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選択

前回のあらすじ

地球を管理している人に会いました。

人柱になってほしいそうです。

 朱里の後ろに椅子出現した。

 足は透けて浮いている状態なのに、立ち疲れ始めていた朱里はそれに素直に座らせてもらった。

 サイも座っていた。

 椅子はずいぶんとふかふかで座り心地のいいソファーのようだった。


「材料となる魂の条件は、召還された星から召還した星に渡った魂。

 つまり、あなたにはこの赤い宇宙の召還を行った星に行って貰わなければなりません。また、魂にこの星の力を馴染ませるため、しばらく滞在する必要もあります。

 そうすると体が必要になりますので、こちらで現地のご希望の種族の体をご用意いたします。

 それと今後の転生後の人生の代償として、転移後のしばらくを過ごせる額の生活費、あなたが選んだ種族の平均レベルの魔法といくつかの希望する能力、それから日常困らない程度のこの星の知識、またすぐ死なれても困りますので、寿命までの不死の身体を差し上げます。もちろん病気にもかかりません。体力も一般人より上になります。寿命の長さは選んだ種族の一般的な寿命を約束します。

 最後にあなたの本来の転生では自我をまっさらにした状態で行われますが、この星への転生は保持したまま行われます」


 いかがでしょう?と首を傾げられ、朱里は考え込んだ。


 朱里は死にたくなかった。生き返るならまだ生きたい。

 サイは別世界ながらそうしてくれるという。転移後の生活の保証もある程度つけて。一回限りの人生となるが。

 だが、通常の転生でも自我まっさらだ。自分の意識なしだ。それすなわち別人。

 転生後の自分が自分でないなら今の人生も一回で終わるのと同じではないだろうか?


 そこまで考えたら、気になるところを聞いてみたくなった。


「種族ってなにがあるの?」

「はい。平野部に住む「草原の人」、砂漠に住む「砂の人」、森に住む「森の人」、山岳地帯に住む「山の人」、海に住む「海原の人」、氷雪地帯に住む「雪原の人」の六種です」

「火口に住む人はさすがにいないんだね」

「はい。火口は魔物の巣ですから」

「へ~」


 魔物がいるなら致死率高そう。

 そういえば、召還を行った星だった。高いに決まってる。

 朱里はうなだれた。

 だが、先ほどサイは不死の体をくれると言った。自分が死ぬことはないのだ。寿命まで。

 まあ世の中、生きている方が地獄という状況もあるが、それはこの後も話を聞かなければわからない。


「お金もくれるって話だけど、しばらくってどれくらい?」

「贅沢をしなければ百日分です」


 約三ヶ月ちょっとですね。地球での。


「使える魔法ってどんなの?」

「魔力は選んだ種族の平均ですので、その力の範囲で使えるだけになります。

 この星では、あなたの星で言う念力や、火、水、氷、風、土なんかが一般的ですね。光や闇もあるようです。特殊条件があるようですが。

 魔法の適正のある人が使えるようです。種族間での強弱や使える使えないもあるようです。全く使えない人、弱くても満遍なく使える人も多いですね。

 あなたの場合ですと選べますがどうします?」


 朱里は答えなかった。

 まず種族を選んでいない。選んだ種族が使えない魔法を選んでいたら怪しまれるだろうから後回しだ。


「もらえる能力って?」

「現地ではギフトと呼ばれているようですが、様々です。出来るだけ希望に添うように言われております。何かご希望はありますか?」


 どうやら、当たり前だが、ここには彼女以外もおり、彼女の上司のようなものもいるらしい。


 朱里は考えた。

 死ぬ前自分が考えたことを。


「まずいご飯で死にたくない」

「は?」


 つぶやいた言葉がわずかに届いたらしく、サイに首を傾げられた。


「いや、どんなものでもうまい料理が作れる技術と古今東西の料理の知識とたとえ不味くても味覚に合うようアレンジ出来るセンスっていける?

 あ、あと獲物を遠方からなるべく傷つけずにしとめられる能力的な何か」

「はい大丈夫です。獲物を遠方からしとめる方は魔法ではいけませんか?」

「出来れば魔法じゃない方がいいな。魔力枯渇したときに備えて」

「では、投擲、銃、弓などいかがです?」

「必中がかかった投擲、投げるのは何でもあり、とか?」

「できますよ」

「マジですか」

「マジですね」

 

 チートもいけそうだ。どこのライトノベル。現実は小説より奇だった。


「この星ってどんな文化レベルは?」

「この星はそうですね……」


 サイが右腕を振ると空中に黒い画面が現れた。そこになにやらびっしりと朱里の知らない文字やわからない図形が映し出されている。


「一つの大陸と大きな海でできてます。ですので言語は一つですが、種族が別れていますので生活も様々です。ですが、草原の人の一番賑わっている場所辺りはあなた方で言うところの中世封建社会あたりでしょうか?このレベルから上がらないように設定されてますね」


 彼女はその画面上方を読み上げてくれた。


「設定……」

「はい。文化レベルが近代に入ると天災が起きて崩壊する設定になっています」


 彼女が画面をタップするたび画面が変わり、または上がり下がり、


「あなた達が作ったの?」

「私ではないですが、そうですね」

「私がいた宇宙も?」

「はい」


 サイが笑って頷いた。


 朱里は人を覚えるのが苦手だ。生活に支障を来すほどではないと自分では思っているが。

 そんな朱里の高校時代に珍しく記憶に残った友人がいる。

 つき合った期間は短い。

 それでも朱里の記憶に残った理由は、彼女が宗教にはまり、朱里に迫ったからだ。


 正直、怖かった。


 それが今とどう関係があるのかと言えば、友人がはまった宗教の教義の大意が、自分達を作った高次元の人達が存在していて、その人達が今の地球のあり方を怒っているからこの宗教に入って生活を正しましょう、というものだったのだ。

 当時は彼女の一種異様ともいえる迫力に戦き、また教義の中に私財を教祖に捧げよという明らかにおかしい点や、偉い人が信じているから正しいという彼女の言い分に納得も理解も出来なかったので、彼女と口論の末、付き合いを絶つことになった。


 彼女のいう教義の大意とやらは正しかったのか。


 朱里は頭を抱えた。


「流行っていました。だから、ここにもたくさんきます。あなた達のペットブームと同じといえばわかりますか?」


 朱里は頭を上げる。


「ならこの二つの宇宙の持ち主は?どうして出てこないの?自分のペットの危機でしょう?」


 それまで笑顔だったサイの体が強ばった。そして、言葉を詰まらせた。


「流行は廃れます」


 それですべて察せた。


 そもそも彼女は最初に言っていた。

 ここは「たくさんの宇宙が来て去って死んでいく場所です」と。

 つまり、ここにある宇宙はすべて捨てられて拾われるか死ぬのを待っている宇宙なのだ。


「私たちは作られた命でも作った側であるからこそ死なせたくありません」


 朱里は思った。確かに自分達のペットブームと同じだ。捨てる人からこういう人の存在まで。


「話を戻しましょう」


 朱里は言った。

 その裏で、高校時代の友人の宗教で怒っているという人が作った人だったのかなぁとぼんやりと思った。


「そうですねー……。各種族の寿命と能力的特徴は?あ、人生大半老人とかイヤだからどんな成長するかも」


 話を変えればサイはあからさまにほっとした顔をした。

 よほど痛い腹だったらしい。


「はい、では寿命の短い種族からご紹介いたします」


 新たに画面が出た。

 今度は朱里の前にも画面が現れた。

 画面には一定のポーズでゆっくりくるくる回る女性と横に説明文らしき読めない文章が載っていた。


 ゲームの種族選択の画面みたいだなと朱里は思い、そしてそれはあながち間違ってはいなかった。


「一番短いのは雪原の人で四十年です」


 画面には小さくはかない、そして髪や肌など全体的に白い女性が出てきた。服はアイヌの人のような茶色い服を着ているパターンと頭から全身毛皮に身を包んだ北極観測隊のような人の格好の二種類が交互に現れている。年の頃は十代後半から二十代といったところだ。


「彼らは種と呼ばれる石から生まれます。生まれて死ぬまでこの年頃です。

 暖かいところでは溶けて死んでしまうので生きていけません。

 死んだら心臓が魔石と呼ばれる貴重な宝石となるので、人というより魔物扱いですね。他種族から狩猟対象となっています。

 大なり小なり全員が魔力と闇魔法を持っています。後は火、水、氷ですね」


 朱里はこれはないと思った。平和に生きて行けなさそうだと。


 画面が次に変わる。


 今度は鋼の鎧で要所要所を固め鱗のような服をまとった女性だった。人の耳がある所に獣の耳がお尻には尻尾があり、背中には大きな刀を背負っている。耳と尻尾がなければ、どこぞのモンスターを狩るハンターのようだ。


「山の人の寿命は五十年です。

 彼らは山岳地帯に住み、土魔法や念力を得意とします。

 一番の特徴は、魔物を、特にドラゴンを使役することです。生まれて五年もすれば使役する魔物を探し、年をとり体が動かなくなってくれば、自分が使役する魔物たちに体を食わせます。

 それがだいたい五十年です。

 放っておけば体が石になり砕けるようですね。

 耐えきれない痛みをもたらすので食べて貰う、ようです」


 なにそれ怖い。それが朱里の感想だった。


 もっと穏やかに生きていけないものか、そう思い次の画面を見る。

 次は中世ヨーロッパの労働階級の女性のような人が現れた。


「草原の人です。

 魔法が使える人の方が珍しく、人生は七十年ほど、なにも特徴がなく、それが特徴で、しかし最強も最弱もここから出る。

 不思議な人種ですね」


 サイの感想が入った。彼女もそこまで詳しくは知らなかったようだ。


「魔力があれば、全種使えてもおかしくないようです。逆に魔力があっても全く使えない人もいます」


 意味不明だ。


「あ、老年期が一番長いですね。人生半分くらいが老人です」


 マジかよ、朱里は思ったが、冷静になれば、自分たちも人生百歳いってもおかしくない平均寿命八十年で五十年も生きれば老人だ。人によっては半分以上が老年期だ。

 たぶん自分達に一番近いのが、この草原の人なのだろう。だが、


「次は、森の人ですね」


 画面は次に移り、今度は草原の人を細長くした人が出てきた。

 耳がとがっていてエルフっぽい。


「森の人の寿命は百年ほど。老年期は死ぬ直前に訪れるようですね。

 魔力は使えても弱いです。念力以外ほぼ生活魔法程度しか使えません。

 ですが、体力と肉体の強さと速さが他種族を圧倒しています。

 念力は肉体強化用、ですか。戦闘民族ですね」


 戦い続ける人生は嫌だなと朱里は頭を抱えた。

 ここまでで自分の望みを全うできる種族がないのも一因だ。


「あ、この種族の男性は嫁を見つけたら、一生、監禁して束縛するくらい愛情深いようです」


 愛情深い、とは?


 続いたサイの言葉に朱里は鳥肌を立てた。


「次は砂の人です。

 砂の人は百五十年くらい生きます。

 幼年期と青年期がそれぞれ七十年くらいあります。残りは壮年期ですね。老年期はありません。

 成長期になれば砂で作った繭に一ヶ月ほど籠もり一気に次の期に成長します。

 自身も砂になれます。砂に潜ったり、砂を操ったりします。

 魔物と意志疎通が可能なのもこの種の特徴ですね。

 魔法は光と闇と念力しか使えない種族です。

 魔力量に男女差があり女性が多く持っています」


 映像は褐色の肌にインドの女性のように一枚の紗を体に巻き付けた女性が立っていた。


「最後に海原の人です」


 最後の人は人魚だった。和製ではなくアンデルセン童話の方の。


「寿命は三百年。

 稚魚として一年過ごせば成魚となり、以降外観は変わりません。

 水中で呼吸が出来る代わりに陸上ではそう長く生きられず、海で生活しています。

 彼らの歌声は闇魔法を帯びていてそれで餌を引きつけて狩るようです」


 それなんてローレライ。


「鳥や魚の意志が何となくわかるそうですよ。

 全員魔力量は多いですが、先ほどの歌の闇魔法と水風以外は使えません」


 サイが手を振った。

 画面は消え、二人の間に今まで紹介された種族の立体映像が現れる。


「雪原の人以外は種族間での交流もありますし、仲もそう悪くはありません。ただ、異種間で恋愛沙汰はありません」

「え、ハーフとかいないってこと?」

「はい。そもそも異種間で子は産まれません。

 あなたに例えて言うなら、猿と恋することはあり得ないでしょう?そして子供も産まれない。そういうことです」

「あ、うん。わかりました。変態さんではないので恋愛はありません」

「そう、いれば変態です。逃げてください」

「がってん!」


 朱里は右手を挙げて敬礼をした。

 サイに首を傾げられた。

 通じなかったようだ。まあいい。


「それで、どうしますかね」


 朱里は改めて目の前でくるくる回る立体映像を眺めた。


 内心ではもうこの件を断り、転生しようとは思っていない。

 転生すればこの場で自分の自我がなくなり、新たな人生が始まる。

 今の意識がない自分は自分ではない。別の人だ。

 ならばサイの言葉に乗り、自分のまま生きていきたい。


 問題は体だ。

 今に一番近いのは草原の人だが、改めて言葉にすれば老人期が長すぎる。それでも大丈夫な平穏な種族ともいえなくはないが、なによりせっかく異世界にいくのにそれはつまらなくないだろうか?

 どうせなら異世界っぽい体にしたい。

 だが、雪原の人は遠慮したい。

 寒いのは嫌だ。なによりもう二十年は生きてるから後二十年しか生きられない……?


「ちょっと質問」

「はい、なんでしょう」

「私が転移したら転移後は何歳からスタート?」


 考えてみれば、誕生からやり直す可能性もあった。


「現在の年齢で転移しますよ」


 サイはそう言った。

 ならばやっぱり、雪原の人はない。

 では他に。


 山の人は食べられるか、それがましなほど苦痛な最後が待っている。嫌だな。

 森の人。いいかもしれない。ただ、男の愛し方がな。食べ歩きができなくなる。


「あの、食べ歩き、いや旅行したいんだけど、女一人で種族離れて旅して怪しまれないのって?」

「そうですねー……海原の人は無理ですね。陸に上がれません。雪原の人も国から出ません。それ以外の種族は貿易があるのでおかしくはないです。あぁ、でも、砂の人は悪用されないよう、他国との条約を以て国が個人を厳重に管理してますから不自然かもしれません」

「なるほど、海と雪と砂はだめかー」


 ならば仕方あるまい。


「決めた。あなたのお願い、聞くわ。

 種族は森の人。魔法は全般。ギフトはさっき言った料理に関するあれそれと必中かかった投擲、で、お願いできますか?」


 サイがうれしそうに立ち上がった。


「ありがとうございます!」


 感極まったように朱里にひざまずき、その両手を取って握る。


「よかった!本当にありがとう!

 ここまで説明しても断る人もいて、正直、口が痛くて!」


 サイは苦労していたようだった。


「でも他のみんなもそうだからやめられなくて!」


 訂正、サイ達はすっごく苦労していたようだ。


「転移後の人生楽しんでくださいね!」


 朗らかな笑顔に朱里もつられた。


「はい!おいしいものいっぱい食べます!」


 笑顔だ。


 生きているだけで誰かの役に立つことが保証された人生などそうないだろう。そして、自分ですべてを選んだ人生も。


 つられた笑顔だが、それだけではなく心も軽かった。

 朱里は上機嫌なまま、サイに手を振った。


「いってきます」


 サイも手を振ってくれた。


「いってらっしゃい」


 こうして朱里は一度地球で死んだ後、異世界で別の人生を生きることになった。

20.4.25追加

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