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その1 新聞部の危機

 

  部室のドアを開けたら、そこにはたくさんの新入生が集っていた。昨日は新入生の入部決心が殆ど決まると言われている、新入生歓迎会でした。

  何を隠そう、私はこの部活強制高校の新聞部部員である。何で数ある部活の中からこんな地味な部活を選んだのか。話すと時間がかかるから話さないが、少なくとも新聞部は地味な部活ではないと思っている。毎日のように生徒会と睨み合いっこ。をしているわけでもなく、毎日部室でのんびりお菓子を食べながらパズドラ。なんてしているわけがない。

  とりあえず私達は忙しいのです。自己紹介が遅れました。私は速水 杏と言います。現在高校二年生、先程も言った通り新聞部です。


 「えー待ってたくさんいるじゃない、一体何人いるのかな」


  ちょこんとドアから顔を出したのは布良栞。彼女に気づいた生徒達は小さく歓声を上げていた。つくづく男って馬鹿みたいと思った。でも生徒の中には可愛い女の子も何人かいた。

  布良栞は部長で、ミス虹葉に一年生にして輝いてしまうという、いわゆる美少女。彼女がいる間は新聞部はきっと地味部活ではないはずだ。


 「12人・・・・・・かな。みんな来てくれてありがとう」


  うんうん、と満足げに栞はうなずいた。そして私達は新入生(12人)に部室へ入るようにと促した。部室に入った新入生達は、意外と広いやら綺麗やら色々と言っていた。全て褒め言葉であった。


 「新聞部をなめて来たやつは後悔するからな!こう見えて新聞部は体力勝負。そしてメンタル面でも強い奴しか生きていけないん

だ!!俺達はいつも締切に追われる日々!」


  百均で買ったちゃちい肩たたきで、肩を叩きながらそういきなり新入生に叫んだのは高岡 学。まなぶ、と読むがどう考えても名前と中身が一致していないので私達はガク、と呼んでいる。ガクもミスター虹葉の候補者であったが、極度の変人であり女子からは少し怖がられているとの事だ。

  新入生がそれぞれ椅子に座ったところで、栞はホワイトボードを引きずってきた。


 「みんなは新歓の後に配ったファンファーレを読んで来てくれたってことで良いのかな?」

 「はい!!」


  どう見ても栞狙いの男子生徒も居た。この大人数の中から見分けるのは大変だ。

  新聞部には毎年入部試験というものがある。その内容は決まって―


 「スクープを取ってきなさい!」


  そう、これである。私も栞もガクもこの試験を乗り越えてきたのである。


 「本気で入部したいと思ってるなら、来週までにそれぞれがスクープを取ってくること。新聞部には入部試験があるの」


  一瞬にして生徒達の顔つきが豹変した。その変化にはもちろん栞も気付いただろう。新入生達が部室を出ていってしまってから、私はすぐに栞に言った。


 「ちょっと、やばいんじゃない?本気で入ろうとしてた奴いた?」

 「んー。数人は居たわよ、本気の目の人が」

 「だって私達みんな合わせて6人をもしも超えなかったら、この部活の未来ちょっと危険になるんだよ?ただでさえ生徒会に目をつけられているんだから」

 「生徒会長が何で今年は女なのよ。女だと色々めんどくさいのよね」

 「最終手段は布良さんが脱ぐしかないんじゃないの〜」

 「馬鹿言わないでよガク。もし新聞部が廃部になったら、私達転部しなくちゃいけないんだよ」

 「そうなったらそうなったで布良さんがきっとまた新聞部を作ってくれるさ」


  そんな話をして、あっという間に一週間は経った。入部試験の日、12人より少し減った7人の生徒がやってきた。女子は一人しか居なかった。後はみんな男子だ。


 「じゃあ皆のスクープ教えて。・・・・・・そこの貴方から」


  唯一の女子に尋ねると、女子はスマホの画面を私達に見せてきた。


 「私、ロゴマークが大好きなんです。ついこの間、私のロゴマークコレクションがとうとう100個になったんです!これがスクープです!」

 「あら、素敵なスクープ!!貴方の一番のお気に入りのロゴマークはどれ?」

 「たくさんあり過ぎて選べません。でも強いて言うならこれとか・・・・・・可愛くないですか?」


  その生徒は幸せそうに微笑んだ。まるで世界中のロゴマークに恋しているかのよう。彼女は即合格となった。口調からも見た目からものんびりとしたイメージが醸し出されていた。

  次の生徒はキリッとした整った顔立ちで男子生徒だった。彼は栞に原稿用紙を渡した。


 「私のスクープは、自分が書いていた長編恋愛小説が完成したことです」

 「恋愛・・・・・・小説・・・・・・」


  どう見ても恋愛小説を書きそうには見えない男子ではあった。書くとするなら、架空戦記?そういうのが何だか好きそう。栞は原稿を受け取り、パラパラとめくった。残りの五人の生徒がくすくすと笑っていた。男子生徒は少し困ったような顔をして、 結果を待っていた。


 「良いわね。貴方も採用よ。貴方には是非記事をたくさん書いてもらいたい!!」

 「ありがとうございます!!」

 「・・・・・・後の皆さんは、帰ってちょうだい」


  笑顔でそう言った栞を私もガクも二度見をした。まだスクープすら見ていないというのに!おまけにこのままでは新聞部の部員は五人!ピンチだ!


 「栞、これだと部員人数が・・・・・・」

 「いいの。人の努力を笑うような人は新聞部には必要ないもの。さあ、帰ってちょうだい」


  残りの生徒は言われるがままに部室から出ていってしまった。私とガクが唖然としていると、栞はパンと手を叩いて自己紹介を始めましょう、と言った。

  最初に合格した女子の名前は皆川 奏。将来は広告代理店で働くことが夢だという。レタリングデザイン担当を任せることになり、ガクと一緒に組むことになってしまった。ガクも変人だが、彼女も結構変わり者のようだった。

  次に合格した男子は嵯峨 匠。彼は文章を書く事が昔から大好きで、新聞部を希望したらしい。栞は彼の書く文は綺麗だ、と言っていた。ゲッター、記者の担当を任されて私が一緒に活動を行うことになった。

  実を言うと、私も小説を書いていた。そのため彼とは色々と気が合って、その後親しい関係となる。


 「よろしくね、嵯峨くん」

 「よろしくお願いします、速水先輩」

 「下の名前で呼んでくれて良いよ」

 「あっじゃあそうします」


  匠くんは本当に物分りが早くて、あっという間に追いつかれそうになった。アポの取り方なんかも教えて、一人で取材にも行くようになった。正直、凄い。

  それから、匠くんは柔道をやっているらしい。というか家が道場なんだって。


 「俺の家は道場なので、継がなきゃいけなくなるかもしれないんです。でも俺は、やっぱり出版社で働きたくて」

 「そっか・・・・・・。いつか決めないといけない日が来るんだね」

 「・・・・・・そういえば、杏先輩も何か武道系のものやってますか?体つきが結構・・・・・・あっ何かすみません」

 「中学まで空手やってて・・・・・・それかなぁ。何か共通点いっぱいあるね、私実は小説も書くんだよね」

 「ええっ本当ですか?!どんなジャンルですか?」

 「ら、ラノベ系の・・・・・・」

 「ああ!!何か俺と先輩書くもの逆にしたら良い感じですよね」


  そんなこんなで、私達は二人だけの後輩を大切にしました。しかし。やはり"その時"はやってきたのです。私達全員、触れようとしなかった新聞部のある問題。

  今私は栞とともに生徒会室のソファに座っています。栞は機嫌悪そうに相手を見ていた。相手の顔も険しかった。

  つい数分前、ガクや後輩達に見送られて部室を出発した私達だったが、この生徒会室の雰囲気には秒で殺されかけた。


 「だから、部員は何人居るんですか?」

 「活動日数を週6に増やします」

 「部員は・・・・・・」

 「週6!!」

 「だからそういう問題じゃなくて」


  私達新聞部における大きな問題、それは―部員数が少なすぎること。部活が成立する最低基準は5人。一応今のままでも活動はできるけれど、私達二年が引退した時後輩は2人。不安定な未来が待っているということだ。

  ただでさえ新聞部は運動部のように実績を出すことも難しく、影の薄い存在だ。皆からはいつも何しているの?と聞かれてしまうのがオチ。


 「活動日数多いんだから!新聞部は忙しいのよ、生徒会と同じく」

 「・・・・・・そう。だったら新聞部はコンクールで入賞とか、少しは結果に出してみたらどうなんですか?それから、新聞部の部長に入部試験を受ける権利すら与えてもらえず追い出された、なんて噂も耳にしましたけど」


  そう言って女性生徒会長はちらりと後ろで作業している男子生徒に目を向けた。その生徒は昨日やってきていた生徒だった。仏頂面でこちらをちらりと向こうも見てきた。


 「・・・・・・他人の努力を笑ったんです。だから追い返しました」

 「そんな正直に答えてもらっても困ります。とりあえず、部員を増やすか・・・・・・実績を・・・・・・活動日数を増やすだけでは駄目です。まあ、もう五月に入って新入生は皆入部済みでしょうから、ここから転部させるのはなかなか厳しそうですけど」

 「・・・・・・兼部はできるんでしたっけ」

 「兼部?一体どこの部活と兼部させる気なんですか?兼部が可能ということは現時点ではまだ認められてないです」


  新聞部部長と生徒会長は犬猿の仲、いつの時代も仲がよろしくないようだ。確か去年の先輩もそうだった。


 「生徒総会で会うのが楽しみです。私は兼部制度を作って見せます」


  半ば怒ったように栞は言い捨てると生徒会室を出ていってしまった。それを見てはぁ、とため息をついた生徒会長は私に向き直って言ったのだった。


 「手のかかる部長さんを支えるのは大変ですね」


廃部危機に襲われた新聞部に一筋の希望の光が射す・・・・・・??

次話に続きます。

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