22話目
二人が部屋を出たときにはまだ居間に両親がいたが、見つからないように外へと出る。
「うん。こっち」
アナエルが率先して歩く。光太郎はその後ろをついていった。
二人は近所の公園を通りかかる。・・・・・・その時公園の中から悲鳴が聞こえてきた。
「誰かが襲われているのか!?」
「助けなきゃ☆」
二人は公園内へと駆け込んだ。そこには数人の少年達がいた。そんな少年達の側に巨体の影。ヘルハウンドだった。
少年達は度々光太郎をいじめていた不良達だった。夜の公園で暇つぶしをしていたところをヘルハウンドに襲われたようだ。
「な、なんだこの化け物みたいな犬!」
為五郎が情けない声を上げて尻餅をつき、ヘルハウンドから逃げようとしていた。
「ぐるるるるるるる!」
重低音極まりない威嚇の声。
「為五郎に何しやがる!」
仲間の不良が木の枝でヘルハウンドに殴りかかった。
ばきいっ! 木の枝が折れてしまった。
「ぐがぁっ!」
ヘルハウンドは殴りかかってきた不良にタックルをする。タックルを受けた不良は吹き飛ばされる。吹き飛ばされた不良は近くの木にぶつかり気絶してしまう。
ヘルハウンドは地べたから立ち上がれない為五郎に狙いを付けた様だ。
「ひっ、化け物! 誰か助けて!」
為五郎が失禁する。ヘルハウンドは為五郎にのしかかろうとしている。
光太郎は公園の中で起きている出来事を把握した。散々自分をひどい目にあわせてきたやつらがひどい目にあっている。それはざまぁみやがれと言うやつだった。限りなく本心から彼らを助けずにそのままにしておきたいという感情が湧き上がる。
しかし、光太郎はその感情を抑えた。このままでは彼らは死んでしまうかもしれない。それは行き過ぎた問題だ。
「アナエル。彼らを助けてやってくれ」
光太郎はアナエルにそう懇願した。
アナエルが頷き、彼らの元へと駆け寄る。
「愛と平和の使者、アナエル参上! 魔術で呼ばれた犬っころ。今日こそここで成敗してくれる!」
アナエルがびしぃっとポーズを決めた。
「な、なんだ!?」
不良達が光太郎とアナエルを見る。ヘルハウンドはアナエルを警戒したようで、為五郎から離れた。
「がるるるるる!」
ヘルハウンドは悪意と敵意の牙を向く。
「今日は預言書を持った召還者がそばにいるから逃がしはしないよ☆」
アナエルがヘルハウンドの気を引く。ヘルハウンドはアナエルと光太郎ににじり寄って行った。
その隙に不良達がヘルハウンドから離れるように逃げ出す。
「光太郎! お前が囮になってくれて助かったぜ! あーばよ、間抜け野郎!」
そういうと不良達は光太郎をおいて逃げ出して行った。
「ひどいやつらだなぁ・・・・・・アナエル。ヘルハウンドを退治してくれ」
光太郎が預言書を片手にアナエルの背後に立った。
「その一言を待ってました☆ 今度こそ必殺のルミナス・アロー! シュート☆」
夜であるのに昼間のように明るくなった公園内。後光を差して輝くアナエルが光の弓を引き絞り、これまた光り輝く矢を放つ。
ズガッ! 強烈な衝突音。光の矢は深々とヘルハウンドに突き刺さっていた。ヘルハウンドはぐたりと倒れ、黒い塵となって消えて行った。
「やったのか!?」
「光太郎。その台詞。バトルモノだったら厳禁だよ」
アナエルがぱんぱんと服のほこりを払うように叩く。
「ヘルハウンドが消えたぞ!?」
「あれは魔術書で呼ばれた魔獣だからね。元の世界に還されただけのことなのさ☆ それにしても、良くあの不良達を助けるという決断ができたものだね。あれだけの事をされていたのに、助けるという選択肢を選べたのは上出来だよ」
「あんな連中でも死なれちゃ寝覚めが悪いからね」
光太郎がやれやれといったポーズをしながらそう言った。その決断自体、かなり迷ったものであったのは確かな事だ。
「あそこで彼らが死んでいたならばこの物語のジャンルはホラーとなって、場合によっては主人公が死ぬケースも考えられたんだから命拾いしたね☆」
「それは随分怖いメタな話だな!?」
「ともかく、正しい行いをしたものは報われる。光太郎に福徳ポイント1ポイント贈呈☆」
「そのポイントが貯まると何が起きるんだ?」
「何もおきません★」
「いらないポイントだなぁ・・・・・・」
「ともかく、ヘルハウンドは撃退できたね。これが私の本来の力なのさ☆ ブイッ☆」
アナエルが勝利のVサイン。調子に乗っている辺り、これは大金星なのかもしれなかった。
「ともかく家に帰ろう。なんだか疲れた・・・・・・」
光太郎達は家の方角へと向かって歩き始める。




