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第八話

 スノーは体を凍らせた。

 昇ってくる朝日の暖かさも、もうスノーには届かない。

 維持し続けた冬の魔法が解かれる。

 この世界に季節が無くなる。


 しかしスノーは、なんだか暖かいものに包まれる心地がしていた。


 体に無くなったはずの力がまた少しずつ満ちてくる感覚。


 次の瞬間、部屋の温度が急激に上がる。

 扉の縁を炎が囲い、氷を溶かした。


「「「スノー!!」」」


 部屋に飛び込んできたのは、三人の季節の姫達だった。

 皆がスノーに抱きつく。

 四人の中心から光が溢れ、城下町から確認できるほどの光が塔から発せられる。

 スノーを覆っていた氷を少しずつ溶かしていった。


「あっ......」


 スノーが掠れた声を出す。


 三人の姫は泣いていた。


「ずっと、ずっと扉を開けようとしてたんだぞ!!」


 夏の姫が泣きながら訴える。

 扉を開けた炎は夏の姫の魔法だった。


「どうして、こんな無理するの!!」


 秋の姫も号泣している。


「シルバさんから、話は聞いていました。

だけど、だけど限度があるでしょう!!」


 いつもは大人しい春の姫も今までにないほどの涙を流していた。


「ま、魔力が空気中に満ちてきて、私らでも開けられた。

でも! あと少し遅かったら死んでたんだぞ!!」


「怖かった、怖かったよぉ......」


「私も、本当に、本当に怖かったです!!」


 三人の姫の涙が、スノーの頬にこぼれ落ちてくる。


 ぼんやりと、生きていると実感した。

 頭がうまく回らない。

 だけど、一つだけ分かった。


 ――シルバさん、やったんですね。


 スノーの頬からも涙が一粒こぼれた。

 その涙はもう、凍らなかった。


「あなたはもう限界です。

あとは、私が引き継ぎます」


 涙声で、春の姫が言う。

 スノーをベッドに寝かせると、春の姫は部屋の中心に立つ。

 目をつぶって念じれば、部屋に花のような魔法陣が浮かび上がった。


「あなたが命を懸けて繋いだ冬を、みんなの笑顔と共に終わらせます」


 塔から暖かく柔らかい光が放たれる。

 光は塔を中心にドーム状に広がっていく。

 雪はやみ、厚い雲に穴が開く。

 暖かい風が吹いてくる。

 塔を中心に円状に大きくなる光は、春の日差しだ。

 氷は溶け、生命の息吹きが草木を生い茂らせる。


 春の始まりだった。


 ベッドの上、夏の姫と秋の姫が見守る前で、スノーは右腕を持ち上げ指先を天井に向ける。


 ――最後に、最後にシルバさんに祝福を......。


 自分に残るほんのわずかな魔力を使う。


 ――私に出来るのはやっぱりこれしかないから......。


 スノーの指先が(わず)かに発光する。

 そして力尽きたように腕をゆっくり下ろすと、スノーは眠ってしまった。

 春の日差しに負けない、穏やかな寝顔だった。




◆□◆□◆□◆




 城下町、朝日が上る頃。

 小さな一軒家。



 少女は目を覚まして、ゆっくりと窓の外へと目を向けた。


「............」


 瞳が見開かれていく。


「雪が、雪がやんでる!!」


 がばっと上半身を起こすと、窓を押し開ける。


 暖かな風が頬を撫でた。


 ベッドから飛び降りると、急いで部屋を出る。


「お父さん! お母さん!」


 すぐに、二人の顔が目に飛び込んでくる。

 ずっと願っていた、本当の、優しい笑顔だった。

 少女の大好きな笑顔だった。


 少女と父と母は思いっきり抱き締め合った。


 その暖かさは国中に広がり、誰もが幸せそうに笑っていた。




◆□◆□◆□◆




 世界樹は暖かい風に撫でられていた。

 生い茂る葉は青々としていて、根や枝も力強い。

 美しい姿だった。

 呪いは解かれ、その役目を(まっと)うしている。


 世界樹の根本に一人の人間が倒れている。

 体に力はなく、瞳の光は今にも消えゆこうとしていた。

 しかし表情は穏やかで、どこか満足しているようだった。


 瞳が、ゆっくりと閉じられていく。


 そんな時、ゆらゆらと舞い落ちるものがあった。

 周囲は暖かい空気が満たし、空には雲もほとんど見られない。

 あまりに場違いな、季節外れの雪だった。


 雪が一粒だけ、落ちてくる。

 のんびり、ゆっくり、落ちてくる。


 雪は世界樹の葉に舞い降りた。

 そうすると、暖かい日差しに溶けてしまった。


 水滴はつつっと葉の上を滑ると、葉の先で少しとどまったあと落ちていく。


 ポタッと、根本に倒れていた人間の口に落っこちた。



 人間の体にあった傷がふさがる。火傷が消える。


 人間は大きく呼吸をした。


 瞳が、開かれる。

 

 


 

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