポーズの練習は何時やっているのだろうかと言うくらいに自然の動作で行われている。
「あざといねぇ! じつにあざとい! 天使あざとい!」
「何だよ光太郎。君は自分が猫のように、ただ存在するだけで愛される存在だとでも思っているのかい? 残念ながら私達はそこまでは神に愛されていないんだよ★」
「残念! 僕は犬派なものでね。猫の可愛さというのはちょっとねぇ。やつらはきまぐれすぎるだろう。なんも不自由なく気ままに生きちゃってさ。どうも僕とは気があわなそうな生き物だよ、うん」
「おや、そうなのかい。まぁ、人の好みも人それぞれだからね」
「ところでアナエル。何か邪悪な気配は感じないのかい?」
光太郎は辺りを見回した。二人はちょうど家のそばの商店街を歩いていた。大半の店はシャッターが閉まっている。ところどころ飲み屋が開いているくらいだった。
「邪悪な気配は今のところは感じないかな☆」
「ヘルハウンドなら見つかるけれど、そいつを呼び出しているやつってどこにいるんだろうな」
「間違いなく安全なところから見ているはずだよ」
「なら、僕らの姿は犯人に見られているって事?」
光太郎が身震いした。知らぬ間に犯人に目を付けられているかもしれないからだ。
「んー。それはなさそうかな。魔獣が大きい犬程度の力しかないのも、たぶん召還者が近くにいないからだよ。召喚した者はヘルハウンドを呼ぶだけ呼んで自由にさせているのかも」
「それならそれで犯人の目的もわからないじゃないか! 人は目的も無しに行動はしないんだぞ」
「そうだねぇ。その線でいくと、ヘルハウンドの使い方になれた犯人がそろそろ行動を起こしそうな雰囲気でもあるんだけれど」
と、そんなやり取りをしていた矢先、遠くから女性の悲鳴が聞こえてきた。
「むっ、事件になりかねなさそうな運命の流れを検知した★」
アナエルが真剣な面持ちに変わっている。
「行こう。誰かが犠牲になる前に」
「あぁ、光太郎がまじめな主人公のような台詞をいう時が来るだなんて☆」
アナエルがハンカチを涙で濡らしている。
「一応僕にも良識と言うものくらいはあったんだが・・・・・・そんなことより、ふざけていないで急ごう」
二人は夜の街を駆け出した。
脇道に入ったところ、一人のOLが地べたに座り込んでいた。残業帰りで遅くなったであろうOLが、物語の展開の為に更なる不幸に遭遇している最中だった。彼女が見ている先には巨体の犬、ヘルハウンドがいる。
「よし、間に合ったぞ! 今のところちょうどヘルハウンドが人を襲おうとしているシチュエーションに行き逢うばかりだな。ちょっとこの辺り、芸がなくないか?」
「モブといえども殺さぬという不殺の誓いの上で物語は進行しているからね。運よく私達が間に合っているとそう思おう。何か理由がほしければ、それは天使の力によるものです☆」
「そこまで健全な小説を目指さなくてもいいと思うんだけれどね」
「じゃあ、ちゃちゃっとやっつけちゃうね。はいはい、お約束のルミナス・アロー☆ シュート☆」
アナエルが預言書の力で増幅したルミナス・アローをなげやりに打ち込む。ヘルハウンドはあっという間に撃退された。
「あなた達、助かったわ! なんだか知らないけれど、光り輝くお嬢さん、ありがとう! 私は明日も朝早くから仕事だからもう帰るわね。欠勤しないですんだわ。ほんとうにありがとう!」
OLは安全が確保されるやいなや、お礼と現実的な台詞を言って去って行った
「うーん。通りすがりの人も大分あれな感じになってきたね☆」
「世界観的にというよりジャンル的にギャグに振り切ろうと決断したようだからね。それにしても雑魚モンスター狩りにも慣れてきたな」
光太郎はジャンルがギャグなら自分も死ぬ事はないだろうと油断しきっているようだった。




