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不思議は人の形でやってくる。

プロローグ 不思議は人の形をしていた。





―――事実は小説より奇なり


よく聞く言葉だけど、本当かどうかは判らない。


平凡に生きている限り、自分には全く関係が無いと、人は思っているからだ。


けれど、望んでも無いのに、不思議は向こうからやって来る。


しかも、ある日突然に。





「よ。お帰り」


「・・・」


帰宅した小林秋が自分の部屋に入って目にしたのは、ベッドに腰掛け、くつろいだ青年の姿だった。


秋に兄弟はなく、両親の離婚によって父親に引き取られたのが小学校3年生の時。


以来、6年間、ずっと一人っ子だったわけで。その父親も単身赴任で大阪に行き、今は2LDKのマンションに独りで暮らしている。


と、いうことは彼は不法侵入者な訳で・・・


「家には、盗るほどの価値のある物なんて、無いですよ。とびきり裕福っていう訳では無いですから。一応、今月の生活費が、リビングにある、棚の引き出しの2段目に入っていますから、それを持ったら早く出て行ってください。」


「・・・俺がただの泥棒に見えるか?」


「・・・まぁ。泥棒じゃなかったら、ホストのようにも見えます。」


「ホスト~?!」


「違うんですか?」


年の頃は20代前後。艶やかな革靴に、黒のスーツ。胸のポケットにある、サングラス。極めつけは、右耳の紅いピアス。色素の薄い髪に野性味ある整った顔立ち。


・・・泥棒じゃないなら、ホストだろう。


「違う。失礼なやつだな。人を見た目で判断しちゃいけないと、教わらなかったか?」


「教わりました。でも、ここは僕の家で、勝手に侵入した貴方は失礼じゃないんですか?」


「うっ・・・。それはだなぁ・・・まぁ、勝手に入ったのは悪かったけどな。ちゃんとした理由があるんだから勘弁な。」


「理由・・・?」


理由があったって不法侵入は許される事では無いと思うけど。


「何ですか?」


すると、作ったような満面の笑顔を浮べ、目の前に、ずびしと、力強く突きつけられた人差し指。


・・・この前来た、富山の薬売りの訪問販売員に似てる。


「お前をスカウトしにきた。」


「・・・?」


何のことだろう。


今、スカウトとか聞こえた気がしたけど。すると、ご丁寧にも青年はもう一度言った。


「お前を座敷わらしにスカウトしにきた。」


繰り返される台詞。今度はきちんと全部聞えた。


「・・・・・は?」


「だからな。お・ま・えをざ・し・き・わ・ら・しにスカウトしにきた!!」


再度、繰り返される台詞。


「すみません。大変混乱しているので、少し待っていてください。」


「おう。」


部屋を出て、キッチンへ行くと、冷蔵庫からミネラルウオーターを取り出し、飲む。


周りを見渡す。代わり映えしない我が家。外は快晴で、暖かな陽ざしがフローリングの床を照らす。ベランダには、朝、登校する前に干した洗濯物がはためく。


きっと、疲れてて、幻覚でも見たんだ。


「うん。気のせいだな。」


もう一口含み、飲み込もうとしたとき。


「なぁ、何か飲むもんとかないの?」


瞬間、背中に声を掛けられ、驚いて飲み込んだ水が、気道に入り、盛大に僕は咳き込んだのだった。


話があるという自称座敷わらしは、僕に指摘され、短い謝罪とともに靴を脱ぐと、リビングくつろぐ。


とりあえず緑茶を出し、僕は、警戒心丸出しにしてソファーに座る。


「お前、座敷わらしって聞くと何想像する?」


聞かれて頭に浮かぶのは・・・


「そうですね。ちゃんちゃんこに草履姿が一般的に普及してると思います」


「うん、うん。だよなぁ・・・。でもま、それは一般人の想像に過ぎないわけだ」


そう言うと、慎重にお茶を口にする。どうやら猫舌らしい。


・・・なんか、嫌だ。こんな座敷わらしなんて。


「まぁ、そんな格好っで頑張ってる奴もいるけど、大体皆普通の格好で仕事してるぜ。最近は、人手不足でさぁ、皆官庁とか割りいい方に行っちまうから、人事大変なんだな。これが。」


「・・・・・・・・」


「座敷わらし組合っていうのはさ、正確には、日本国特別的普遍不思議保護・保持組合というわけで、長いだろ?だから、自分が所属する不思議の名前をくっつけて呼ぶわけだ。オレは、座敷わらしだから、日本国座敷わらし組合。OK?」


「・・・・・・・」


「俺ら座敷わらしの仕事は、魔物から、ご近所の平和を守る事にある。つまり、正義の味方なわけだ。ほかにも、雪女だったら禁忌の場所に近づく人間を罰するとかさ。未然に防ぐとかさ。まぁ、そういうのは、おいおい覚えていけばいいしな。で、もちろんやるよな?」


「・・・嫌です」


「何で?」


きょとんとした顔で聞き返される。


「ありえないでしょう。そんな話。聞いた事もないし」


「ありえるから、オレがいるんだろ?聞いた事無いのは、国家機密だから。べらべら喋ったら、極秘に活動する意味無いだろ?」


「・・・座敷わらしって国家公務員なんですか」


「おう。ほれ。証明も出来るぞ」


そう言ってスーツの内ポケットから差し出したのは、カード。


訝しげに手を伸ばすと、ひょいと渡してくれる。触って見ると、真っ白な石を薄く削り出して、作られた様で、表面に彫られた文字には、銀が流してあるらしく、きらきらと耀く。その文字を見て、俺は言葉を失った。


―――座敷わらし証明証 証明番号000256589

座敷わらし名 タロウ

  

  以上の者を座敷わらしだと証明する。


 日本国特別的普遍不思議保護・保持座敷わらし組合―――


「何ですか・・・。これ」


もの凄い違和感を感じる。


「だから、オレの身分証明書だ」


「タロウって・・・?」


「オレの座敷わらし名だ」


「組合・・・」


「全国の座敷わらし達を統括、管理してる」


「・・・達」


「おっ。着目点はそこか。日本全国、オレ一人で回れる訳ないだろ?警官だってうじゃうじゃいる。だから、座敷わらしだってうじゃうじゃいるんだ。」


「・・・・・」


いったいどういう理屈なんだろう。



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