衛姫
「( ねえ、玄武…… )」
玄武
『 どうした、憂姫 』
衛姫
「( もう〜〜、玄武!
『〝 憂姫 〟は、止・め・て 』って言ってるでしょう?
その呼ばれ方は好きじゃないの )」
玄武
『 そうか?
ワタシは良いと思うが? 』
衛姫
「( 私…別に憂いてないし…… )」
玄武
『 衛姫の本性を知ったら、皆は驚くな 』
衛姫
「( 本性って……(////)
仕方無いじゃない。
私…人見知りなんだもの……。
人前で話すなんて考えただけでも(////)
こうして私が私らしく(?)話せるのは、玄武のお蔭なのよ。
ずっと玄武が私の話し相手になってくれているから…… )」
玄武
『 憂姫…… 』
衛姫
「( だ・か・ら!
〝 憂姫 〟は止めい!!
──ねえ、玄武…… )」
玄武
『 どうした、衛姫 』
衛姫
「( 私…何時かは殿方と結婚しないといけないのかしら…… )」
玄武
『 そうなるだろう。
姉上達と同じだ 』
衛姫
「( 良く知りもしない殿方とよ? )」
玄武
『 そうだな 』
衛姫
「( 夫婦になるのよ? )」
玄武
『 そうだな 』
衛姫
「( ………………私は病弱よ? )」
玄武
『 知っている 』
衛姫
「( ……病弱な私に元気で丈夫な子供が産めると思う?? )」
玄武
『 体力があれば大丈夫だろう。
今から体力作りするか? 』
衛姫
「( そうじゃなくて!
……第一、体力作りが出来れば病弱になってないわよ〜〜〜 )」
玄武
『 それもそうか… 』
衛姫
「( 納得しないでよ……。
良くも知らない殿方と夫婦になって…夜の営みをしないといけないでしょう?
そうしないと子供は授かれないし… )」
玄武
『 そうだな 』
衛姫
「( …………姉上様達みたいに元気なら、1度きりの営みで子供を授かる事も出来ると思うの。
……でも、私は姉上様達みたいに健康じゃないわ。
1度きりの営みで子供を授かれるのか…不安もあるの…… )」
玄武
『 そうなのか? 』
衛姫
「( そうでしょう?
良くも知らない殿方と毎夜、夫婦の営みを行う事にでもなってみなさいよ。
──あっ、別に毎夜でなくてもいいんだけど……例えばの話よ? )」
玄武
『 解っている 』
衛姫
「( 体力的にも精神的にも──私…とてもじゃないけど、ついていけないと思うの。
相手の家へ嫁いだ以上は、跡取りを残さなければいけないでしょう。
……私では力不足だと思うの。
それによ、先祖代々の家を受け継ぐのは必ず男子と決まっているわ。
仮に1度きりの営みで子供を授かる事が出来たとしても……女子が産まれてしまったら…って思うと……。
跡取りを授さずかるまで夫ふう婦ふの営いとなみを続つづける事ことになるじゃない? )」
玄武
『 あるかも知しれないな 』
衛姫
「( ……こんな毎まい夜よの繰くり返かえしを病びょう弱じゃくな私わたしが何い時つ迄まで……。
耐たえられると思おもう? )」
玄武
『 なってみなければ分わかからないだろうな 』
衛姫
「( ………………何なんとかして、私わたしの嫁よめ入いりを防ふせげないかしら? )」
玄武
『 はあ?
此こ実じっ処こ家かに居い座すわるつもりか? 』
衛姫
「( そうじゃなくて…。
良よくも知しらない殿との方がたと夫ふう婦ふにならなくてもいい様ようにしてほしいの )」
玄武
『 知しる為ために付つき合あうのだろう 』
衛姫
「( 付つき合あうったって、頂いただいた恋こい文ぶみに返へん事じを書かいたり、一寸ちょっとの時じ間かん、お話はなしたりするだけじゃないの!
それで相あい手ての何なにが解わかるって言いうの?
皆みんな、私わたしに気きに入いられたくて猫ねこを被かぶって接せっして来くるのに……。
それに、私わたしは屋や敷しきの外そとには出でられないんだもの。
遠とう出でなんて…とても無む理りだし…… )」
玄武
『 発ほっ作さの心しん配ぱいなら必ひつ要ようない。
ワタシが居いる。
外がい出しゅつしたいのなら、連つれ出だしてやろう。
遠とう出でも出で来きる 』
衛姫
「( ……父ちち上うえ様さま,母はは上うえ様さま,兄あに上うえ様さまが許ゆるしてくださらないわ。
超ちょう絶ぜつ過か保ほ護ごだもの…。
そのくせ、嫁よめ入いりはさせたがるけど…… )」
玄武
『 親おや孝こう行こうしてほしいのだろう 』
衛姫
「( 親おや孝こう行こう?? )」
玄武
『 1番ばんの親おや孝こう行こうは、両りょう親しんより先さきに死しなない事ことだろうが……。
女じょ子しならば、相あい手て先さきに嫁とつぎ、嫁とつぎ先さきで子こを残のこし、嫁とつぎ先さきの御ご先せん祖ぞを守まもり、嫁とつぎ先さきに貢こう献けんする事ことも親おや孝こう行こうになるのだろうな 』
衛姫
「( …………私わたしにはとても貢こう献けんとか出で来きそうにないけど…… )」
玄武
『 親おや不こう孝こうにも様さま々ざまな形かたちがある。
それが出で来きないからといって、親おや不ふ孝こうにはならない。
安あん心しんするといい 』
衛姫
「( …………うん )」
玄武
『 衛えい姫ひめ…… 』
衛姫
「( ──あっ、ねえ、玄げん武ぶ )」
玄武
『 どうした? 』
衛姫
「( あのねっ──、…………実じっ体たい化か…出で来きない? )」
玄武
『 はあ?
実じっ体たい化か? 』
衛姫
「( そうよ、実じっ体たい化か!!
玄げん武ぶの姿すがたが、私わたし以い外がいの人ひとにも見みえる様ようによ。
なれない? )」
玄武
『 ………………………… 』
衛姫
「( ……やっぱり…無む理り?? )」
玄武
『 不ふ可か能のうではないな 』
衛姫
「( 出で来きるの?! )」
玄武
『 可か能のうだ 』
衛姫
「( じゃあ、じゃあ── )」
玄武
『 待まて、憂うい姫ひめ 』
衛姫
「( むう…〝 憂うい姫ひめ 〟って言いわないでよぉ… )」
玄武
『 ワタシを実じっ体たい化かさせてどうする? 』
衛姫
「( ……え?? )」
玄武
『 実じっ体たい化かする事ことは可か能のうだ。
霊れい能のう力りょくさえあればな。
然しかしだ、実じっ体たい化かする為ためには膨ぼう大だいな霊れい能のう力りょくが必ひつ要ようとなる。
更さらに実じっ体たい化かを継けい続ぞくさせるには、尽つきない霊れい能のう力りょくが必ひつ要ようだ。
この意い味みが解わかるか? 』
衛姫
「( …………霊れい能のう力りょくはあるでしょう? )」
玄武
『 膨ぼう大だいに必ひつ要ようだ。
尽つきない霊れい能のう力りょくはどうする? 』
衛姫
「( ……私わたしの霊れい能のう力りょくでは駄だ目めなの? )」
玄武
『 駄だ目めだな 』
衛姫
「( 即そく答とうしないで!
…………私わたしの霊れい能のう力りょくは、何い時つか尽つきてしまうの? )」
玄武
『 当とう然ぜんだ。
人にん間げんが垂たれ流ながす霊れい能のう力りょくに〝 尽つきない 〟は存そん在ざいしない 』
衛姫
「( …………私わたしの霊れい能のう力りょくが尽つきてしまったら…玄げん武ぶは…どうなってしまうの? )」
玄武
『 衛えい姫ひめにも見みえなくなる 』
衛姫
「( ……それは〝 消きえてしまう 〟という事こと?? )」
玄武
『 消きえはしない。
傍そばには居いる。
見みえなくなるだけだ。
……ああ、会かい話わも出で来きなくなるか 』
衛姫
「( え……??
見みえないし、話はなしも出で来きなくなるの?? )」
玄武
『 そうだ 』
衛姫
「( 嫌いやよ……。
そんなの嫌いやっ!! )」
玄武
『 どうにもならないな 』
衛姫
「( どうしたらいいの?
どうしたら…私わたしの霊れい能のう力りょくが尽つきない様ように出で来きるの?
方ほう法ほうは…あるの??
あるんでしょう? )」
玄武
『 ……………………あるにはあるが…教おしえたくないな 』
衛姫
「( どうして?
玄げん武ぶは私わたしと話はなしが出で来きなくなっても平へい気きなの?
私わたしが玄げん武ぶを見みえなくなっても平へい気きなの?? )」
玄武
『 大だい事じない 』
衛姫
「( はあ?
一寸ちょっと!!
即そく答とうするとか有あり得えない!!
少すこしは躊躇ためらってよ!!
〝 寂さみしい 〟とか〝 辛つらい 〟とか〝 悲かなしい 〟とか──、感かん情じょうは無ないの?! )」
玄武
『 式しき神がみに人ひと間なみ並なみの感かん情じょうを求もとめるな 』
衛姫
「( どうしてそんなに淡たん々たんとしているの! )」
玄武
『 人にん間げんから見みればそうかも知しれないが……。
これでも式しき神がみとしては感かん情じょうは豊ゆたかな方ほうだぞ 』
衛姫
「( …………そうなの? )」
玄武
『 そうだ 』
衛姫
「( ねえ…、玄げん武ぶよりも感かん情じょうが豊ゆたかな式しき神がみは居いるの?? )」
玄武
『 術じゅつ者しゃの霊れい能のう力りょくの強きょう弱じゃくによって変へん化かするからな。
居いない事ことはない 』
衛姫
「( 式しき神がみの感かん情じょうが豊ゆたかなのも豊ゆたかじゃないのも霊れい能のう力りょくが関かん係けいしているの? )」
玄武
『 そうだな。
霊れい能のう力りょくには、質しつの高こう低ていは無ないからな。
霊れい能のう力りょくという肉にく眼がんでは見みえない不ふ可か思し議ぎな力ちからは、人にん間げん自じ身しんの力ちからではない。
霊れい能のう力りょくは神かみしん佛ほとけぶつのお力ちからだ。
霊れい能のう力りょくの質しつがどうだのと高こう低ていやら甲こう乙おつやらを付つけたがる術じゅつ者しゃは破は門もんにした方ほうがいい 』
衛姫
「( 破は門もんは言いい過すぎじゃないの?
……教おしえてあげたらいいんじゃないの?
玄げん武ぶは四し神じんの 一いっ神しんだから、詳くわしいんだし…… )」
玄武
『 姿すがたも見みえず、声こえも聞きこえぬ相あい手てにか?
教おしえ様ようにも無む理りがある。
…………衛えい姫ひめがワタシの代だい弁べんをするなら可か能のうだが? 』
衛姫
「( 私わたしが玄げん武ぶの代だい弁べん者しゃになるって事こと?
……人ひと見み知しりの私わたしに出で来きるの? )」
玄武
『 やりもしないで否ひ定ていするのは簡かん単たんだな 』
衛姫
「( …………術じゅつ者しゃって陰おん陽みょう師じの事ことよね?
その道みちの玄くろうプ人とロよ?
玄げん武ぶの言こと葉ばを代だい弁べんするとしてよ?
素す直なおに耳みみを傾かたむけてくれると思おもう? )」
玄武
『 難むずしいだろうな。
抑そもそも、相あい手てにされるかどうか…だな 』
衛姫
「( だったら!
玄げん武ぶが実じっ体たい化かして教おしえて、あげたらいいのよ!
今いまは私わたしの話はなし相あい手てをする為ために、人ひとの姿すがたをしているけど、本ほん来らいの姿すがたは亀かめと蛇へびの合あわさった姿すがたなのでしょう? )」
玄武
『 はあ?
それは人にん間げんが勝かっ手てに考かんがえた姿すがたでしかない。
本ほん来らいの姿すがたは神かみしん佛ほとけぶつと同どう様ようだ。
目めには見みえないし、姿すがた,形かたちもありはしない。
無む味み無む臭しゅうだ 』
衛姫
「( そ、そうなの??
それじゃあ、私わたしが見みている…私わたしに見みえている玄げん武ぶの姿すがたは誰だれの姿すがたなの?? )」
玄武
『 ワタシが知しるか。
ワタシ自じ身しん、どの様ような姿すがたで衛えい姫ひめに見みえているのか…知しり様ようがないのだぞ 』
衛姫
「( そう…なの?? )」
玄武
『 そうだ 』