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21話目

 痺れが取れた光太郎はテレビの続きを見始めた。ちょうどバラエティ番組がやっている時間帯となっていたから、お気に入りの番組にチャンネルを変えていた。

 光太郎がふとテレビに表示されている時間を見る。


「母さんも父さんも、今日は本当に遅いみたいだなぁ」

「いつも遅くまでご苦労様です☆」

「まぁいつものことだけれどね。さて、先にお風呂に入ろうかなぁっと」


 光太郎が立ち上がった。


「むむっ、もうお風呂イベントですか・・・・・・天使的にはお風呂に乱入だなんて夢魔のごとき事をやるのにためらいがあるのですが、これもラノベヒロインだから仕方ないよね☆」


 風呂場に行こうとしていた光太郎が足を止めた。


「待つんだアナエル。お前に色気は期待していない。お風呂に乱入イベントは却下だ却下。それにお色気路線なら、お姉さんとかいるなら紹介してくれ」

「残念。私は一人っ子☆」

「それは無念だ。近所の麗しいお姉さんとかでもいいんだ。誰かいい人いない?」

「光太郎、お前年上好きか。エロいやつめ★」

「知的で優しい包容力のありそうなお姉さんが好みなんだ。お前みたいな奴はお呼びじゃないね! ・・・・・・ほんとうに来るなよ?」


 光太郎は念のため釘を刺してお風呂場へ行くのだった。

 かぽーんというお風呂場特有の音が鳴る。光太郎は湯船に浸かった。一日の疲れが癒される。

 光太郎は考え事にふけろうとする。が、しかしその思考は中断された。お風呂場の戸のすりガラスの向こう側に動く人影。何か服を脱ごうとしているかのようだ。


「ねぇ、光太郎。もしアニメ化されたらと考えると、このあたりでお色気シーンもここに入れておいたがいいと思うの☆」

「そんなことありえないからいらん事に気を回さなくていい!」

「えー、なにか神のご意思を感じたんだけれど☆」

「それまず間違いなく邪神だ邪神! 人の至福のひとときを邪魔しないでくれよ!」


 そもそもが親も同居の同棲関係で、親が何時帰ってくるかもわからないのに一緒にお風呂もこうもなかった。つまり、サービスシーンはなかったんだ。

 アナエルはあざとくもわざとらしいお色気シーンの導入を諦めて去って行った。

 光太郎が「ふぅ」とため息をついた。アナエルが来てからというもの心休まる気がしない。どんどんわけのわからない事に巻き込まれるばかりだ。

 だから一人でゆっくり考え事が出来るお風呂場は大事だ。布団の中と違って悪い出来事の妄想をする事もない。

 光太郎はお風呂を上がった。タオルで頭を拭きながら居間を通りかかる。ちょうど親も帰って来ているところだった。・・・・・・念のためお風呂イベントを取り下げておいてよかったと安堵している。

 入れ替わりでアナエルがお風呂に入りに行った。光太郎はそのまま二階の自室へと向かう。普段はそれほど親と会話するわけでもないのだ。だから親は喜んでアナエルの相手をするのだ。まるで娘が出来たような気分だといっている。

 光太郎が布団に潜り込む。布団の中で妄想する時は決まって嫌な事を思い出す。今日はせっかく買ったコーラとポテトとプリンちゃんが台無しになった。それもこれもあの不良のせいだ。だが、相手を避けているだけではこの問題は解決できないのだろう。今ならアナエルもいる。だから何とかなるのかもしれない。光太郎はそう考え始めていた。今までは誰かを当てにするという事が出来なかったので頼る真似ができなかったが、アナエルの天使としての力は本物だ。だからいざという時には助けてもらえるかもしれない。そんな希望的観測が見て取れた。

 人間相手ならアナエルの力でも十分に渡り歩ける。彼女が高校に入学してきたのもあるし、しばらくは一緒に暮らすつもりなのだろう。なら、高校を卒業するまでは頼る事ができるかも知れない。

 光太郎は自分の人生に希望を持ち始めてきた。今までは自助努力だけではどうにもできなかった。そう感じている。だが、外的要因でそれが覆されようとしているのだ。

 光太郎はそんな事を考え始め、そのうち妄想が止まらなくなった。何もかもがうまくいっている自分の人生。そんな事を夢見始めた。

 その一時の夢想が破られるのはすぐに訪れた。

 部屋のドアが開く。風呂上りのアナエルがやってきたようだ。しばらく親の話し相手をやってきたのだろう。


「光太郎。異変を察知した」


 アナエルを無視して眠ろうとしていた光太郎だが、アナエルの言葉に起こされる。


「異変って何だよ?」

「この街一体の人々の運命が大きく変わった。だから何かが起こっている」


 アナエルの表情は真剣なものだった。さっきまでのおふざけをしている時の雰囲気とは異なる。


「何かじゃわからないよ。で、僕は何をしたらいい?」


 光太郎が起き上がった。


「邪悪な気配を感じる。すごく身近に来ているみたい。外へ出て見回りをしようよ」


 アナエルからの提案。光太郎はすごく面倒に感じた。今まさに寝ようとしていたのだから。だが、そうもいかないだろう。自分の家のそばに何かが来ているというのなら、いずれ何かが起きてからでは遅い。


「しかたない。少しだけ付き合うよ」

「じゃあ、光太郎は預言の書を持っていて。あれがそばにあると天使の力も増幅するんだ」

「そういう事は早く言えよ!」


 光太郎は普段着に着替え、机の上に置いていた預言書を手に取った。


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