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第三話 帰宅後

 家に帰った私はベッドで泣きじゃくった後、庭に出て気持ちの整理をしたかった。夜だったから周りは暗かったが逆に私にとっては好都合で泣いた後の顔は目が赤くなっており鼻をかんだせいか鼻も赤くなっていた。この顔は公爵令嬢としてあるまじき顔と思っていたから早く部屋に戻ろうと思った。

 だが庭には思いもよらぬ人物が二人いた。エレナとレオナルドだ。この二人は一体何をしているのだろうか。正直、この二人を今見るのはとても辛かった。だからより一層、早く部屋に戻りたい気持ちが大きくなった。私が部屋に戻ろうと屋敷に体を向けて歩こうとした時、エレナとレオナルドは話し出した。声のボリュームはそこそこ大きくて少し距離が離れている私のところまで聞こえた。


 愛しいレオナルド。声を聞くだけで心が熱くなる。この人の為に私は王妃になれるよう日々勉強や貴族社会のマナーを一生懸命頑張った。

 だがレオナルドはエレナに恋をして私との婚約は破棄された。とてもエレナが憎かった。だが憎い気持ちと同じくらい羨ましかった。私がどんなに努力しようがレオナルドは振り向いてくれなかったのにエレナが近づいたらコロッと落ちた。

 私はどんなに頑張ろうがエレナには勝てないと思う気持ちがどんどん増えてくる。私は弱い。その弱い所を今まで直そうとせず向き合おうとしなかったからレオナルドは私に振り向いてこなかったかもしれない。今更気付いた所で遅い気もするが。


「エレナ、急にどうしたんだい?この忌々しい所に呼び出すなんて」


「いえ…アメリアがあの後どうしたのか気になってしまい……」


「エレナは優しいな。だがエレナを傷つけたアメリアの事は僕は許せない」


「レオナルド様……」


 エレナはレオナルドに熱い視線を送った。するとレオナルドもエレナに熱い視線を送った。そのやり取りを見るだけで吐き気がしてしまい一瞬私はよろめいて後ろにあった草に当たってガサッと音を出してしまった。


「誰だ!」


 レオナルドはこちらの方向を向いて歩き出した。ヤバい。バレる。このまま逃げてもいいが逆に見つかるような気がした。


「レオナルド様、きっと鳥とか動物ではありませんか?」


 エレナは私に気付いているのか気づいていないのか私の方にあの悪魔の笑顔を送った。背中に悪寒が走った。エレナは一体何を企んでいるのだろうか。考えるだけでとても恐ろしい。


「このベランダに鳥が一羽いるのも可笑しくは無いでしょう。鳥では無いなら……私が嫌いな虫がいるのかもしれないですね」


「エレナは虫が嫌いなのか?」


「はい。とってもとっても私は嫌いです」


 そう言うと私がいる方向に冷たい視線を送った。エレナはもしかして…私がいると踏んでここに来たのだろうか。そうでなければわざわざ私の家の庭に来る必要もない。だが私が庭に来るなんてエレナに分かるわけがない。偶然か必然か…私には分からなかった。


 私が暫く木に隠れて二人を見ているとレオナルドは用事があるとの事だったので先に帰っていった。途中、レオナルドは夜遅いからエレナも帰らそうとしていたが「私も用事があるので」と言ってレオナルドを先に返した。

 それから暫くするとエレナは私に聞こえるボリュームで話し始めた。エレナは明らかに私に気付いている。そうでなければこんな事をしないだろう。


「そこにいる私の嫌いな虫さん、聞こえていますか?」


 これは…私に言っているのだろうか。エレナの嫌いな虫。私はエレナにとってそんな存在なのか。


「ねえ今の貴方は婚約者を奪われてどんな気持ちなのかしら。少しお話をしませんか?わざわざ私から出向いたのに…そのまま帰らせるなんてしませんよね?」


 エレナはそう言うとこちらに近付いてきた。一切の躊躇なくこちらに来た。

 そして私とエレナの視線が交わった。レオナルドはエレナに恋をしている。それは見るだけで痛くなるぐらい分かる。あんな熱い視線…私がどんなに頑張っても向けられたことは無かった。少しエレナを憎んでしまった。


「アメリア、こちらのベンチで話をしましょう?ここでは汚れてしまいます。でも貴方は汚れるぐらいが丁度いいかもしれませんね」


 エレナは私に微笑んだ。だが目は本気だ。冗談ではない、と私に言っているような気がした。だがこのまま私は怯む気は無い。こんな時だからこそ私はエレナに立ち向かわないといけない、という気持ちになった。これはきっと前世の私の性格なのだろうか。今世の私とは性格が全然違う。心が強くて言いたい意見はハッキリ言っている前世の私が見えた。虐められている友達を最後まで見逃さず戦っている…そんな姿はとてもカッコよくて今の自分が惨めになった。なぜこんなにも前世と今世の性格が違っているのだろうか。その事がとても疑問だった。もしかしてこの記憶は別の人のかもしれない、とも思ったがこんなに繊密な記憶だとその気持ちも失せた。


「分かりましたわ。エレナ、少し…お話をしましょうか」


 私は負けじと微笑んだ。その微笑みはゲームの悪役令嬢がするような顔で私自身もこんな顔が出来るのだと驚いた。

 そんな私を見るとエレナは驚いたがすぐに笑顔になって私を見てきた。その笑顔は新しい獲物を見つけたトラのようにも見えた。

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