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18話目

 光太郎はいつものコンビニに向かった。雑誌棚の表紙をひとしきり見て回り、何か面白そうなものはないかを探す。並んでいるのは週刊誌かパチンコ雑誌、経済誌、女性向けの趣味の本ばかりだった。週刊誌については普段見ているものは既に読んでいた。食後のデザートにと大好物のプリンを手に取る。これは光太郎のたまの楽しみだった。コーラとポテトチップとプリンといういつものセットを買う。コンビニで買う品は大体決まっていた。光太郎はいつも通りに過ごしていた。

 会計を済ませてコンビニを出たとき、光太郎は異変に気がつく。


「よぅ、光太郎じゃねーか」


 コンビニの外にいたのはいつも光太郎をいじめている不良だった。


「あっ、為五郎君・・・・・・」


 光太郎はまずいところに出くわしたと思った。


「おまえよう、この間のやべー女と同棲してるのかよ。あれもお前の差し金だったのか?」


 不良はこの間アナエルに矢を射掛けられた時の事を話していた。


「あれはあいつが勝手にやった事で・・・・・・」

「やってくれるじゃねーのか。あの後ずっとしびれたままで大変だったんだからな。どうしてくれるんだよ?」


 矢を射掛けられてしびれるとはどういう原理なのだろうと、光太郎はそんな事を考えていた。


「文句があるならアナエルに言ってくれよ!」

「今はお前一人か? あの女はちょうどいないのか。ならちょうどいい」


 不良は不意に光太郎の顔面を殴りつけた!


「ぐわっ!」


 光太郎は思わず尻餅をついた。コンビニ袋が放り出されて地面に落ちる。中のコーラがしゅわしゅわと泡立ち、プリンはひっくり返って中身がぐちゃぐちゃになった。


「邪魔が入らないようで何よりだ。光太郎よぉ、これでおあいこだなんて思っちゃいネーだろうな? こっちは仲間までやられてんだからよ、てめー、治療費と慰謝料持って来い」


 不良はまたしても光太郎に金をたかった。これは金だけの問題ではなく、面子の問題となっているのも面倒な点だった。光太郎から金を巻き上げられないと、為五郎と言う少年もその程度のやつ、と仲間から認識されるからだ。


「そんな! 僕そんなお金ないよ!」

「こんなものは買っている余裕があるんじゃネーか」


 不良は地面に落ちていたポテトチップスの袋を踏みつけてぐちゃぐちゃにした。ばつんと袋が開けて、ばりばりと中身が割れていく。


「なんで僕がこんな目に遭わなきゃいけないんだよ! こんなのおかしいよ!」

「光太郎の癖に生意気なんだよ!」


 地べたに座ったままの光太郎に対し、不良が蹴りを入れた。


「うぐっ! 僕は何もしていなかったのに、どうしてこんなひどい事されなきゃいけないのさ!」


 光太郎が半泣きの状態だ。


「それはお前だからだよ。お前はこの先もずっとこの調子に決まっているだろう」


 不良の心の中で行われる格付け。これで格上と思う相手にはこびへつらいご機嫌取りをし、格下と思う相手にはどこまでも調子に乗ってずうずうしい態度や尊大な態度を振舞う。すなわち動物のようなあり方。不良の少年はまさにそんな生き方だった。

 光太郎も、そんな道に堕ちるか否かの瀬戸際に立った。


「そ、そんなの。そんなのいやだー!」


 光太郎が立ち上がり、不良に突撃する。人を殴るような真似をしたことがなかったので、体当たりをするしかなかった。

 どすんと不良の腹部にタックルをする光太郎。だが、相手を倒すまでには到底至らない。


「やりやがったな、この野郎!」


 不良が光太郎に殴る蹴るの暴行を加える。光太郎はぼこぼこにやられてしまった。

 ぼろぼろになった光太郎がはいつくばる。


「ううっ・・・・・・」


 光太郎が呻く。


「今日はこれくらいにしといたらぁ!」


 不良は光太郎につばを吐きかけるとそのまま去って行った。

 光太郎はよろよろと立ち上がる。無残に散らばったコーラやプリンをそのままに、光太郎は家へと帰った。


「おかえりなさい」


 アナエルは救急箱を持って家で待っていた。


「・・・・・・なんだよ、それ。僕がどんな目に遭うのかわかってて待っていたのかよ」


 光太郎は更に不機嫌になった。


「それはついてくるなって言われちゃったから」


 それは確かに光太郎が言った事だった。


「わかっていたなら教えてくれても良かったじゃないか!」


 光太郎は激怒した。だが、アナエルも外出しようとする光太郎を止めようとしていたのだ。


「その・・・・・・結構大事な岐路になるようだったから、そのままにした」

「何が岐路だよ!」


 アナエルが光太郎の傷の手当をしようとする。しかし、光太郎はその手を振り払った。


「強いものにこびへつらい、弱いものにつけあがる。そんな在り方を脱却できるか否かの、分岐点」

「なんだって、僕がそうだというのかよ!」


 光太郎は激昂した。しかし、それは図星だったのだ。外では周りの顔色を伺いながら、家では親に強気で当たる。何でもいう事を聞いてくれそうなくらいに都合のいい存在のアナエルには平気でひどい事をする。まさに畜生だった。


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