14話目
そのまま放課後になる。光太郎は席を立った。それを見たアナエルも立ち上がる。
「帰るの? 一緒に帰ろうよ☆」
アナエルの何も考慮しない発言。それは光太郎がアナエルと親しい間柄だと邪推させるには十分の内容。男子からも女子からも様々な視線を受ける光太郎。
「ちょっと呼び出しを受けているんだ」
「じゃ、一緒に行くね」
「なんでだよ!」
二人は周りに夫婦漫才でもやっているかのように見られていた。わいわいきゃっきゃしながら二人は教室を出て行く。それを面白くない目で見ているものが一人。光太郎をいじめていた不良だった。
「あの時の女が転校してくるだと? ちっ、面白くねえぜ!」
為五郎が一人席で毒づいていた。
そんなことは知らずに光太郎はアナエルをつれて屋上へと向かう。
屋上に出るドアを開けるとそこは青空の下。照らし出される太陽の日差しが降り注ぐ。その屋上に成城ゆえはいた。どうやら一人きりのようだった。
「来たわね。・・・・・・あら、そちらの女性はどなたかしら」
成城ゆえがアナエルを見咎める。
「あぁ、気にしないでくれ。今日やってきた転校生なんだ」
光太郎は無難にそう説明した。
「あらそう。あなた、面倒見がよいのね」
ゆえは好意的に解釈したようだった。
「で、今日は何の御用ですか?」
光太郎が本題に入ると、ゆえの様子がおかしい。アナエルを見ては何か考え事でもしているかのようだった。
「そう。そうなのね。そちらの外国人の方、あなた天使でしょう?」
ゆえがそう切り出してきた。驚く光太郎とアナエル。
「なぜ、人間にうなく化けたのにばれたのかしら★ 確かに私は天使ですけれど、あなたは?」
アナエルに問われて、再びゆえは何か考え事を始める。
「私の名は成城ゆえ。・・・・・・えぇ、そうしましょう。出てきなさい、ザフキエル」
ゆえがそういうと、ゆえの背後にずあっと人影が現れる。姿を現したのは、これまた金髪に緑色の瞳をした青年男性。背中には翼がなく、車輪が浮かんでいた。
「背中のあれはホイール・オブ・ガルガリン! 座天使!? そんな高位の天使がなぜ地上に!?」
アナエルがひどく驚いている。
「いかにも私は座天使のザフキエル。あなたは何者だ。名を名乗りなさい」
ザフキエルは高圧的にアナエルに接している。
「私はハニエルの子、アナエル。天使の位にいます」
アナエルは畏まって答えた。
「ハニエルの子か。噂は聞いています。それがあなたですね? 天界一のはねっかえりの娘が人の守護天使になったとは。大分成長したようで」
ザフキエルはうんうんと頷いていた。
「なぁ、アナエル。座天使って?」
光太郎が話についていけずにアナエルに話しかける。
「天界第三位の階級の天使で、物質の体を持った天使ではもっとも高位の存在なのよ。ザフキエル様といえばその座天使の指導者。最も偉いお方なの★ それがなぜ地上に・・・・・・」
光太郎はアナエルが畏まっていた理由を知った。
「なぁ、アナエル。お前は天使の階級ではどのくらいなのさ?」
「えっ、天使は第九位の存在。つまり最下級よ★」
アナエルは言いにくそうにそう答えた。
「なんだよ、やっぱりお前たいしたやつじゃないじゃん!」
「ひどいなー。地道に出世していくしかないじゃない。私だってようやくこれと言った人間にめぐり合えたんだから、これからの天使なのさ☆」
「あぁ、なるほど。あなたがアナエルの守護対象の人間ですか。ふむふむ」
ザフキエルが興味深そうに光太郎を見ている。
「ザフキエル、話を続けなくてよろしくて?」
ゆえがたまらず話を挟みこんだ。話が本題から外れている事を察したのだ。
「そうでしたね。さて、我々は今、魔術書の行方を追っている。この地に魔術書を悪用している者の気配があったため、我らはその犯人を捜しているのです。あなた達はなにか心当たりありませんかね?」
ザフキエルが尋ねる。その物腰は優雅であり上品であった。
「はい。昨日ヘルハウンドをみかけました。退治する事ができずに逃げられてしまいましたが★」
アナエルはおずおずと答えた。
「なるほど。昨日一つの命が救われたのは観測していました。あなた方の仕業だったのですね。よくやりました」
ザフキエルがアナエルを褒めると、アナエルは「えへへっ☆」と嬉しそうにしていた。
「あなたの事は調べていたわ。魁光太郎君。学校ではあまり目立たないようだけれど、預言書に見込まれたのならばひとかどの人物になるのでしょうね」
ゆえが話しに加わってきた。
「預言書に見込まれるって、僕は何かをした覚えはないんだけれど・・・・・・」
光太郎は預言書を古書店で貰ってきただけなのだ。たまたまの出逢いでしかない。
「預言書に見込まれるには天使に試されるの。私はザフキエルの書を手にしてだいぶ立つけれど、あなたはその子の書を手に入れてどのくらいなのかしら?」
「まだ二、三日だよ。だから天使の話もまだよくわかっていない」
光太郎のせりふにゆえが驚いた。
「まだそんなものだったの!? それでヘルハウンドを撃退しただなんて・・・・・・」
ゆえの言葉にザフキエルも頷いた。




