Main chapter1「ノーバディ2」
長くなったので二話に分けて投稿しますが一気には投稿しません、できればストックをもう少し作っておきたいので時間稼ぎです。分けているため中身すっからかんですが次で取り戻せる気がする(迫真)文章力がないから無理?大目に見てくださいお願いしますなんでもしますから
「まず自己紹介でもしましょう、これから苦楽を共にする仲になるわけですし」
目の前の女の子は慣れた口調で言葉を繋ぐ、きっとここに至るまでに自分のような生物との対話経験を積んでいるのだろう。彼女の提案を了承し、会話を続ける
「はいっ、それじゃあ名前を聞いてもいいですか?」
『申し訳ないが持っていない』
「あらら……じゃあ、えっと……」
『正直何も教えることがないんだ、すまない。記憶さえあれば話せることが増えるんだが』
「あぁ……記憶がないんですね…ごめんなさい」
しまった、余計なことを話してしまったか?わざわざ今言わなくても良かったのに何をやってるんだ自分は。
この雰囲気をポジティブな方向に持っていくにはどうしたらいいのだろう、そういえば女の子の自己紹介が終わっていなかった、聞かなければ
「私はあなたのように不確定な部分が多い生物のサポートを続けている「五十鈴」といいます、結構長い旅になると思いますが、一緒に頑張りましょうね!」
女の子……ではなく、五十鈴は見上げる形でこちらの顔を覗く、以外に身長差がある事への驚きと同時に「何歳なんだ」という疑問が芽生えてここのえの顔を見るが、やはり10~14歳ほどの見た目だ、スーツより学校の制服が似合いそうな顔をしている。
彼女が明るい性格で良かった、一度暗い雰囲気になってしまうと発言しにくいだろうに。
『ああ、頑張ろう』
「よし、それじゃあ目的地とあなた自身の目標を複数決めてしまいましょう」
『目標?』
「この旅であなたが成し遂げたいことを決めるんです、例えば困っている人を極力助ける、みたいな」
成し遂げたいことか、特に思いつかない。強いて言うならば美味しいものを食べたいとか綺麗な景色を写真に収めたいとかなのだが……それは成し遂げるというより願望になるはずだ、しかし成し遂げるとなれば本当に何も……いや、五十鈴がいい例を出してくれているんだ、これを利用しない手はない
『じゃあ人間に貢献できる働きをしよう、具体例は……人助けしか思いつかないが』
「了解です!メモメモっと……よしっ次はあなたの姿をなんとかしないといけません、ほかの人が見るとびっくりしちゃいますから」
『姿か、あまり意識はしていなかったが一応鉄くずの形や配置は自分の意志で変えれるはず』
「それなら話は早いですね、それではこの図通りの形を自分の体で作ってみてください!」
五十鈴が背伸びをして渡してきたのは一枚の設計図のような絵のみ、設計図には関節が複数の歯車でできている鎧が紙いっぱいに描かれている。全体的な形はもはや芸術とも言える流線形のプレートが多く使用されており「波」をそのままトレースしたようなイメージを感じた、少々ゴツイ。
まぁ、一番最初に受けた印象は別にある、この鎧には首から上が設計されていないのだ
『頭は……』
「必要ありません、それで完成図です。あなたには目が存在しないので頭がなくても周囲の状況を把握できると思ったのですが、間違っていましたか?」
なんだか同じようなことを言われた記憶がある、恐らくは基地内の人間に言われたのだろう、どうも体を調べられるのに気が乗らなくてぼんやりとしか記憶できていないらしい
『いや多分合っている、早速形を変えてみよう』
他の人に会うと驚くから形を変えるはずなのだが首から上がないのでは更に驚かれそうだ、今の見た目よりかはマシなのか。
ともかく形を変えてみよう、まず、頭の部分の金属を胴体部分に移動させる、次に体の内部でパーツを一つ一つ作り……あとはパズルの要領で装甲を内部から外部に露出させて余った金属をパーツの補強に使い、終了。意外に簡単な作業だが、簡単なだけに油断しやすかった、露出させる途中に順番や場所を間違えてしまうとグチャグチャになってしまう可能性がある、そうなれば一度体をバラす他ないだろう。それはそうと外はきちんと見える、なんの問題点もないみたいで助かった、下を向くと胴体が見えるということは無いはずの頭部分から周囲が見えているのだろう
「おお、中々様になってますね!剣があれば騎士みたいですよ!」
『そんな物騒な……』
「街の外の方が物騒なので自衛用に持ってる人は多いですよ、最近は銃の方が多いですけど」
『外が?犯罪者の集団でもいるのか』
自衛で剣か、自分が基地内にいた数年で何が変わったのだろう。フェアルの中は確かに常識の世界からかけ離れていた、半壊しているビルや港があり、なにか災害の傷跡なのだろうと思っていたものの復興作業は始まらなかった、まるで「そういう街」だったかのように誰もこのことを話題に上げないのだ
「魔物と言ったほうがわかり易いですね、化け物です」
『へえ』
「この世界は結構変わっちゃいましたよね、あなたからしたら」
『そうだな、魔物の存在は信じがたいが自分の体も含めてかなり環境が変わってしまった、信じたほうがいいのかもしれない』
まず自分が似たようなものなため特に驚きは無い、しかし魔物となるとここはファンタジー風の世界なんじゃないかと錯覚してしまう、もちろんそんなはずはない、ここの人間は日本語を喋っているからここは日本で、ほかの国だってまだあるに違いない。
そこらへんの事情は後で五十鈴に聞く事にする、何があったのかを五十鈴が知ってる範囲で教えてもらおう
「これで旅の準備は完了です!あとは魔物を退ける方法を教えなければならないのですが、一度魔物と遭遇したら教えますねっ」
『退けるか、退治とかはできないのか?』
「できますよ、でも一般人にはちょっときつくて……」
五十鈴はそう言って苦笑いを作る
「このあたりは安全なので遭遇する確率もそこまで高くありません。目的地は……近くに大きな街があるので、そこまで一気に行ってしまいましょうか!」
『分かった』
一歩前に足を出す、その度にフェアルが遠ざかって涙しそうになっていた、ずっとこの体を縛っていた基地でさえもほんの少し名残惜しい。
創作で「後ろを振り向かずに」という台詞がよくあるが、なぜ振り向かないのかほんの少し分かった気がする。離れていくのを見るのは辛いんだ、過ごした時間がゆっくりと奪われているようで。
~1時00分(昼)~
昼時、だろうか。
空は曇っているが青い部分が所々で目立つ。ここまでの道のりは別段特別な事は無かったし魔物とやらも出なかった、今は休憩中のため道の端に座って五十鈴がパンケーキを頬張っている
「……」
『食事中は無言なんだな』
「へへへぇ……美味しいものは静かに食べるんですよ、あなたも食べます?」
『遠慮しておく』
そもそも口がない、食欲はあるがそこまで食べたくもないし栄養を取らなくても生きていけるらしい。
本当にこの体は不思議だ、栄養も睡眠も必要ない上に形まで変えることが出来る、正確には体の形を変えているわけではないみたいなのだが……。基地の人によれば自分の体の本体は鉄くずではなくスライムのような液体の生物らしい、鉄くずの間……今はパーツとパーツの間にスライムが入り込んで接着剤のような働きをしているんだとか、自分からそのスライムを動かしているわけではなく腕を伸ばすときに筋肉が動くような感覚で勝手に働くようだ。ちなみに体を構成している未知の素材とはこのスライムのことである
「ごちそうさまでしたっ!先を急ぎましょう!」
勢いよく立ち上がる五十鈴を見てこちらも立ち上がる、先が見えないくらいの道を途方に暮れるように眺め、再び苦行へと戻った。しかし目的地まであと30分もすれば着くらしい、ここまで来るのに2時間ほどかかったしこれが普通なのだろう、多分。
「結構時間経っちゃいましたね、何か良い移動手段でもあればいいのですが」
『安い車はどうだろうか、働けば買えそうだ』
この容姿で雇ってくれる場所があるかの問題になるが。
「それも検討します、あとは……」
『待て、さっきから違和感を感じる』
「違和感ですか?」
『このまま歩いていくと何か大きなものにぶつかる気がする』
「は……はい?」
まぁそうなるだろう、おそらく「何言ってんだコイツ」と思われたはずだ、何かにぶつかると言うより何かがこっちに来ている気がする
「きっと緊張でそう感じるだけです、行きましょうっ」
『分かった』
気のせいならいいのだが、できれば別のルートで目的地までいきたい。ダメだ吐き気がしてきた、こちらに来る何かが異臭を放って威嚇してきている、それに加えて空気が重たく、ねっとりとしているような……五十鈴に変化は感じ取れない、これに気づいているのは自分だけか?
『五十鈴、やっぱり道を変えよう、この道は危ない』
何より不快だ、明らかに何か居る。魔物か?
「危ないって……分かるんですか?」
『分かる』
「……うぅん……そこまで言うなら了解です、それじゃあ別のルートを歩きましょう」
理解してくれたみたいだ、一刻も早くここを離れないと無い鼻がいかれてしまう。
今まで来た道に背を向けて半ば逃げるように歩く、さっきのように五十鈴の後ろを歩いてだ、もし魔物なら攻撃されるかもしれない、その時は自分が身代わりにならなければ。五十鈴を守るという旅の課題があるから身代わりにだってなれるが、課題が無ければどうだったのだろう?どちらにせよちっぽけな使命感で動けているうちはいいが、いつ恐怖で逃げ出してしまうのやら。
「あっ」
『どうした?』
「落し物をしちゃったみたいなんです、来た道を折り返した時はあったんですが……ちょっと見てきます」
そう言い五十鈴は異臭がする方へと走ってゆく。しまった……五十鈴を先に行かせちゃいけない、後を追い、警戒するも匂い以外は危険そうなものは見当たらない、ほんの少しだけ安堵した
「あった!」
彼女が拾い上げたのは歪な形の赤い石が付いているペンダントだった、とても綺麗とは言えないもので、アクセサリーとしては向いていない物に見える
『行こう』
「はいっ」
いや、これは下手に動くべきではないか、異臭のキツさからして何かが近くにいる……五十鈴に伝えるべきだ。
その判断をした瞬間には一足遅かった、音を立てずに地面から人の形をした何かがぬうっと生えてくる、肌は薄汚れた緑で目や髪はない、猫背の体制で半身を維持しているさまはゾンビを彷彿とさせた。
服とズボンは着けているものの同情したくなるほどのボロボロ具合だ……これもうダメージジーンズってレベルじゃないな
「ま、魔物!」
『一体だけか』
「どうしよう……!」
相手の動きは遅い、その上距離は5mほど離れているため時間の余裕はあるはず、なんとか対処しなければ
『倒し方の指示を頼む、逃げるにしてもここで動けなくしてからの方が気持ち的に楽なはずだ』
「無理です……魔物って物理的なダメージは通らないんですよ、内部から破壊するか最新兵器を使う以外方法は無くて……だから一度退きましょう!」
内部破壊と最新兵器か、持っているものがないため兵器での攻撃はまず諦める。そういえば魔物に血は流れているのか?生物が外傷をほとんど受けずに死に至る大雑把な例は「毒殺」「病」「過労死」そしてなにより「窒息」、この中で今実行できるのは窒息だけ、酸素の供給を絶って生命活動を停止させるというのは内部破壊に値するだろう、最も魔物に酸素が必要ないのならこれは何の意味もなさないが……こちらも物理攻撃が(多分)効かないスライム状の体なのだ、やってみる価値はある
『少し試させてもらおう』
「ええ!?倒せないよ絶対!」
『倒せないってわかったら逃げる』
距離はいつの間にか詰められていた、やってみるという結論が出たのなら迷う必要はないのだ。先行は貰った、つるつるとした頭を掴んで石の地面に叩きつける、一度ではなく何度も体重をかけて地面に叩きつける、今まで溜まっていた鬱憤を吐き出すかのように動きを激しく強くしていき……自分なら死んでいるだろうなぁ、と思うまでやったあとゴミを捨てるみたいに軽く投げた
「きゃっ」
『死んだか?』
死んでない、まだ生きている。魔物は目の前でゆっくりと立ち上がった。後攻の行動は立ち上がるだけで終わりだ、次も先手必勝、両手で首を掴んでギリギリと力を入れる、指は首の肉に埋まるほど強く食い込んで抉るように、あるいは楽しむように時間をかけて苦しませる
『もっと力を入れることができるな……』
まぁ入れるつもりは無いのだが。自分から見ても周りから見ても、飽きたおもちゃを放り投げてしまう子供のようにその魔物を強めに投げ捨てる、近づいて生死を確認したところ息絶えているようだった
『終わった』
「すごい……けどこんな事しちゃいけない!さっきのは木偶の坊だったからいいけど危険な奴だったらあなたは死んでたかもしれないんだよ!?」
『申し訳ない』
「最初だから今回は許します!」
許された。声だけ聞くと気迫もあり真面目さや経験がひしひしと伝わるものの、少し幼い容姿と重なってしまうといきなり説得力は落ちる、その代わりというのも変だが「もう心配はかけないようにしよう」と思えた、それが彼女の凄さであり武器でもあるのだと確信する。しかし怒られる様な真似をしたというのは自負しなければ。そして、この旅で自重しなければ。
ここまでお付き合いいただきありがとうございます、後で改めて発表しますがこれはシリーズ物ですので一つ一つの物語は少々短くなるかもしれません