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二.彼岸花

 リコリスたちは褄を作り、ゆったりと海上フロアにあるビジネス・ゲストエリアを見回っていた。警邏とは名ばかりで、実際は火星の有力子息と令嬢に「竜宮城」内を見てもらうといった感じだ。一応、いざというときに備えて、議員たちを彼らが素早く安全な場所へ誘導できるように避難経路を教えていく。


「さすがに疲れましたわね。午前と午後三時までの間で六件は小さな事件を解決しましたもの。『竜宮城』の治安は他の天体都市よりも格段に良いと聞き及んでいましたのに……」


 説得担当は心花が買って出ているものの、肉体労働を伴う仲裁は、騎士の二人に任せきりだったので、疲労がたまっているのだろう。


「治安はいいと思うよ。特に、海階。このエリアは、議会の影響で俺らのようないろんな天体都市の人間が来訪しているから特別だと思う。文化の掛け違いや男女間のトラブルといったこまごまとしたものはしょうがないよ」


 一番リコリスが仕事をしていないように聞こえるから不思議だ。一応、ハロウィン用の店内COSMAPの不具合や子どもたちの玩具の修理をしているけれど、マリアたちと比べるとやっていることに見栄えが足りないのかもしれない。


「みんなやっぱり、どこかピリピリしてるね。海階の方もゲストエリアの方もいろいろとあるみたい。警備員増員して解決する問題じゃなくて、警備員と騎士同士の中もね……」


 さすがに足が疲れたということで、マリアが行ってみたいと言い出した喫茶店へ足を向けた。イペの縁甲板の上をカランコロンと下駄を鳴らしながら歩いていると、親戚の子どもに接するかのような気安さを伴う声が掛けられた。


「あらぁ、穴倉娘が出てきたと思ったら、こんなに美人になっちゃって。おねえさん、びっくりしちゃったわ」


 紫薇に、クロード花屋に寄って行くように言いつけられていたけど、海階ではなくデッキという意外な場所でオリヴィアに遭遇し、驚きの声を上げる。栗毛色の髪を柔らカールさせたエプロンドレス姿のオリヴィアを心花が二人の騎士にそれとなく紹介する。花屋の看板娘でリコリスのお得意さんだと補足すると、レグルスはまるで保護者のような態度で改まって挨拶するもんだから思わず失笑してしまった。


「くすくす、モグラ姫が地表に顔を出したのはそこのイケメン君のおかげかしら。私が作ったプリザーブドフラワーが日の目を浴びて嬉しいわぁ」


 この店の看板娘はわが子の成長を見るような目で二人の艶姿を眺める。視線に気付くと柔らかく微笑んでくれ、和やかな空気が流れた。


「これ、オリヴィアさんの作品だったんだ。作ってくれてありがとう」


 リコリスは壊れ物を扱うようにそっと、頭部に飾られた花に指を這わす。目に映る世界の明度が数度上がったような気がした。


「あたしの名前の花飾り、驚いたけどとてもうれしいわ。オリヴィアさんの手作り……やっぱり世界に一つだけのものって幸せ。本当に、ありがとうございます。もしかしてこの花ってわざわざ旦那さんが栽培したんですか」


 この花は、毒を抜いて非常食とすることが可能だが、根に子供を死に至らせるほどの毒を持っているのだ。そんな不吉な花をリコリスのためだけに咲かせてくれたことに愛されていることを実感する。


「えぇ。やっぱり自分の名前の由来となったものって特別だもの……リコリスだけだったら、甘草だけど、リコリス・ラディアータなら彼岸花よね。彼岸花はね、龍爪花ともいうのよ。なんだか、リコちゃんにぴったりだと主人と話していたの」


 リコリスは、死人花や地獄花、毒花などの不吉な名前は知っていたけれど初めて聞く異名に耳を澄ませる。オリヴィアは、にっこりと笑ってオリーブの白い花を編み込んだ髪をそっとかき上げる。


「そーいえば。彼岸花の花言葉って何なんですか」

「そうね……確か。諦め、独立、再会、情熱、悲しき思い出、転生、思うはあなた一人、深い思いやりの心だったかしら? 色によっても違った気がするんだけど、あんまり取り扱わないからはっきりと思い出せなくてごめんね」


 独立は、葉が無くて、花だけが美しく咲いている様子であり、情熱は、火のような赤いあの美しく激しい形状から来るのかもしれないとレグルスは口元に指を添える。再会という花言葉は、二人の再会を暗示しているようだと尾をくゆらせた。



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