20話目
「嫌だけれど手伝うよ」
「では改めてよろしく。これは預言書を手にした者の使命のようなものだから」
「魔術書探しをするのは良いけれどさ。何をどう探すのさ。これまでのヘルハウンドの出現は何の目的も見えないものだったじゃないか。これでは犯人の狙いもわからない」
光太郎はお手上げポーズだった。
「そうなんだよね。まるで魔術書の力を試してたまたま呼び出したかのようだったねぇ★」
光太郎がふと何かに気がついたようだ。
「アナエルは召還者のそばにいないと力を発揮できないんでしょ。魔術書で呼び出したやつはどうなのさ?」
「そこは同じ。つまり、あのヘルハウンドを呼び出した輩はこの近辺にいるという事だね」
「物騒な世の中になったものだなぁ・・・・・・今までこういう事件が明るみにならなかったけれど、なぜにアナエルを召還した途端にこんな事件が発生するのさ?」
「あまたの物語の話に疑惑を差し込むとんでもない疑問だね。回答しよう。それはシンクロニシティの一種さ。光と闇の共振。悪事を働く者が現れ、私が召還される世界線へと移行した。世界にはあるべき姿に戻ろうとする力の働きも存在する。その自浄作用だよ。魔術書を用いて世界をあらぬ方向へと変えようとする者が現れるならば、その抑止力として私は現界する。これは因果律の話でもある」
「なんだ。僕の人生を変える為に現れたんじゃないのか」
光太郎が残念そうな顔をした。
「いや、私はその為に現れた☆ 因果律は個人の思惑の外側の話だよ。世界の選択ともいう。世界に望まれて行われること。物事は『結果そうなる』と言う話☆」
光太郎が頭を抱える。
「また小難しい話を。そんな設定や専門用語をたくさん並べられてもねぇ」
「私はこの世界の世界観についてを説明しただけさ☆ 天界の座学で学ぶような内容だから敬遠されがちだけれど、おおむねこんなところかな」
「なるほど、よくわからん。では犯人が動き始めたのも必然と言う話という事かな」
「その通り。私が魔術書によって世の運命が狂わされている事を検知出来るように、魔術書の所持者も預言書や天使の力の行使によって運命が覆されている事は検知できているのかもしれない。魔術書を持っているという事は、悪魔と契約しているという事だから。悪魔も運命に干渉する力を持っているんだ。だから運命が見えない相手は悪魔との契約者の可能性も高いんだ」
「じゃあ、成城ゆえの姿は最初どのように映ったんだ?」
「えっ、それは未来視でもはっきりと未来が見えない相手だったけれど・・・・・・」
「その時に魔術書の所持者かどうかは疑ったの?」
「いえ、徳を積んでいそうだったのでそうは思わず・・・・・・」
「じゃあ、天使がいるかもって思ったんだ?」
「いえ、天使自体珍しい存在なので、そうは思わず・・・・・・」
「なんか、お前ダメそう! どじっ子天使かなにかだっただろう!?」
アナエルが「うっ」と反応した。
「久方ぶりに下界に姿を現したから、カンが鈍っていたんだよ★」
「期待できねー! 犬を相手に必殺技も効いちゃいないみたいだし、どうにもならないだろう! あのアスモダイとか言う悪魔にもぱしっと弾かれていたじゃないか!」
「そこは召還者である魁光太郎の成長にご期待くださいという事で★」
「なんでそこで他力本願なんだよ!」
「天使も人の祈り、信仰心によって生活している面があるのでして、それらがないと生きていけないの」
「今の僕の信仰心の値はいくらぐらいなのさ?」
アナエルが光太郎の力量を測るようにまじまじと見る。
「えー、最大値が100とすると、マイナス34くらいですかね・・・・・・」
「悪い方に偏っているじゃないか」
「日本人は大体こんな感じだからねぇ。文句を言っても始まらないよ★」
「今から信仰心を捧げよとか言われても、もうそんな気にはなれないんだけれど。まずアナエルに神秘性とか微塵も感じないし」
光太郎の言葉に、アナエルがひどいショックを受けている。
「ひどいよ! それってサキュバスに『お前は色気がない』と言っているようなものじゃないか★」
「大体そんな感じ。というか、サキュバスって実在するの?」
「いますとも」
「いいなー。お姉さんキャラに誘惑されてみたいなぁ」
「妹キャラ系リリムのが人気みたいなんだけれどね。って、世話焼きお節介天使系女子はだめなの!?」
「どうも魅力がない。ラノベってヒロインの魅力が大事だと思うんだよ・・・・・・。まず、お前に色気がないし。ほら、天使らしくぺたん子だろう・・・・・・」
「女の色気が胸ばかりと思うなよ★」
「僕的には人外系ハーレムでもいいんだけれど」
光太郎があれやこれやモンスター娘で妄想を繰り広げている。
「むっ、邪念! ルミナス・アロオォォォ★」
今必殺の技が光太郎に炸裂する。光の矢が光太郎に突き刺さる。
「ぎゃやあああああああ! 痺れる!」
「ふっ、私が撃ったのは邪悪な妄念。悔い改めよ★」
と、そんなこんなでおふざけをしていると、あっという間に時間は過ぎていっていた。




