第一章奴隷の終わり、あるいは逆転の始まり
「おい! 起きろ、飯だ!」
俺が奴隷商人に売られて数日が過ぎた。
毎日、適当な時間に従業員が嫌そうな顔をして飯を置いていく。
とてつもなく硬くて不味いパンにほとんど味のしないスープが日に一度配られる、とってもじゃないが足りない。
俺達奴隷は常に空腹でどいつもこいつも目がギラギラしている。
「ガルルルル!」
ここには捕獲されたモンスターもいる。金持ちが見せびらかす為に連れてこられたらしい。
本来なら違法だが街を取り締まる、憲兵に賄賂を送って見逃してもらっているらしいと他の奴隷が話していた。
この世は腐っている、そう思うくらいには自分の境遇は酷い。
俺は小さな頃に母親と共に奴隷狩りにあった。
その頃の俺に力なんてなく、あっけなく捕まって奴隷の首輪をつけられ、今に至る。
同時に捕まった母親はすぐに引き離され、今は行方知らずだ。
綺麗な人だったとおぼろげに覚えているのでどこかの金持ちに買われて暮らしているのではないかと思う。
そしてさらに数日が経過した。
その日はいつもと違って小屋の中が慌ただしかった。
一番偉い商人が従業員に向かって何事かを叫んでいる、従業員は慌ただしく動き回りピリピリしていた。
「おい奴隷! 出番だぞ」
そう言って従業員が俺を急かしながら檻の外へ出してくれる。
従業員についていくとそこには俺と同じくらいからちょっと年上くらいの年齢の男性奴隷が集められていた。
「今日はお前達にチャンスをやろう!」
奴隷商人がよく通る声で呼びかけた。
「今、捕獲したモンスターが街に逃げ出した、見事連れ戻す事に成功したならお前達を奴隷から解放してやろう!」
「「うおー」」
奴隷達が雄たけびを上げる。
バカどもめ、俺は心の中でそう思った。
なんの訓練も受けていない素人が束になってもモンスターを捕獲するのは難しいだろう。
殺す事ですら難しいのに捕獲ともなれば難易度は跳ね上がる。
レギオンで働いていたのでモンスターの脅威はわかっているつもりだ。
しかも捕獲を指定したモンスターはBランク相当だ、これはBランクの連携のとれた冒険者がパーティーを組んで倒せるレベルだ。
「いないとは思うが逃げ出そうなんて思わない事だ、奴隷の首輪があるかぎりお前らに自由はないと思え!」
奴隷商人が脅しをかけてくるがそんな声はほとんどの奴隷に届いていなかった。
奴隷達は我先にと錆びついた粗末な武器を手に小屋を出ていく。
「お前も早く行け!」
従業員に急かされる。
気乗りしないがここから出なければキツイお仕置きが待っている。
俺はゆっくりとした足取りで外に出た。
「うっ」
久々に見た太陽はとても明るく、暗闇に長時間いた俺にとってはキツかった。
街は活気に満ちあふれていてそんな人々に少し嫉妬してしまう。
ここは俺の居場所じゃない、そう思い足取りは自然と人気のない方に向かっていく。
気がつけばスラム街の方まで来てしまった。
ここには道端で倒れている人やゴロツキ、娼婦など表を歩けないような人々がたむろしている。
辺り一面は血とツンとした汗臭い体臭が混ざったような匂いが立ち込めており、思わず顔をしかめる。
「ガルルルル!」
「きゃあああああ!?」
こんなところにモンスターはいないと思っていたのだがどうやら俺は当たりを引いたようだ。
「ちっ!」
俺は悲鳴のした方へ走り出す。
そこにはボロボロの服を着た子供が今まさにモンスターに襲われそうになる瞬間だった。
自分でも何故だかわからなかったが体が勝手に動いていた。
「ガルゥ!?」
「リザードランナーかよ、ツイてない」
俺はモンスターの横顔に膝蹴りを思いきり当てる。
相手はドラゴンの下位種族のリザードランナー、二足歩行で短いが鋭い前足、硬い鱗に強靭な筋肉を持った、厄介な相手だ。
「早く逃げろ」
「へっ?」
「いいから早く!」
俺は子供を逃がす為にきつく言い放つ。
放心していた子供はすぐにスラムの奥へと消えていった。
「ガルルルル!」
獲物である子供を逃がしたからか、それとも顔面に蹴りを入れたからかリザードランナーは俺に敵意むき出しで威嚇してきた。
「いまさら逃げるのは、遅いか」
このまま背を向けて走り出せば、すぐに追いつかれてリザードランナーのエサだ。
俺は覚悟を決めて拳を握る。
「かかってこいトカゲ野郎!」
「ガルゥ!」
リザードランナーは素早く前足を振るって攻撃してくる。
俺はバックステップで攻撃を避けながら、どう攻撃したらいいか考える。
リザードランナーは腐ってもドラゴンの端くれ、まともに相手をしていたらダメージを与えられないだろう。
俺はレギオンメンバーにも知られていない必殺技を使用する事にした。
「身体強化『フィジカルブースト』」
俺はそう短く呟くと素早く踏み込み、リザードランナーの腹に拳を叩き込む。
「ガルゥ!?」
リザードランナーの体が数センチ浮き上がる。
その隙を見逃さず続けざまに拳を叩き込んでいく。
今、使っているフィジカルブーストは魔術の一種で身体能力を向上させる効果がある。
フィジカルブーストを覚えたのはレギオンに入る前に戦闘奴隷が秘かに教えてくれたからだ。
どうやら俺には適正があったらしく、レギオンに入った後にも練習を秘かに重ねて、リザードランナーを圧倒するぐらいには強くなった。
「これで終いだ!」
俺の渾身の右ストレートがリザードランナーの顔面を捉える。
「ガルゥ」
リザードランナーは壁にぶつかって地面に倒れる。
「はぁ、はぁ、やったか?」
殴り合いをしたのは初めてだったので体力の配分がわからなかった、肩で息をするぐらい俺は疲れていた。
「ガルゥ!」
「しまっ!?」
リザードランナーがやられたと勘違いしていたようだ。
リザードランナーは素早く立ち上がると鋭利な牙で嚙みついてきた。
体力を消費した俺には避ける事が出来そうになかった。
「頭を下げて!」
俺は声に従い、咄嗟にしゃがむ。
「ガルゥ!?」
頭の上を二本の矢が通過する。
矢は正確にリザードランナーの両目に突き刺ささり、苦悶の声を上げる。
「モンスターが街中に出現したって聞いてきてみれば、当たりじゃねえか!」
頭の上を何者かが通り過ぎていく。
「そらよっと!」
何者かは百七十センチを超える大剣で暴れわるリザードランナーの首を切り落とす。
「無事かい少年?」
リザードランナーを倒したのは黒いコートを羽織った、頭部に虎のような耳を生やした獣人族の少女だった。
他に特徴を上げるなら、宵闇のように黒い髪をポニーテールにしていた。背は女性としては長身の百七十センチくらいだった。
「もう、突っ込みすぎよテトラ」
「結果オーライだろシア」
後ろから現れたのは黄金のような金髪に空色の青い瞳をしたエルフの少女だった。
二人の会話から獣人族の少女がテトラ、エルフの少女がシア、という名前らしい。
彼女らは亜人族と呼ばれる、人間族より下に見られる種族だ。
待遇は奴隷よりましだが、彼女達は一般人からは煙たがられる存在である。
「おい少年?」
緊張の糸が切れたのか俺は目の前が真っ暗になるのを感じながら気を失ってしまった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
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