02.Knife To Survive ①
少年は一度サバイバルナイフで風を切り、すぐに男の方へ向けた。装飾のほぼない、無骨なサバイバルナイフである。持ち手のハンドルは真っ黒に塗装され、刃の部分には黒錆加工が施されていた。さらには少年の黒い革ジャンおよびグローブと相俟って、肩から刃先までが闇夜に溶け込んでいる。
…相手に自らの間合いを悟らせない、実戦的なナイフと言えた。
「へぇ、お前が戦闘要員なのか。てっきりそっちのデカブツが来るのかと思ったが」
襤褸を着た少年が、ヒィッ…!と短い悲鳴を上げてもう一人の華奢な少年の後ろに逃げ込んだ。華奢な少年は何をするでもなく事態を静観している。
(保護者と坊やって感じの二人だな…戦えるのは銀髪の…)
不意に銀髪の少年が男の懐に飛び込んだ。重心は低く、ナイフの柄を両手で握りしめ、標的に全体重を刺し込む姿勢である。
その切っ先は心臓を狙っていた。
男が大きく体を振ってその刺突を回避する。
男の後方に回った少年はナイフを逆手に持ち替え、振り向き様に首元を狙った。これも男が大きく飛びのき、回避した。
ナイフの位置情報が服装によって丸々黒塗りにされているため、最小限の動きで回避するという行為が難しい。
「はぁ、なるほど。腕っぷしってより、不意打ちとか騙し討ちとか、そっちの方が得意そうな印象を受ける」
男は苦笑しながら包丁を構えた。
「生前、何度かお前みたいなひねたガキの相手をしたよ。あいつら矢鱈めったら振り回すからな、大袈裟に避けなきゃ危ないんだ」
「何度か?テメェ警官か?」
「いや、教師だった。もっとも授業なんかより、家に帰らねぇガキどもを言って聞かすのが仕事みたいなもんだったがな」
「それで刺されて、死んだのか」
「………」
会話をしながらも少年は間合いを詰める。
それに呼応し、男は後ろに下がっていく。
少年の服装に目が慣れるか、対応策が浮かぶまで無理に戦うことはない。
だが、顔を見られてしまっている。逃げるわけにはいかない。
そういった男の意図が見て取れた。
ふと、少年の流れる銀髪が視界に入る。
男が足を止めた。