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一.「吸血鬼事件」

ブックマークありがとうございます。このまま毎日更新目指します。明日は7時くらい更新予定。

 そんなこんなで数日が過ぎ、もうすぐ議会が終わりハロウィンの最終日かと、レグルスたちとの数日間のことを、あれこれと思い出しているとき、事件は起こった。

 今にも泣きそうな、というかもうすでに泣いている見覚えのある子供たちを見かけたので、リコリスは声をかけた。


「どうしたの」

「し、しんほあねえちゃんがぁあああああ。だずげ、て。うわあぁあああん」


 耳鳴りがしそうなほど大きな鳴き声に、びくっとする。子供たちの頭部にちょこんとある耳は、しゅんとしおれていた。その必死な子供の叫びに、リコリスはしゃがみこんだ。


「ひっく、ひっく。じんほあねえぢゃん。きえぢゃった。ざらわれ、ざらわれぢゃっだぁ」


「全身真っ黒で、すんごく綺麗な男の人が心花のおねえちゃんと一緒に霧になっちゃって、それから、どこにもいないの」


 さらわれたという物騒な言葉に息をのむ。リコリスは、レグルスたちにどういう意味か分かるかと視線を投げかける。首を横に振られると思いきや、意外なことに目を伏せ頷かれたので驚いた。


「それはいつのことかな」


 リコリスは子供たちを安心させるために、落ち着いた声で言った。けれど心中では、ひどく暗い不安や焦りのようなものが広がっていた。


「あ、時計見てなかった。ごめんね。どうしよう。心花のお姉ちゃん助けられない?」


 リコリスは下唇を噛みながら、自然に目に入る時間のヒントを探す。これが、他の天体都市なら、太陽の位置がどの辺だったかなんて聞くこともできただろうけど、『竜宮城』では、光の位置は変わらない。


「公園の鳥の色! 前、おねえちゃんが、時間ごとに違うって言ってた!」


「わたし、覚えてる。赤っぽいオレンジだった! いっちゃんに、色鬼で捕まりそうだったとき、赤かオレンジか悩んだけど、いいやっておもって鳥さんにタッチした」


 リコリスは、目を開く。公園の鳥とは、鳳凰のモニュメントの事だろう。赤色は、二時を表し、オレンジ色は三時を表す。


「どっちの色が強かったか覚えてる?」

「赤!」


 リコリスは安堵を誘う微笑みを浮かべて子供たちの頭を順に撫でていく。タツノオトシゴに似ているマツカワガイの鐘楼が時を告げる。


「マリア、詳しい話をこの子達から聞き出してもらえる? こういうのは、やっぱりマリアみたいに慣れている人がいいと思うから」


「頼りにされるのは嬉しいですが、わたくしよりあなたの方がこの子達は話しやすいと思いますわよ?」

「何か心当たりがあるマリア達の方が、いいと思ったの」


 子供たちをマリアに任せ、リコリスはレグルスのところに向かった。リコリスは、口の端を下げ、カーネリアンの瞳に昏い光が浮かべる。


「心当たり、あるのなら何でもいいから教えて……あたし、今、冷静でいられる自信がないの。ねぇ、レオくん。これって、『連続失踪事件』と関係あるかなぁ。それとも、船長の娘である心花を狙ったもの?」


 リコリスは、何かを耐えるように肩を震わせた。


「失踪した人たち、戻ってきてはいるけど……あの子に、心花に何かがあったら、あたし……」

「攫われたんだったら、どこかに手がかりがあるはずだ。一つずつしらみつぶしでもいいから探してみよう。報告を上げた?」


 リコリスは首を振る。当たり前のことが頭から抜け落ちるほど動揺していたのだ。気を抜くと、腰が抜けてしまいそうだ。この数日間、尋ねた被害者と同じように、自分もあんなように心花から忘れ去られてしまったらと思うと、全身から血の気が引いた。


「嫌だよ。もう、誰かを失うなんて、耐えられないっ」


 だだをこねる子供のように泣き言を漏らす。胸の内に抱えているだけでは、気がおかしくなりそうだった。


「リコリスさん。少し、お話いいですか。子どもたちから聞いた話を共有しておきたいんです」

「子供たちの話を聞く限り、心花さんは『連続失踪事件』に巻き込まれた可能性が高いと思われます。子供たちの証言は、調書にあった内容との類似性が高いのです。子供たちの話だと、『吸血鬼』にさらわれたみたいですね。事件状況的に、最近連続して発生している『吸血鬼事件』に巻き込まれた可能性が高い」


 ぐにゃりと、チタンの床が沼のように沈んでいく錯覚がする。耳から入ってくる言葉が、幻聴の悲鳴に塗りつぶされそうになって、心が散り散りにかき乱されていく。


「『吸血鬼』って」


 リコリスは想定していなかったような言葉に、氷水を流し込まれたかのような悪寒に震えた。


「リコ、もしかして、『吸血鬼事件』を知らないのか」


 過剰な反応に、マリアが怪訝そうな視線を向けてくる。嫌な汗が背中に流れる。ハロウィンだから、吸血鬼の仮装をした人間なんていくらでもいるはずだというのに、どうしてもその言葉は、奴らを想起させて忌避してしまう。


「『神隠し事件』なら、知っているわ」


急速に水分を失った口腔内に酸素を取り入れ、やっと声を出すことができた。


「? 呼び名が違うのか? どうやら一週間近く一緒にいたのに肝心な情報のすり合わせができてないみたいだな」


「とりあえず、これを見てくださいませ。騎士団内部で出回っている記事ですの。簡単な概要の理解ならこっちのほうがはやいですわ」


マリアは、慣れた仕草でフェネストラを操作し、共有ファイルに過去のニュース記事をアップロードする。『宇宙船竜宮城に吸血鬼現れる!』という見出しから始まる文を食い入るようにリコリスは見る。

―――人間離れした美しい美貌の主。霧となって消える被害者たち。失踪直前に現れるコウモリ。これらの複数挙がった目撃情報と被害者が記憶と少なくない血液を喪失し、首筋のみに二つの穴がある状態で発見されていることから、我々は被害者は「吸血鬼」に魅了され生き血をすすられたのではないかという推測する。


「首に傷ね……そう、それで、『吸血鬼』」


リコリスは、マリアに感謝を告げながら、少し複雑な表情を浮かべる。


「証言に合った姿は、おそらくCOSMAPでの仮装でしょう。あれでしたら、簡単に姿を変えられますし、変えたところで怪しまれませんわ。ですから、『吸血鬼事件』と決めつけすぎるのもよくないかもしれませんわ。心花さんはこの船におけるいわばプリンセスですもの。この件が公になると大変な騒ぎになりそうでしたので、子供たちには口止めをしておきました」


マリアに、関係各所の連絡と警備ロボの手配を任せ、リコリス達は「竜宮城」で最も情報が集まる霊場へと向かった。


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