第四章 探し物はなんですか
修行を終えて、レギオンのホームに顔を出すとテトラとシアがなにか話をしていた。
「いいところにきたなグレン!」
「なにか用事ですか?」
呼ばれたので二人ところに行く。
「そろそろお前も冒険者ギルドからの依頼を受けてみないか?」
確かに俺もこのナイトレイヴンに入ってからそれなりの時間がたっている、その間の生活費はテトラ達に工面してもらっていたので修行が終わった今がその時かもしれない。
「安心して、グレン君一人じゃなくてしばらくは私達二人が一緒に依頼を手伝うから」
シアがそう補足する。
「それにDランクじゃたいして危険な依頼はないからな」
「わかりました、依頼を受けてみたいと思います」
「それじゃあ、冒険者ギルドに行くとするか!」
俺達は冒険者ギルドに向かって歩き出した。
「Dランク、Dランク」
俺は掲示板に貼ってある依頼を探す。
『近くの平野で薬草採取』
『川の清掃』
『近くの村までの護衛を募集中』
「うーん」
どれもいまいちパッとしない。
修行をした自分がどのくらい戦えるのか知りたかったが、あいにくモンスターの討伐依頼はなかった、正確にはDランクにはなかっただが。
「どうだ? なにか見つかったか?」
「どれもピンとこなくて」
「まあ、小さい事からコツコツやるのが一番よ」
依頼を決めかねていると受付が騒がしい事に気がついた。
「チェシャを、猫を探してほしいの!」
「お嬢ちゃん、ちゃんとお金は用意してきた? ここはそういう場所なのよ」
受付嬢が困ったように五歳くらいの少女に質問している。
「お金ならあるの!」
少女が勢いよく懐からボロボロの布袋を取り出す。
「ちょっと待ってね、今数えるから」
受付嬢が布袋の中身を丁寧に調べる。
「銅貨三十枚ね、少し足りないかもしれないわ」
「そんな」
少女が涙目で受付嬢に詰め寄る。
「チェシャは大事な家族なの、絶対に見つけてほしいの!」
少女が懇願するがここは金を稼ぎにきている冒険者達しかいない、受付嬢がどうやって説得しようか考え始めたあたりで声をかけた。
「お嬢ちゃん、その猫は大切な家族なんだよな?」
「そうなの! でも一週間くらい前からいなくなっちゃったの」
「その依頼、俺達が受けます」
「いいんですか?」
受付嬢が驚いた顔をする、まあこんな依頼を受ける物好きは俺くらいみたいなものだ。
「わかりました、正式にDランクの依頼として受付ます」
「相談もせず決めてしまい、ごめんなさい」
俺はテトラとシアの二人に頭を下げた。
「私達はいいけどお前はいいのか? 銅貨三十枚はかなり安いぞ」
「俺はいいんです、それよりもこの子がかわいそうで仕方なかったもので」
「やっぱりテトラの判断は間違いなかったようね」
シアが嬉しそうに微笑む。
「やっぱりグレンはうちのレギオンに向いてるぜ、貧乏くじを引きに行くところとかな」
テトラも豪快に笑う。
「それじゃあ、依頼開始だ!」
こうして俺の冒険者としての初めての依頼が始まった。
「早速だけどお嬢ちゃん、名前はなんて言うんだい」
俺はしゃがんで少女と同じくらいの目線で話しかける。
「私はアリス! 探してほしいのは黒猫のチェシャっていうの!」
少女、いやアリスは元気よくこちらの質問に答えてくれた。
「アリスちゃん、なんでもいいからチェシャって子の特徴を教えてくれるかしら?」
シアがそう質問するとアリスちゃんは「うーん」とうなりながら必死に言葉を探して、ポツポツと語りだした。
「チェシャはね、オスで真っ黒な毛をしているの! でもお腹のほうは逆に真っ白なの! それとそれとお目目は金貨みたいに金色なの!」
「よく思い出したね、アリスちゃん」
「えへへ」
俺はアリスちゃんの頭を撫でるとどうやって探すか考え始めた。
「猫のたまり場か」
俺は街の地図を頭で描きながら、猫が集まっていそうな場所を絞る。
「ちょっと思いついた場所があるのでついてきてください」
俺はみんなを連れて冒険者ギルドを後にした。
「この辺りか」
俺達は商店街の特に食料を扱っている地区を訪れていた。
売れ残って捨てられる残飯を狙ってカラスや野良猫がいる場所が何か所かあるのでそこを探す事にしたのだ。
「アリスちゃん、この中にチェシャはいる?」
「いないの」
アリスちゃんが残念そうに野良猫の一団を見つめる。
「それじゃあ、次にいこうか」
「ちょっと待てグレン、私にいい考えがある」
別の場所に移動しようとした俺達にテトラが待ったをかける。
「なにをするつもりですか?」
「猫達と話してくる!」
俺の視線が途端に胡散臭いものを見る目に変わるのがわかる。
「ちょっと待ってろ」
テトラは静かに猫達に近づいて行った。
「シア、テトラのアレは本気なんですか?」
「あはは、たぶん本気、暇な時間に猫達と一緒になっているところを見た事が何度かあるから」
シアは苦笑いでテトラを見つめる。
「シアはテトラと一緒のレギオンに入って長いんですか?」
猫達の事はテトラに任せて俺は二人について聞いてみた。
「そんなに長くないわ、五年くらいね」
「どうやって知り合ったんですか?」
「お互いにその頃はソロで冒険者をやっていてね、偶然同じ依頼を受ける事になったの」
「それで?」
「他にも同じような冒険者がいて亜人族なんかと組んでいられるか、ってなって案の定喧嘩になったのよ」
「それは、想像できますね」
俺は喜々として冒険者に殴りかかるテトラの姿が浮かんだ。
「その時からかしらね、噂を聞きつけた亜人族の冒険者がテトラのところに集まりだしたのは」
「それがナイトレイヴンの始まり?」
「そういう見かたもあるかしら」
シアは過去を懐かしむように猫達と会話するテトラを見つめる。
エルフという長命の種族からしたら五年なんてあっという間だろうに、それほど濃い時間が二人にはあったのかもしれない。
「うにゃあ? にゃあ、にゃあ」
テトラが猫達に別れを告げてこちらに戻ってきた、本当に猫の言葉なんてわかったのだろうか。
「チェシャらしき猫の情報を掴んだぜ!」
「本当なの!? お姉さん凄いの!」
アリスちゃんが尊敬の目でテトラを見る、これでウソだったらテトラの神経はよほど、ず太いのだろう。
「それでチェシャはどこにいるんです?」
「ここにはいないが商店街にある魚屋の近くで見たらしい、行ってみようぜ」
俺達はテトラの道案内でその店に行く事になった。
「黒い野良猫? ああ知っているよ、最近うちの店にある魚をよく盗んでいくんだ」
テトラの案内で到着した魚屋の店主に聞くと本当にチェシャの情報がでてきた、猫と話せるというのはあながち間違いではないのかもしれない。
「その猫は今どこに?」
「こちらも気をつけているんだけど時間はまちまちでね、いつ現れるかわからないんだ」
店主はそう答えた。
「もしかしてその猫の飼い主? だったら早く捕まえてくれないかな? 盗られた魚を返せとは言わないけど、これ以上はちょっとうちとしても勘弁してほしいところなんだ」
「ごめんなさいなの」
アリスちゃんが悲しい目で謝る。
飼い主とはいえ猫の責任をこの幼い子供に押しつけるのは酷だろう。
そんな話をしていると小さな黒い影が店の魚を盗んでいった。
「チェシャ!」
「追うぞ、私とグレンはこのまま追いかける、シアは回り込んでくれ!」
「了解よ」
そう言うとシアは軽やかに屋根に降り立ち走りだした。
俺達もチェシャを見失わないように追いかけなければ。
俺はアリスちゃんを抱えて走り出した。
「追い詰めた!」
数分後、俺達は川が流れる橋の上で挟み撃ちにするかたちでチェシャを追い詰めた。
「チェシャ!」
アリスちゃんが悲痛な声でチェシャに呼びかけるが、チェシャは興奮して威嚇してきた。
「落ち着けって話はちゃんと聞いてやるからよ」
テトラが少しずつチェシャに近づいていく。
「あ!」
するとなにを思ったのかチェシャは橋から川へとダイブした。
「ちっ!」
「グレン!」
俺は軽く舌打ちをしながらチェシャを追いかけて川へダイブした。
捕まえたけど、手足が重い。
俺はチェシャを捕まえる事に成功したがクロム鋼製のガントレットとブーツが予想以上に重く溺れそうになる。
「!」
意識が遠のきかけた時、手を差し出される、俺は無意識にそれを掴んだ。
「ぷはっ」
俺は水面へと引っ張り上げられて息を大きく吸う。
「死ぬ気かバカ野郎!」
俺を引っ張り上げたテトラが怒り心頭といった様子で叫ぶ。
「すいません」
「今度からはもう少し考えてから行動しろ」
「はい」
「二人とも大丈夫?」
シアが岸から心配そうな声を上げる。
「なんとかな」
「こちらも」
「そう、よかった」
「チェシャ!」
アリスちゃんがずぶ濡れのチェシャに歩み寄る、今度は興奮した様子もなくおとなしくしている。
「みなさん、ありがとうございます、チェシャを見つけてくれて。さあ、帰るよチェシャ」
アリスちゃんが移動しようとすると今までおとなしかったチェシャが暴れ出す。
「アリスちゃん、ちょっと待ってなあたしが話をつけてくる」
そう言うとテトラはまた不思議な猫語? を使ってチェシャと会話を始めた。
「よし、だいたいの事情はわかった!」
「本当なの!」
「あたしが話すよりチェシャについて行ったほうが早いな、みんなついていこう」
チェシャは時々、後ろを振り向きながら、こちらのペースに合わせて歩いていった。
「わあ!」
チェシャの後を追いかけるとそこには一匹の真っ白な猫と数匹の子猫がいた。
「チェシャの子供達だ」
テトラがそう言うとチェシャが白猫に寄り添う。
「チェシャは動けない母猫の為に魚を盗んでいたんだ」
「そういうことだったの」
「どうしたい、アリスちゃん?」
俺はアリスちゃんに語りかける、ここでチェシャをつれて帰ってもまた逃げ出すだろう。
かといって子猫を全部、面倒をみるのは難しいだろう。
「あのね、お兄さん達にお願いがあるの」
「なんだい?」
「子猫達の面倒をみてくれる人を探してほしいの! お金はアリスが頑張って後で払うから、お願いします!」
アリスちゃんが涙目で頭を下げる。
俺達は視線を交わす、二人は俺の考えがわかっているのか、うなずいてくれた。
「よし! 乗り掛かった舟だ、子猫達の面倒をみてくれる人を俺達が一緒に探してあげよう!」
「ありがとうなの! お兄さん大好き!」
アリスちゃんが飛びついてくる。
俺は猫好きの人を頭の中で何人かリストアップしながら、迷惑をかける二人にアイコンタクトで謝った。
「よろしくお願いします」
「お願いなの」
「この子猫は責任を持って育てるよ」
俺達は老婆に頭を下げる。
子猫の里親探しに三日かかった、今のが最後の子猫だ。
猫を飼ってくれそうな人やアリスちゃんの友達をしらみつぶしにあたって、なんとか全員引き取り手がみつかった。
「お兄さん達、あらためてありがとうなの!」
そう言うアリスちゃんの手の中には二匹の猫がいた。
黒い猫がチェシャで白い猫がクレセントだ。
二匹の猫はアリスちゃんが両親を説得して飼う事を許されたのだ。
これで俺がナイトレイヴンに来てから初めての依頼達成となった。
正直、最初の依頼料では赤字だが、まあ、悪い気分ではなかった。
「アリスちゃん気をつけるのよ、オスとメスを一緒にしたら子供ができるんだから!」
シアがお姉さんらしくアリスちゃんに注意をしている、その姿はまるで本当の姉妹のようだった。
「わかったの!」
「もう、本当にわかっているのかしら?」
「子供にあんまり無理言うなよ」
テトラがやれやれといった態度でシアと話す。
「お兄さん、お兄さん、ちょっとこっち来てなの」
「どうした?」
話しこむ二人から離れるようにアリスちゃんが呼んでくる、俺は素直についていき、しゃがんで目線を合わせる。
「アリス、今は子供だけど、大人になったらお兄さんのお嫁さんになってあげるの」
そう言うとアリスちゃんは俺の頬にキスしてきた。
「バイバイなの!」
それを最後にアリスちゃんは走り去ってしまった。
「「ロリコン」」
「違いますから!」
どうやら最後のキスを見られていたようだ、二人からの視線が妙に冷たい。
「グレンは幼女が好きだから、この依頼を受けたんだな。レギオンのリーダーとしてしっかり見張らないと、身内から犯罪者を出すわけにはいかないからな」
「これだから男ってやつは」
「そんなんじゃないですから!」
「それとも平たい胸が好みか? それなら目の前にいるぞ?」
「これ以上、グレン君をからかうのはかわいそうよ、そこら辺にしときなさいよテトラ」
「悪い、悪い、グレンがあまりにも面白い反応を示すから、つい」
テトラが舌をだして軽く謝る。
「二人ともすいません」
「どうしたのグレン君、急に?」
シアが首をかしげる。
「俺の勝手で二人をつきあわせてしまったから」
「グレン、そういう時は謝るんじゃなくてありがとうだろ? こっちだって勝手にやった事だしな」
「ありがとうございます、二人とも。今は金がないですけど、これから一生懸命に働きますから!」
「払えなかったらお婿さんな」
「「ぶっ!?」」
テトラの発言にシアと二人で吹く。
「ちょっとテトラ何言っているのよ! グレン君が反応に困っているじゃない!」
「あたしみたいなガサツな女は嫁の貰い手が少ないからな半分は本気だぞ?」
「なおさらタチが悪いじゃない!」
俺は二人の会話を聞きながら真っ赤になっているしかなかった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「今後どうなるのっ……!」
と思ったら
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