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山岸さんの彩  作者: そらひま
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君のから揚げ

なあなあ、相談があるんだが…」

やたら神妙に先輩が話しかけてきた。

「なんですか?」

「浴衣についてなんだが…」

「浴衣?」

浴衣。湯上りの服装が現代では夏祭り等で着るおしゃれ着になったあの。

「浴衣」

「ゆかた…が、どうかしたんですか?」

うちは浴衣の取扱いはないはず…?聞いたこともない…。

「いや、仕事のことじゃないんだ!昼に話したいから時間あるか?っていう」

「あ、ああ、仕事じゃないんですね。昼大丈夫です。どこで話しますか?」

「食堂で、どんなのがいいかなって相談に乗ってほしいだけなんだ。デザートくらい奢るから」

「力になれるかわかりませんがいいですよ。かしこまりました。」

「かしこまるほどじゃないんだけどな」

会釈して立ち去る先輩。

たしかにかしこまるほどのことではないな。かしこまりました以外で良い返し方あるかな…。了解?わかりました?承知しました?

うーん、距離感が難しいな。



「お疲れ様です」

「おうお疲れ!」

先輩のいる席にとりあえず座る。

「何食べるんだ?」

「日替わりですかね」

「今日はから揚げらしいぞ」

「おいしそうです。買ってきます」

財布を持って立ちあがる。並びながら、そういや浴衣って男物?女物?彼女にプレゼント…?

最近仲良くなれたのでは?という自負はあるが、彼女用の浴衣なんて選べるだろうか…先輩誰とでも話している気がするけれど、女友達は少ないのか…?

考えていたら順番が来た。

「日替わり定食1つ、普通、味噌汁で」

揚げ物なんてなかなか作らないしちょっとわくわくした


「お待たせしました」

「気にするな。俺が先に来ちゃってただけだし」

こうやってすかさずフォローを挟めるのが営業なんだろうな。

「それで、ご相談とは」

「おう、今度花火大会で浴衣で集まろうって話になってな。せっかくだから女の子にもウケるやつ買っておこうと思って」

「先輩が着るんです?」

「おう」

「なるほど」

彼女用ではないらしい

「なるほどとは」

「いや彼女用のものをプレゼントに悩んでるのかと予想してたもので」

「いまはいないんだよな」

「ほしいんですか?」

少しだけ考えると

「切実ではないけどほしいとは思うよ」

曖昧な感じ

「そんなもんなんですね」

「お前は違うのか?」

自分か…誰かを好きになるという気持ちを想像する。

わからん…。

隣に誰かが並んでいることを考える。

必要なのか?

「欲しい欲しくないというよりそもそも興味が持てなくて…」

軽くうなずくとなにやら納得したような顔をする先輩。

「最近多いっていうよな、草食系って言うんだっけ?」

「なんか違う気もしますがたぶんそんなもんです」

適当極まる返答をしてしまった。

たいして気にしていないようで、先輩は勝手に納得していく。

「はー、ほかに興味があるっていうのはいいことだよな」

「そういうわけでもないんですねぇこれが」

「え、じゃあ得に趣味もないのか」

「これといって」

「食べ歩きとか」

「探すのって大変そうですよね」

「家で料理してるのか?」

「最低限自炊はしますがあんまり面倒なものは…」

「ペットがいるとか」

「ルンバはこの間買いました。便利ですねあれ」

「映画とかゲームとか」

「テレビでたまになにかやってますよね」

どんどん前のめりになってくる。机はさんでいるのになんだか近いな。

「まじか…。お前普段かえって何してんの?」

攻めるというより純粋な疑問という口ぶり。

受け取りようによっては失礼極まりないが、先輩の人当たりの良さで毒気は全くない。

「夕飯作って…お風呂入って…ぼーっとニュース見て寝ますね」

「へー…つまんないとかは無いんだな」

「そうですね」

印象に残ることもなく、淡々と毎日が過ぎてゆくだけだ。

「穏やかに日々を過ごしているんだな。自分で自分の平穏を保てるのはすごいことだ!」

この人はポジティブの天才か?

「つまんないやつといわれるかと思いました」

「俺と違う生き方だし、考えも違う。むしろ面白いぞ」

「なによりです」

いい人だなこの先輩。

「ところで先輩」

「なんだ?」

「私のこと話していたらそろそろ食べ終わらないと時間が無くなってきました」

「えっ!本当だ!すまない時間をとってもらったのに」

「いえむしろこちらの台詞ですね」

相談事だったのに私の自分語りで終わってしまった。

「俺のは参考意見が欲しかっただけだし、むしろそれより楽しい話が聞けた!ありがとうな!」

「私もこの性格がそんなに肯定的にとらえられることはないので新鮮でした。ありがとうございました」

「また話そうな!」

「はい、ぜひまた」


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