鹿野馬田高校新聞部(前編)
カウテラツリアの得体の知れない何かです。
プロローグ
日本のどこかに鹿野馬田高校という高校がある。若干悪意のある学校名で分かる人もいるが、鹿野馬田高校は馬鹿な生徒が集まる高校である。馬鹿といっても、テストの点が低いとか、変な行動をよくとるなどのようなレベルの馬鹿ではない。鹿野馬田高校に来るような馬鹿は空前絶後(過去に一切無く、未来にもおそらく無い)レベルの馬鹿である。例としては、授業の内容どころか、一般常識すら分からない人、イラッとすると、周囲の人に限らず、周囲の物まで無茶苦茶に八つ当たりする人、人間性が完全に逸脱している人などだ。これ程の馬鹿は普通はあり得ない。だが、今の日本にはそれほどのどうしようもない馬鹿がいるのが事実である。鹿野馬田高校はそんな空前絶後レベルの馬鹿を一人前の人にして社会に出すのを目的としているのだ。そんな重大な役目を担っているのは日本のトップレベルの政治家から何度も行われた調査によって選び抜かれた全国の小学校、中学校、高等学校、大学校の職員である。その職員達はいわば、馬鹿に対しても一切臆する事が無く、上手く向き合える逸材である。
そんな鹿野馬田高校だが、職員の負担をできる限り少なくするために、部活動は無い。ただし、生徒からの申請があった際は、3人以上の生徒(普通の学校なら5人程必要だが、鹿野馬田高校は部活動においては、生徒が集まりにくい傾向がある)を集めた上で、半数の職員からの許可を得れば、部活動として創設される。とはいっても、鹿野馬田高校の生徒は普通は部活動を創設しようとはしない(部活動なんてやる気にならない)。しかし、鹿野馬田高校が創設してから、1人だけ申請してきた生徒がいた。その生徒の名前は女子の牛島新絵。2年生の3月の時に、同級生で女子の鳥池舞桜と、1年生で男子の熊谷凡太と一緒に理事長で女性の鹿野晴海に申請した。その次の月の4月に大半の職員から許可を得て、新聞部は創設された。
現在、鹿野馬田高校の新聞部は3年生で女子の牛島新絵(部長)、3年生で女子の鳥池舞桜(副部長)、2年生で男子の熊谷凡太(部員)、1年生で女子の猫岸凛花(新入部員)、職員で男性の猿川篤郎(顧問)がいる。
1話 龍崎久留美の大変な恋愛
鹿野馬田高校新聞部の部室で4人の生徒が鹿野馬田高校についての新聞を作っている時。新聞部の部室の扉が開かれ、理事長の鹿野晴海が呆れたような表情で、部室に入ってきた。
「新聞部の皆さん。あの虎川がまた浮気したようだ」
鹿野晴海が虎川と言ったその人の名前は虎川大輝。鹿野馬田高校の2年生の男子である。他校の女子高生の龍崎久留美という彼女がいるのに、堂々と他校の別の女子高生と浮気をする馬鹿である。
鹿野晴海の言葉に虎川大輝の同級生の熊谷凡太は鹿野晴海と同じような表情になった。
「あの馬鹿の虎川はまた浮気したのか。懲りないなぁ。もう4回目だぞ。3回の仏顔も無くなったしゴートゥーヘルでいいだろ!」
熊谷凡太の発言に続いて、鳥池舞桜はため息をついて喋りだした。
「ほんとだよ。龍崎さんは馬鹿の虎川にとっても一途なのにね。なんであんな馬鹿の虎川の事を好きでいられるのかなぁ。あんなゴミクズ殺めてしまってもいいと思うよ! あと熊谷。3回の仏顔じゃなくて仏の顔も3度までだ」
すると、鹿野晴海が、熊谷凡太と鳥池舞桜の方を交互に向いた。
「君たち虎川の事をそんな風に言うのはやめようよ。さすがに酷い。せめて、浮気大好き最悪最低リア充のクズ野郎にしようよ」
すると、部長の牛島新絵が鹿野晴海の方を見て、「理事長の方が酷いですよ」と言った。だが、鹿野晴海は一切気にせず、真面目な表情になって、顧問の猿川篤郎の席に座って喋りだした。
「新聞部の皆さん。とらか……浮気大好き最悪最低リア充のクズ野郎の事でお願いがあ――」
「嫌です断固拒否します理事長がやってください」
鹿野晴海のお願いの途中で、鳥池舞桜が鹿野晴海のお願いを拒否する発言をした。だが、そんな鳥池舞桜に対して、鹿野晴海は反論する。
「なんでだよ? これは君達の仕事だ。浮気大好き最悪最低リア充のクズ野郎の愚行をたくさんの人に知っても――」
「黙れ自分でやれ。私達は私達の仕事で忙しいので」
理事長である鹿野晴海に対してタメ口を使って反抗する鳥池舞桜。そんな鳥池舞桜に対して、言い返しをしようと鹿野晴海は口を開こうとした。が、突然、新入部員の猫岸凛花が席から立った。そして、鹿野晴海の方を真顔、というよりかは何故かドヤ顔で向いた。
「その依頼。このあたしがやります」
猫岸凛花のその言葉に鹿野晴海は驚いた。
「……ん!? いいのか!?」
「勿論です理事長。あたしなら馬鹿の……浮気大好き最悪最低リア充のクズ野郎である虎川の間抜けっ面をしっかりとらえてみせます。期待して待っていてください」
鹿野晴海は「そ、そうか。あ、ありがとう。一応言っとくけど虎川先輩な」と言って、猫岸凛花に会釈して、新聞部の部室を出た。
その後、猫岸凛花は早速、カバンを持って、牛島新絵の方を向いて、「部長! 浮気大好き最悪最低リア充のクズ野郎の虎川……先輩の盗撮に行ってきます!」と言って、部室を出た。牛島新絵は僅かに微笑みながら、鳥池舞桜に対してこう言った。
「猫岸さんは良い子だね。どう思う? 先輩擬きの鳥池舞桜」
その発言に、鳥池舞桜は惚けた表情でよそ見をして「屁~…糞糞」と言った。どう見てもふざけている。
部室を出た猫岸凛花は職員室にいる顧問の猿川篤郎の所に来た。
「先生。あたし今からうわ……虎川の事を盗撮します」
途中がちょっと分かりにくい言い方だが、猿川篤郎は馬鹿の虎川の事だとすぐに察した。
「なるほど。それは良い事だ。馬鹿の虎川のあんなことやこんなことやそんなことを徹底的に調査しろ。……盗撮じゃなくて調査しろよ」
「勿論です。馬鹿の虎川のざまぁタイム。スタートです」
猫岸凛花は変な事を言って、職員室を出た。猿川篤郎は1人で「なんだよざまぁタイムって……」と言った。
その日の午後6時。猫岸凛花は1時間前の午後5時から馬鹿の虎川の部屋の窓の下にいた。馬鹿の虎川の部屋はアパートの1階なので、待機しやすかった。猫岸凛花こっそり、スマートフォンのカメラで馬鹿の虎川の部屋の中を盗撮している。猫岸凛花に盗撮されていることを知らない馬鹿の虎川は呑気に床に寝転がりながらスマートフォンを見ていた。窓は網戸だけ閉めている状態だったので音声も聞こえるのだが、その音声が、
『お兄ちゃん! 胸を触らないでって何度言ったら分かるの!? いい加減にしないとぶっちゃうよ!』
というものだった。それで、馬鹿の虎川は小さな声で「ハッハー! 君の胸が魅力的だから触りたくなっちまうのさ。俺ってぇ罪な男だぜぇ」と言った。その様子を見た猫岸凛花は思わず小さな声で「……おぅ」と言った。そう、馬鹿の虎川が今しているのはスマートフォンの恋愛ゲームである。猫岸凛花はスマートフォンの恋愛ゲームの事はとても素晴らしいと思っている。しかし、そのゲームをしている時にキザな事を言っている奴にはドン引きである。
その後も、馬鹿の虎川がスマートフォンの恋愛ゲームをしながらキザな事を言いまくっていた。いくつかあげるとすれば、
『お兄ちゃん! ほっぺを引っ張らないでよ! 私のほっぺはおもちゃじゃないんだから!』
「ハーハッハッハァ! 餅よりやわらかい君のほっぺが悪いのさぁ」
『お兄ちゃん。頭なでなでしてよ~』
「フッ。俺のなでなでは高価だぜぇ」
『お兄ちゃん。私……お兄ちゃんの事独り占めしたいよぉ。いい? ……いいよね!』
「良いぜぇ。俺はいつでもウェルカムだぜぇ」
猫岸凛花にとって馬鹿の虎川の行動がエロ漫画のキモいおっさんの手前の状態な程、キモかった。猫岸凛花は馬鹿の虎川にドン引きしまくりながら、それを聞いていた。
午後6時53分。ようやく馬鹿の虎川はゲームを終えた。すると、馬鹿の虎川は部屋の床に落ちていたジャージに着替えた。そして、部屋を出た。猫岸凛花は馬鹿の虎川を尾行した。
午後7時10分。馬鹿の虎川と馬鹿の虎川を尾行している猫岸凛花は近くの町に来た。すると、馬鹿の虎川は町の広場の噴水のそばにいる女の子の所に行った。だが、その女の子。とんでもない程の美少女だった。さらさらの長い黒髪、とても色の薄い肌、整いすぎている顔、そして、服の上からでも分かる抜群のスタイルと、見た目に非のつけどころが無かった。
猫岸凛花は馬鹿の虎川があの美少女をナンパするのかなと思いながら見ていた。馬鹿の虎川はその美少女に近づこうとすると、美少女は凄く可愛い笑みを浮かべて馬鹿の虎川に近づいた。馬鹿の虎川は「やぁ龍崎久留美ぃ。俺に会えなくて寂しかったかあい?」とキザな発言をした。だが、その時、猫岸凛花は思った。
(鳥池先輩が言っていた龍崎さんってあの美少女!?……おぅ。見事に釣り合わないよ)
釣り合わない。それは見た目ではっきりしている。龍崎久留美と違い、馬鹿の虎川はとても平凡な見た目で、見た目に全く取り柄が無い。なのに、イケメンぶってキザな発言をしまくっているのだ。
でも、龍崎久留美はそんな平凡な馬鹿の虎川の事が大好きなのだ。だから馬鹿の虎川を見つけた時は笑顔になるのだ。
龍崎久留美は馬鹿の虎川の隣に行くと、早速、馬鹿の虎川と手を繋いだ。龍崎久留美は笑みを浮かべながら「ねぇ大輝くん。私ちょっと公園に行きたい」と言った。声も凄く可愛く、ますます釣り合わないと馬鹿の虎川を尾行している猫岸凛花は思わざるおえなかった。
人がいない小さな公園に龍崎久留美と馬鹿の虎川は来た。猫岸凛花は公園のトイレのそばにいる。龍崎久留美は馬鹿の虎川の正面に立って、持っていたバッグから7枚の写真を取り出し、こう言った。
「大輝くん。こいつら……誰?」
声に少し怒りを感じた馬鹿の虎川は7枚の写真を見た。
1枚目の写真には喫茶店で馬鹿の虎川の隣に座っているギャルっぽい女の子。
2枚目の写真にはアニメショップで馬鹿の虎川と一緒にライトノベルを見ている眼鏡をかけた女の子。
3枚目の写真には神社で馬鹿の虎川と一緒に参拝をしている身長の高い女の子。
4枚目の写真にはラーメン屋で馬鹿の虎川の隣に座っている大人の女性。
5枚目の写真には電車内で馬鹿の虎川と一緒に景色を見ているポニーテールの女の子。
6枚目の写真には鹿野馬田高校の運動場で馬鹿の虎川の頭を叩いている女の子。
7枚目の写真には馬鹿の虎川の部屋を窓から見ている女の子。
以上の7枚が龍崎久留美が出した写真である。馬鹿の虎川は笑顔だけど怒りが混じった笑顔をしている龍崎久留美に一切ぶれずに説明を始めた。
「俺と喫茶店にいる女の子は春香さん。俺とアニメショップにいる女の子は佳奈さん。俺と神社にいる女の子は美結さん。俺と電車にいる女の子は志歩さん。俺の高校で俺を叩いてる女の子は綾乃さん。ラーメン屋の女と俺の部屋を見ている女は知らない。あと、春香さんと佳奈さんと美結さんと志歩さんは久留美さんとは別の俺の彼女だ」
だが、突然、龍崎久留美から笑顔が消えた。怒りの混じった真顔になっていた。そんな龍崎久留美に馬鹿の虎川は一切ぶれずに「ん~? どうしたぁ?」と言った。すると、龍崎久留美はなんとか冷静さを保ちながら聞いた。
「私以外にも……彼女が……いるの?」
「うん」
「なん……でなんで私以外の女を彼女にしたの?」
「可愛かったから」
「そんなの……私の方が」
「まあね。俺の彼女で一番可愛いのは久留美さんだ。だが、それはこの世界でだけの事だ」
「え? ……それってどういう事?」
「俺の彼女で一番可愛いのはなぁ」
馬鹿の虎川はそう言うと、スマートフォンを取り出した。そして「この俺の妹だぜ!!」と言った。その妹は恋愛ゲームのヒロインである。馬鹿の虎川が部屋の中で相手していた女の子だ。
そんな事を聞かされた龍崎久留美は馬鹿の虎川に「ちょっとそのスマホ……貸して」と言った。馬鹿の虎川は「それは出来ない。この中には俺の妹であり、将来の嫁がいるのだからな!!」と言って渡さなかった。すると、龍崎久留美は「そっ……か」と言って、バッグから包丁、ではなく、小刀を取り出した。そして、馬鹿の虎川に言う。
「そのスマホ。今から斬るから……貸して」
「嫌だね! 俺の将来の嫁を殺す気だな! させん!!」
馬鹿の虎川は逃げた。しかし、龍崎久留美は小刀をナイフのように投げ、馬鹿の虎川のスマートフォンを貫通した。馬鹿の虎川のスマートフォンは壊れた。馬鹿の虎川は自身のスマートフォンが壊れた事に気づくと、振り替えって龍崎久留美の方を見た。
「おのれぇぇぇ!! 龍崎久留美ぃぃぃ!! ゆるさんぞぉぉぉ!!」
馬鹿の虎川はぶちギレた。しかし、龍崎久留美は落ち着いた表情で言う。
「私は大輝くんを傷つけたりはしないよ。だけど、私以外の大輝くんの彼女はみんな殺さないとね。……大輝くん。少し待ってて」
龍崎久留美は公園を出て行こうとするが、馬鹿の虎川は龍崎久留美を止めた。そして、馬鹿の虎川は言う。
「行かせはせんぞ! どうしても行きたければ! 俺を倒してからにしろぉぉぉ!!」
突然きた、王道なのか邪道なのかわからない展開。しかし、龍崎久留美は「ダメ……大輝くんが傷ついちゃう」と言い、馬鹿の虎川から離れようとする。だが、馬鹿の虎川は「なにぃ!? 俺が負ける前提で話しを進めているな! そうはいかん! 俺が勝つからなあ!!」と言って、龍崎久留美に立ち向かった。
夜の公園で龍崎久留美と馬鹿の虎川の戦いが始まった。
それから9秒後。馬鹿の虎川はうつ伏せになっていた。
「くっそぉぉぉ!! 俺の負けだぁ!! 龍崎久留美!! お前よくも俺の股間を蹴ったな!」
「だ……だって、その方が終わらせやすかったし…」
あまりにも早く終わった戦いに猫岸凛花は唖然としていた。馬鹿の虎川はあっさり負けてしまったので呆然としていた。
龍崎久留美は馬鹿の虎川に言った。
「大輝くん。私以外の大輝くんの彼女は殺すからね。俺を倒してからにしろってさっき言ったけど、倒したから……ね。だから」
「……構わん。行け」
「……うん。わかった」
馬鹿の虎川の発言で、龍崎久留美は龍崎久留美以外の馬鹿の虎川の彼女を殺しに行った。
それを見ていた猫岸凛花は龍崎久留美の殺意の恐怖よりも馬鹿の虎川の雑魚っぷりに呆然としていた。
しかし、龍崎久留美による殺人事件が起きる事は無かった。なぜなら、警察を来た。ということではなく、龍崎久留美が最初に向かったのが馬鹿の虎川の彼女ではない綾乃の所だったのだが、やたら身体能力の高い綾乃にコテンパンにされたからである。
1週間後。鹿野馬田高校の校内や校外の掲示板に新聞部が作った馬鹿の虎川の事ばかりが書かれた新聞が貼られた。さすがに部屋の中での事は書いていないが、浮気しまくっている事はバッチリ書かれた(彼女達の名前は秘密である)。
そもそも馬鹿の虎川は鹿野馬田高校内では悪い意味で有名人なので、校外の人に生徒達がどんどん悪い噂を広めていった。そのせいで、馬鹿の虎川の彼女は馬鹿の虎川を見捨てる事の無かった龍崎久留美だけとなった。しかし、悪い噂のせいでデートができなくなってしまった。完全に自業自得である。
猫岸凛花は言う。
「馬鹿、及び、浮気大好き最悪最低リア充のクズ野郎の虎川……先輩はチャラチャラした馬鹿。……馬鹿者。……馬鹿野郎ですね!」
こんな変な何かを読んで下さった方には感謝です。