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第二話

 王国でもっとも高い場所。

 "季節の塔"で冬の姫、スノーは一人立っていた。

 その眼差しは窓のむこう、遠く雪山をとらえている。


 スノーのいる部屋と外とを繋ぐ扉は凍りつき、他の姫であっても開くことはできない。

 つまり、魔法を扱える人間が四季の姫だけになってしまったこの国で、扉を開くことができるのはスノー以外にいないのだ。

 そして彼女こそが全ての元凶、王国の冬が終わらない、その状況を作り出している本人だった。

 毎日人がやって来ては悲しみを訴え民達の苦しみを語って彼女に出てくるよう促す。

 しかしスノーは動かない。

 まるで氷の彫像のように遠くを眺める限りであった。


 立ったまま、スノーは思い出を回想していた。


 ――あれはきっと、姉様達が三人いたから四季の姫がまだ私達ではなかった頃。


 末っ子のスノーは姉達と共に城の外の森で遊んでいた。

 魔法を使って城を抜け出してしまったのだ。


 スノーは不安に思いながらも、姉達と共に森の中を歩いていた。

 いつもは出られない外の世界で姫達は皆、興奮していた。


 それが良くなかったのだろう。


 誰からともなく、姫達は走っていた。

 やがてそれは追いかけっこになり、競争になり。


 突然、視界が開ける。


 そこは崖だった。

 幼い姫達の体では、落ちたらまず助からない。


 何ができるでもなく、悲鳴をあげて姫達は落ちていく。

 スノーは怖かった。


 怖い! 怖い! 怖い!!


 恐怖で頭が真っ白になる。

 そして気づけば体が淡く光っていた。

 何を意識したわけでもない、その頃はまだ魔法を満足に扱うことは出来なかった。


 けれど――。


 姫達が落ちる先、雪の結晶のような青く光る模様が地面に描かれる。

 まばゆい発光の後、白い雪が山のように生み出された。


 そして、雪によって衝撃を防がれたスノー達は助かったのだった。



 ――しかし雪から這い出た崖の下、私達は道に迷ってしまった。



 日が落ち、スノー達は洞穴の中で体を寄せあって震えていた。

 

 このまま見つからないのではないか。


 そんな思いが心を蝕んでいく。


 春の姫がスノーを抱き締める。


「大丈夫ですよ。城の側には危険な生き物はいないし、ここで待ってれば必ず助けは来ます」


 姫達は皆スノーに優しく、あまり年の離れない姉妹だったが、長女の春の姫は皆の不安を取り除こうと明るく振る舞っていてくれる。

 少しだけスノーの心が暖かくなる。


 そんなときに遠くから足音が聞こえた。

 城から大きく離れ、見つけるのは困難だろうその場所へ、その人はやって来た。

 洞窟の前に黒い影が立つ。


「お迎えに上がりました。騎士のシルバと申します。お怪我はありませんか?」


 それが騎士シルバとスノーの出会いだった。



 ――本当に安心しました。あなたの顔を見たとたん力が抜けて、私は気を失ってしまった。



 城に戻った姫達は酷く叱られた。


 スノーはあの後高熱を出してしまったので、しばらく寝たきりだった。




◆□◆□◆□◆




 数日後、ようやく熱も収まった晩のこと、スノーの枕元に小さな光が現れた。


「あっ! 妖精さん!」


 それはスノーが生まれたときから身近にいる存在だった。

 姉達に言っても信じてもらえなかったがスノーにとっては友達で、話し声だって聞くことができる。


「お祭り? 行きます!」


 妖精達が中庭で祭りをしていると言う。

 この前叱られたばかりだったが、妖精は友達だ。悲しませたくはない。

 それに中庭なら危険もない。

 スノーは部屋をそっと脱け出して歩いて行った。

 城の中を進んで中庭への扉を開ける。


 ――あれは、本当に綺麗だった。


 まるで、別世界だ。


 中庭には様々な色の妖精が飛び交っていた。

 中庭を中心に輪を作り、ぐるぐると回っている。

 輪は一つだけではなく様々な大きさの輪が縦に並び、天高く、まるでひとつの塔のようにどこまでも続いていた。

 その中では、妖精達が集まって大きな球になって膨らんだり、渦になったり、次々と姿を変えて輝いている。中庭は光で埋め尽くされ眩しいほどだ。

 綺麗な音楽が流れていて、それが妖精達の歌なのだとスノーは少しして気づいた。


 スノーはそれをぼうっと眺めていた。

 あまりに綺麗で言葉が出ない。

 頬を紅潮させてただただ感動していた。


 しばらくして、中庭と城内とを繋ぐ扉が開いた。

 スノーは思わずびくっとなる。

 見つかれば、怒られるのは間違いない。

 けれどスノーは突然のことに動けなかった。


 出てきたのはシルバだった。

 白髪の騎士。

 光の塔を見上げ、目を見開いて硬直していた。

 口も開いてしまっている。


 それを見たスノーは何故か安心してしまった。


 自分に気付かないシルバに少しずつ近づいていく。


「あの......見えているんですか?」


 シルバがゆっくりとスノーを見る。

 顔が驚愕に染まった。


「ひ、姫様!?」


 シルバは急いで地面に膝をつき頭を垂れた。

 それを見て、妖精達が愉快そうに揺れる。


 「あっ、だっ大丈夫ですから! 頭を上げてください!」


 自分でも何が大丈夫なのかは分からない

 そこでシルバは正気に戻った。


「ひ、姫様? 何故、このような場所に?」


「あっ......」


 一瞬にして立場が変わった。

 スノーは城を抜け出していた。


「そ、それは......その。これを」


 スノーは妖精達を示す。


「やはり、幻覚では無いのですね」


「はい......多分......」


 スノーは怒られると怯えていた。

 それを見てシルバは出来るだけ優しい声でスノーに語りかける。


「お体は大丈夫ですか?」


「はい、もう大丈夫です」


 スノーは少しだけ安心したように笑みを浮かべた。


 それからスノーとシルバは並んで座って妖精達の祭りを眺めていた。

 スノーはシルバの隣りだと不思議と安心することを知った。


 ぽつぽつと話をする。

 話題はこの前の城を抜け出したときのことだ。


「それで、何故かたくさんの雪が現れたんです。

塔の外では魔法はほとんど使えないはずなのに」


 スノーは崖から落ちたときのことを話していた。


「......それはきっと、共鳴魔法ですね」


 スノーはシルバの顔を見て首をかしげる。


「スノー様。魔法というのは人の、思いの力だと言われています」


 スノーは頷く。

 どこかで聞いたことがあった気がする。


「人は誰かと一緒にいて同じ思いを共有するとき、思いが強くなるのです」


 シルバの語り口は静かだった。


「誰かが怖いと思っていて、自分も怖いと思えばその思いは大きくなる。誰かが勇敢であれば他の人も勇気を貰える。そうやって人の思いは重なり合うのです。同じ思いを共有すれば、魔法の力も他の人の思いが強めてくれる。それが、共鳴魔法です」


 スノーは上手く理解できないようだ。

 まだ魔法に触れる機会も少ないため仕方ないのかもしれない。


「私は今、スノー様とこの光景が見られて楽しいです。スノー様はどうですか?」


「わ、私も楽しいです!」


「ならば、それが近いかもしれないですね」


 そのシルバの優しい声があの時の、洞窟の中の春の姫の声と重なった。

 今度はじんわりとシルバの言葉が胸の中に伝わった。

 


「......ですが、そんなことがあったとすると、スノー様が体調を崩されていたのはそれのせいかもしれませんね」


「えっ? どうしてですか?」


「自分の力を超えた大きな魔法を使うには何かしら代償が必要になります。それは逆も同じで代償を払えば大きな魔法が使えます。スノー様は突然魔法を使ったため、熱が出てしまったのかもしれません。ただ疲れてしまっただけというのもあり得ますが」


 シルバは博識だった。

 スノーはシルバと共に妖精達の祭りの中、楽しい夜を過ごしたのだった。





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