その2
「まずは服だな」
「そうね、ボロボロの服のままじゃ可哀想よね」
「それならいい店を知っています」
「グレン君は商店街に詳しいの?」
「ええ、雑貨とか買いに何度も来てますから」
「それじゃあグレンお勧めの店に行くか」
俺達は目的地に向かって歩き出した。
「なにこの店、いい趣味してるじゃない、しかも安い!」
メインストリートから少し外れた服飾店に入るとシアが驚愕していた。
「服の事はあたしにゃわからん、シアに任せる」
「もちろんよ、グレン君を可愛く、もといカッコよくしてみせるわ」
テンションが高いシアに対してテトラは欠伸しながら店の端っこに陣取った。
十分後、俺はシアの選んだ服に着替えたのだが。
「おかしいなと薄々感じてましたけど、これ女性用ですよね?」
俺は現在、ピンクをメインとしたフリルつきの服を着ていた、もちろんスカートだ。
「グレン君は中性的な顔立ちだから女の子服も似合うのがいけないのよ!」
シアは「はぁはぁ」と鼻息荒く語った。
その後も女の子ものばかり選んでくるのでテトラに目線でヘルプを求める。
(なんとかしてください)
(似合っているぞ)
親指を立てられた。
ここに味方はいないようだ。
されるがままに時間が経っていた。
「いやあ、いいものが見られてお姉さん満足だよ!」
シアは満足そうに傾いた太陽を眺めて言う。
俺の中でシアがやべぇやつなのではないかという疑問が浮上してきた。
結局、藍色の男物の服を買って店を出た。
次からは自分一人で来ようと秘かに俺は誓った。
その後はなんの問題もなく雑貨を買って、買い物は終了となった。
「それにしてもグレン君は色々なお店を知っているのね、思っていたより安くすんだわ」
「まあ、この辺りの店はだいたい把握していますから」
「じゃあ次はグレンの知らない店を紹介しないとな」
そう言ってテトラはニヤリと微笑んだ。
「ここは?」
連れてこられたのはいつも看板がクローズの店だ。
「閉まっているじゃないですか」
「まあ、見てろって」
そう言ってテトラはドアを叩く。
「ドワーフの酒は?」
「ノームの恵み」
中から渋い男性の声が聞こえてきた、暗号だろうか? 男性の質問にテトラはよどみなく答える。
そして三人で店の中に入ると中は武具が所せましと並んだ空間が広がっていた。
店の奥には立派な顎髭をたくわえたドワーフと思われる、身長の低い男性が一人いた。
「なんだテトラのお嬢ちゃんか、その大剣ならこの前調整してやったろ、今回はなにしにきやがった?」
「新入りが入ってね、グレンって言うんだけど、武具を見繕ってくれない?」
「ほう」
ドワーフの男性はこちらを値踏みするように見てきた。
正直言っていい気はしなかったが黙って待つ事、数秒、ドワーフの男性が視線を外した。
「体はまだガリガリだが手足にはしっかりと筋肉がある、格闘家かあたりか?」
「まあ、殴ったり蹴ったりしかできないだけなんで格闘家とは言い難いですが」
「ちょっと待ってろ」
ドワーフの男性が店の奥へと消える。
しばらくしてドワーフの男性が木箱を抱えて戻ってきた。
「これは?」
木箱の中には黒色に光る金属製のガントレットとブーツがあった。
「こいつはクロム鋼という金属で作った装備だ、つけてみろ」
俺は言われた通りにガントレットを手に取る。
「重い!」
「言い忘れていたがクロム鋼はドラゴンのブレスさえ防ぐ強度があるがとてつもなく重いぞ」
それを早く言えと思ったが一応は俺の為に選んでくれたものなので、やっとの思いで手足に着ける。
「どうだ?」
「重いですけど、動けないわけではないです」
軽く動いてみる、拳を握りしめて殴る動作をするが重さに振り回されてバランスを崩して倒れてしまう。
「はは、扱いづらいだろ?」
「笑い事じゃないんですけど」
「いい品には違いないんだから、これにしとけ」
テトラが手を差し伸べてくれてようやく起き上がる。
「親父! いくらになる?」
「両方合わせて金貨五枚といきたいところだが、お前らには贔屓にしてもらっているからな、金貨三枚でどうだ?」
「買った!」
テトラが威勢よく叫んで懐から金貨を取り出そうとする。
「ちょっと待ってください! 金貨三枚って相当高額じゃないですか! そんな高価なものもらえませんよ」
この国で使われている硬貨は三種類ある。
価値は下から銅貨、銀貨、金貨だ。銅貨百枚で銀貨一枚、銀貨十枚で金貨一枚と同じ価値になる。
俺がさっき買ってもらった服が銀貨一枚だ。
銀貨二枚でそれなりの宿の食事つき一晩泊まれるくらいの価値だ。
「心配するな、グレンにはこれから働いて返してもらう予定だから」
「借金じゃないですか」
「いいえグレン君、これは投資よ、君の未来を信じてね」
シアが微笑みながらそう諭してくる。
俺としてはこれ以上強く出られないのでおとなしく引き下がる事にする。
その後、買い物をすませた俺達はレギオンのホームに戻ってきた。
「それじゃあ後は任せた、あたしはやる事があるからな」
そう言ってテトラはレギオンメンバーと話し始めた。
「グレン君はこっちね」
俺はシアに手を引かれてホームの二階に上がる。
「二階はメンバーの部屋になっているの、家賃とかは基本ないから安心して」
「レギオンの経営は大丈夫なんですか?」
これだけメンバーを優遇していて心配になった俺はシアにそう質問していた。
「大丈夫よ、こう見えてもうちのレギオンメンバーは優秀なの。この部屋がグレン君の部屋よ」
話しているうちに端っこの部屋にたどり着く、そこにはいつの間に作ったのかグレンと書かれたネームプレートが飾ってあった。
部屋の中は窓とベッドがそれぞれ一つずつあるだけのシンプルな構造だった。
広さは一人ならちょうどいいくらいで荷物がもともとない俺には少し広く感じた。
「今日からこの部屋は好きに使って構わないからね、でもあまり汚く使ってはダメよ。それじゃあ、もう少ししたらご飯だから下に降りてきてね」
そう言ってシアは部屋から出ていった。
「ふぅ」
俺はベッドに横たわり一息つく。
あらためて思い返してみても、奴隷時代からは想像できないくらい好待遇だ、個人の部屋にご飯つき。
「よし!」
この恩を早く返そうと秘かに決意して、俺はご飯を食べるべく一階へと降りていった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「今後どうなるのっ……!」
と思ったら
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
ブックマークもいただけると本当にうれしいです。
何卒よろしくお願いいたします。