20代は全てのものが自分への当てつけに見えるお年頃
シュレッダーと掛けて、煽り運転と説く。その心は、どちらも巻き込まれると危ないでしょう。
高橋楓は、今日も巻き込み確認をしながらシュレッダーと向き合う。
今日の高橋は、上の空だ。
この年齢になると頻繁に起きるイベントに巻き込まれてしまったのだ。
そう、結婚式だ。
29歳にもなると毎月のようにやってくるイベント。
特別仲が良いわけでもない人達から、数合わせのために招待状が送られてくる。断ってもいいのだが、断りづらいのも確かだ。
ご祝儀代で3万円、ドレスのクリーニング代で4000円。交通費や諸々の準備費だってかかる。
そしてなんたって、名前は思い出せるけど顔が思い出せないような仲の人のイチャ付きを何時間も見なければいけないのだ。
「アラサー女子に対する当てつけか?拷問か?」
僻み、妬み、嫉妬が高橋の脳細胞に染み込んでいく。
「アラサーのくせにピンクのカラードレスだと?背中で老いを語ってるぜ?」
嫉妬は人を輩に変える。元旦も、バレンタインも、クリスマスも一人で過ごしてきた高橋にとって、結婚式は自分の現状と一番乖離している出来事なのだ。
一通り蔑んだ後に待っているのは、虚無感だ。
29歳になってパートナーが出来る気配もない女は、孤独死の現実化に怯えだす。
「おい、高橋!これもシュレッダーにかけてくれ」
上司の声が高橋を古びたオフィスに着地させた。我に返った高橋はポジティブだった。
「一人だから好きに遊びに行けるし、一人だから好きにご飯食べに行けるし、一人だから・・・」
気持ちはポジティブだが、自分を励ます言葉にどこか虚しさを感じた。
将来の不安と、周りへの嫉妬と、現状の自分。それらをシュレッダーに掛けるように、一気に紙を裁断した。
しかし、多く紙を詰め込み過ぎたため、詰まってしまった。いつもは勢いよく回る歯車は、か細い悲鳴のような音を立てて停止している。
「自分の人生も、行き止まりってこと・・・?」
ネガティブな高橋の思考をさらに増悪させる。
シュレッダーにさえ感情を操られているようじゃ、幸せは来ないだろう。楓のように赤く染まることのない心はいつ満たされるのか。
不安がる高橋を後目に、シュレッダーは再び動き出した。