19話目
「大事な事なんだよ。さっき不良の子に抵抗したのは」
「どこかで見ていたのかよ。助けてくれても良かったのに!」
光太郎の怒りはおさまらなかった。怒りの矛先はきつく当たっても大丈夫そうなアナエルのほうへと向いていた。しかしだ。
「君は、困っていれば誰かが助けてくれるって思っているんだね?」
アナエルは真摯な瞳で光太郎を見つめた。その雰囲気がこれまでとは違った。
「そうしてくれてもいいのにって話をしているんだよ!」
「なら、君は困っている人の助けになろうとした事はあるのかな?」
アナエルの鋭い一言。その一言は少年の心にカウンターとして突き刺さった。
「そ、それは・・・・・・」
「自分が誰かの助けになろうとした事もないのに、困った自分を誰かが都合よく手助けをしてくれるだなんて、なんて甘美な夢想。甘い見通し。ご都合的な妄想」
アナエルの一言一言が光太郎に深く突き刺さった。
「ぼ、僕だって他人の役に立とうと思っていろいろやっているよ。宿題を写させたりとか・・・・・・」
「それは単純に気弱な君が、自分を都合よく利用しようとする輩に歯向かえずにいいように利用されているというんだよ」
光太郎は何も言えなくなった。
「そ、そんなことくらい僕にだってわかっているよ! だけど、断ると相手の気分を害するだろうなって思って・・・・・・」
「それはただの不正の助長をしているに過ぎない。相手の気分を害して自分に何か被害があるかもしれないと、そんな我が身可愛さからきた打算なんて、更なる悪縁を招き寄せるだけに終わるに決まっている。それが因果応報」
光太郎は己が正しいと思ってやっていた事さえ論破された。何も言い返せなくなっている。まるで自分の心の中が読まれているかのようだった。
「だ、だから何だって言うんだよ。僕の身に起こる出来事は僕自身の問題だとでもいうのかよ!」
光太郎はわめいた。それはもうみっともないくらいにわめいた。そんなことはあるかと全力で否定するかのようにわめいた。
そしてその光太郎に対するアナエルの返答は、光太郎が思っているものとは違っていた。
「そうではないよ。ただ、招きやすくなるだけ。先ほどの光太郎の話に照らし合わせると、光太郎がいい様に人に利用される事によって、こいつは何を言っても怒らないやつと侮られて相手を付け上がらせる。だから雑な扱いも受けるようになる。そしてそういう輩を招きやすくなると言うだけの事。類は友を呼ぶんだ。相手の同類が集まってくる」
「そんな! ラノベでそんな難しい話をされても、僕わからないよ!」
「純文学を気取って役に立つ話みたいなのをやりたい作者がいるとするじゃない。それに準拠した価値観で話が進められているだけだよ☆」
アナエルがウインクして人差し指を立てた。
「何度も言うがもっとエンタメ小説路線で行こうよ! 主人公的に苦労したくない!」
「却下します」
二度あることは三度ある。それこそもう取り付く島もなく。
「そんなの嫌だよ!」
「わがままは認めません。少年系の主人公の物語は成長の物語なんです。不完全なあり方から完全なあり方へと変わっていく物語なの。だからはやく成長してください」
「そんな生えてきたばかりの雨後のたけのこみたいになれないよ!」
「おや、都会っ子にあるまじき喩え方じゃない☆」
「作者が田舎育ちだからそういう喩え方になるんだよ、僕のせいじゃないよ」
「その話はひとまずおいておいて、ともかく成長するんだ☆」
「いったい何をどうすればよいのさ?」
「見返りを持たない善意による奉仕。こんなところとかどうでしょう。無償の愛です。愛、エターナル☆」
アナエルが手でハートマークを作ってにっこり笑った。
「いきなりそんな事を言われても、何をしたら良いのやら・・・・・・・」
光太郎は困り顔だ。それもそうだろう。光太郎は人のためという価値観で行動をしたことがない。
「ここはひとつ、世の治安を乱す魔術書探しに協力するという事で手を打ちませんか? 物語の展開的にもその方が都合がよいので」
「そんな作者の都合でキャラクターの行動が決まる小説があってたまるかよぉ!」
「それっぽく話が纏められていたところで、結局は同じ事だからぶっちゃけました」
「もっとこう自然に魔術書探しを始める導入は選べなかったの?」
光太郎は呆れた顔でそう言った。
「こう不良にいじめられて、あんなやつらみたいになりたくない。僕はもっと強くなりたいとか言い始めて改心するルートもあったんだけれど、光太郎が聞きわけがないからこうなりました★」
「よし、今からその路線で行こう」
「じゃあ、その方向で☆ 光太郎は強くなれるよ。誰よりも苦労を知っているもん☆」
「なんだか急に取ってつけたような褒め言葉だなぁ」
光太郎は合点がいかないといった風な表情で腕組みをした。
「展開を捻じ曲げるからこんな事になるんだよ☆」
「メタな話しだらけで読者も困っている事だろうね」
「まぁ、天使自体が高次の存在ですから☆ 作者と同じ次元に存在しています」
「ちょくちょく作者の姿がちらつくけれど、自己主張の激しい作者なんだね」
「今回のは作者の学生時代の人付き合いでの学びの話も含まれているからね。決して良縁ばかりだったわけでもなかったから」
「そんな話をされても、それこそ読者が困るって話だよ!」
「じゃあ、光太郎の話に戻そう。世のため人のために私の魔術書探しを手伝ってくれる?」
アナエルはすうっとまじめな表情をした。




