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11話目

 学校からの帰り道。太陽で照らされて陽炎が立っているかのようなアスファルト。まだ日が高く、外を歩いているだけで汗が出る暑さだった。

 光太郎は住宅ばかりの何もない場所を通り抜ける。人気のない道に差し掛かった時のこと。


「ここなら姿を現してももう大丈夫だよね☆」


 光太郎のすぐ横に、アナエルがすーっと姿を現した。


「いや、その格好で人目に付いたら目立つだろう!?」


 アナエルは頭上の光輪は輝いているし、背中に白い翼を持っているから、一目につくなと言うほうが無理な話だった。


「光輪の輝きは天使の矜持。背中の羽は天使の美の象徴。それを隠すだなんてとんでもない☆」


 アナエルが自分で思っているであろうセクシーポーズをとってみせる。しかし、光太郎には効果はないようだ。


「これ以上変な噂が立てられても困るんだけれど」

「君の人生にはたいした影響はないから安心したまえ。それよりさっきから気になっていることがある」


 アナエルが何かに警戒したかのように辺りを見回した。


「気になること?」


 光太郎もアナエルにつられて周りを見回す。しかし何もない。あるのは静かな住宅ばかり。


「何か邪悪な気配を感じる。これはどうやら何かとエンカウントするようだ★」

「ロールプレイングゲーム調に敵と鉢合わせるのかよ! お前と関わってからはろくな事がないな!」


 光太郎は心底嫌そうな表情を浮かべていた。


「そんなことはないよ。異変はもとからあった問題だ。私はその状況にたまたま現れたに過ぎない。うーん。未来がぼやけて見える。何かの干渉を受け続けているようだ★」

「未来がぼやけていると何が起きるのさ?」

「未来が定まっていないんだよ。つまりは地上の人間だけでなく、何かしらの存在の影響を受け続けているという事だ。これは邪神や悪魔が関わっているかもしれない★」


 アナエルが非常に深刻そうな表情をした。


「お前が深刻そうな表情をしても、何か問題があるようにはとても思えないんだが。チート能力で何とかしたらどうなんだ?」


 光太郎は他人事といわんばかりの態度だった。それもそうだろう。アナエルの問題に関わるつもりは毛頭ないからだ。


「そこ、そこの路地裏に何かいる」


 アナエルが指差したところには横道があった。と、その横道を通行人のおばさんが横切ろうとした。・・・・・・横道から何か大きい塊が飛び出す。


「あれは・・・・・・犬?」


 光太郎は目を疑った。人よりも更に巨体な犬が通行人にのしかかっている。赤黒い体毛に覆われ、その目は真紅に輝いていた。とても普通の動物には見えない。その犬がまさに通行人の喉笛を食い破ろうとしていた。


「ルミナス・アロー! シュート☆」


 アナエルが咄嗟に光の矢を放つ。矢の狙いは違わず犬を捉える。

 チチッ! という鈍い衝撃音。犬は吹き飛ばなかった。アナエルを睨み返している。


「シュート★ シュート☆」


 連続して放たれる光の矢。犬が矢を避ける為に通行人の上から動いた。通行人が慌てて逃げ出してゆく。


「ぐるるるるるるる!」


 犬が唸り威嚇してくる。その声は地獄のそこから響いてくるかのような重低音だった。


「全然効いていないじゃないか!」


 光太郎は叫んだ。それが余計に犬を警戒させる。


「私の力の源は君の精神力の強さなんだよ! 今の君の精神力じゃ、私の必殺技もこの程度だよ★」


 犬は転進して横道へと逃げ込んでゆく。二人が横道の入り口に駆け寄って路地裏を覗き込むと、そこには既に犬の姿はなかった。どうやらいずこかへ逃げたらしい。


「あんなやばそうな奴を野放しにしたらまずくないか!?」

「今の私じゃどうする事も出来ないよ★」


 そんなやり取りをしていると、先ほどの通行人が警官達を連れて戻ってきた。


「すみません。この辺りで大きな犬を見かけませんでしたか?」


 警官が敬礼をしながら尋ねてくる。


「それならこの横道の方へと逃げていきました」


 光太郎は犬が逃げて行った路地裏を指差した。


「ご協力感謝いたします!」


 警官達はそのまま路地裏の方へと向かっていった。


「あんた達大丈夫だった?」


 先ほどの通行人のおばさんが光太郎達に話しかける。


「はい。あんな大きな犬ははじめて見ましたので驚きました」


 光太郎が答える。


「そっちの変わった格好のお嬢さんが何かをやってくれなかったら危なかったわぁ」


 おばさんの体は小刻みに震えていた。先ほど犬にのしかかられた時の恐怖で震えているようだ。


「私は当然の事をしたまでです☆」


 アナエルは心なしか得意げにそう語っている。


「じゃあ、あんた達も気をつけて帰るんだよ!」


 そういうとおばさんは去って行った。


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