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10話目

 光太郎が学校に着いたのは始業1分前だった。いつもはこんなぎりぎりには登校しない。周りの様子も見ずに自席へと飛び込む。

 その時周りではささやき声が聞こえ始めていたが、あっという間に授業が始まるのでやがてささやき声はなくなった。

 いつも通りの授業が始まる。が、しかしであった。


「ない!」


 光太郎は焦りながら鞄を漁る。朝適当に詰め込んできたから、教科書の忘れ物をしたのだ。仕方がないので授業を受けている振りをしながらやり過ごすばかりだ。

 とりあえず黒板の内容をノートへと書き写すだけはやっておく。


「・・・・・・であるからして、だな。魁光太郎、教科書の問い①を解いて見なさい」


 教師が光太郎の名を呼ぶ。

 運悪く授業で当てられた。つい先日も別の授業で当てられたばかりなのに当てられるのだから、運がないという他ない。

 光太郎が立ち上がりしどろもどろになる。教科書がないので設問内容がわからないのだ。


『おい、アナエル。答えを教えてくれよ!』


 光太郎は天にも祈る気持ちでアナエルに祈った。


『これは光太郎の失敗によるものなんだから、ずるはよくないなぁ。よって答えは教えられません★』


 返ってきた答えは光太郎が望んでいたものとは違っていた。


「おい魁、どうした。答えられないのか?」


 教師が問いただす。


「・・・・・・はい。わかりません」

「仕方ない、ではこの問題を御剣瀬怜奈、解いて見なさい」


 設問の回答者は別の者に変更された。光太郎がおとなしく席に着く。「こんな問題もわからないなんて!」と教室内にあざけりの笑い声がささやかれ始める。光太郎が何かにつけて失敗するような時は、いつも決まってこのようにあざけりを受けてきていた。

 光太郎は赤面して椅子に座っている。いつもこうなのだ。成功しても失敗しても何かと恥をかかされるようなことになる。だから光太郎は何もしない事を選択する消極的な人間に育っていた。



 そんなこんなでようやくすべての授業が終わる。光太郎はふといじめっ子の不良のほうを見た。・・・・・・普段どおりの様子だった。光太郎はほっと胸をなでおろす。

 と、そこにたまに会話をする男子生徒がやってくる。前日にノートを貸した男子生徒だ。


「おい、光太郎。噂で聞いたんだが、お前、あの不良グループに矢を射掛けた女を連れ歩いていたんだって?」


 光太郎は思わず吹き出した。事実であるが、実際人から話をして聞くととんでもない内容だった。


「確かにそんな出来事があったが、矢を射掛けた奴とは偶々一緒にいただけで・・・・・・」


 自己弁論しようとする光太郎であったが、男子生徒は冷ややかな目で光太郎を見ていた。


「おまえ、後であの不良グループに何されるかわかんねぇぞ・・・・・・じゃあな」


 男子生徒は光太郎から離れて行った。巻き込まれたらたまらないといわんばかりの態度だった。

 周りの生徒達が危ない奴を見るような目で遠巻きに光太郎を見ていた。光太郎がそのいつもと違う雰囲気に気がつく。あの不良も光太郎を凄い目つきで見ていた。たまらなくなって、光太郎は教室を飛び出す。

 学校の廊下を早歩きで光太郎は歩いている。


『おい、アナエル。変な噂が立っているじゃないか。これもお前の狙った筋書き通りの展開なのかよ』

『まぁ、そんなところかな。なんでもかんでも思い通りとはいかないよ★』

『どうするつもりだよ! お前、責任取れるのかよ!』


 と、光太郎が心の声でアナエルとケンカをしていると、


「あら、あなた。お待ちになって」


 と、女性の声。光太郎は廊下で不意に呼び止められた。


「はい?」


 光太郎が振り返ると、そこには本を手にしたセミロングの美少女が立っていた。光太郎は彼女の名を知っていた。学年一の美少女といわれる成城ゆえだった。

 光太郎はなぜ自分がそんな女性に話しかけられたのか理解できなかった。これまでは一切の接点がない。そもそもが女性との接点自体がないのであるが。


「あなた・・・・・・最近何か変わった事はなかったかしら?」


 ゆえは抽象的な質問をしてきた。それは狙いもわからず、何が聞きたいのかも曖昧なものだった。

 光太郎はアナエルとの出来事を思い浮かべた。流石にその事を話すのは躊躇われる。


「いえ、特に何もないです」


 光太郎はそう答えるのが限界だった。


「あらそう・・・・・・呼び止めてしまってごめんなさい」


 そういうとゆえは去って行った。


「なんだったんだろう」

『んー、今の女性。変わった雰囲気をしていたね。なんだろう。近しい何かのオーラも感じたけれど・・・・・・ん。あの人の周りの未来が見えない。なんだろう』


 アナエルが何か気になる事を言っている。


『何でもいいさ。さっさと帰ろう』


 光太郎は下駄箱でそそくさと靴を履き替えると、振り返りもしないで学校を出て行った。今日の学校も一段と居心地が悪かったのだ。長居は不要と立ち去った。


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