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二.現実という名の悪夢

ふと、海のように見えていた町並みが消えうせ、真っ白い建物が並ぶ色のない風景に眉を寄せる。


―――『竜宮城』全域のCOSMAPが一時的に解除されました。


「あら、何があったのかしら。それにしても騒がしいわね。この子が起きちゃうじゃない」


 さっきの爆発騒ぎといい、お祭りといえどみんな羽目を外し過ぎではないかと夫に同意を求める。

 ぽつん。

 粘着質な何かが鼻の上に落ちてきた。完璧に管理されている宇宙船「竜宮城」内の外交区画で突然の雨なんてありえなかった。何らかのトラブルでも発生したのかとフェネストラを開く。雨かと思って無意識に触れた手を見れば真っ赤に彩られていた。


「えっ……ねぇ、あなた?」


 ぼた、ぼた、ぼた……だだだっ。バケツをひっくり返したような水が女を濡らした。叩き付けるような雨の一粒一粒から、鉄臭い匂いがした。恐る恐る旦那のいたはずの場所へ顔を向けてみる。そこには、旦那の服を着た雪のような白い兎が、背中を丸めてベビーカーの中にいた子供を一心に食らっていた。


「はぁ?」


 女は顔を青ざめさせ茫然と立ち尽くした。カッターナイフの刃を滑らせたような音に吸い寄せられた。そして、夫に送った腕時計をしている兎が、二重、三重と円状に並ぶ歯茎と八重歯が、がばりと開かれた。そして、残酷な花が、開花した。





 その少年たちは外交区画で面白いものが見えるというSNSの情報を頼りに、野次馬をしに来ていた。まるでそこは、舞台とでもいうように壊れた館の中には、美男美女がいて、大迫力の演出には驚かせた。


「うわっ」


少年は、ぬめっとした感触が腕にふれて、反射的に腕を振り払った。突然、騎士の美女が、何の意図があってかCOSMAP解除したせいで、すっかりみすぼらしくなった服に唇を尖らせる。


「おまえ、だっせぇ服」

「そっちも人のことわらえねぇ。っていうか、お前腕大丈夫? 赤くなってんじゃん」


 友達に指摘されてみると、腕は炎症を起こしたのか赤くはれていた。異常を認識したせいなのか、ピリピリとしたものが走り、腕を押さえつける。


「痛ぇ。病院行ったほうがいいかな」

「なぁ、これってなんか、まずいんじゃないか」

「え」


 平和な箱庭の中で育った少年たちが危機感を持つのは遅すぎた。気がついた時には胴体に触手が絡みつき、地上から遠ざかっていた。身体に力が入らないことに焦りつつ、唯一動かせる目が、ぎょろぎょろと行き先を見据える。白い傘の先に、半透明な海月の体内で、強烈な酸に焼かれるように徐々に溶けていく人間の身体があった。余りにもスプラッタな視覚映像に少年は喉の奥で引き攣った叫び声を上げた。





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