第七節;日々2
和宮は、昔から優しく、人を疑うことを知らないような純粋無垢な少女だった。そんな彼女が、あの檻から逃げ出そうとしている。
そこには、自身が好きな殿方もいるというのに…
あくまで、和宮は自身の秘める思いより、華宮を優先とするのだ。自分のことより他人のこと。その優しさが、華宮にとって悲しく感じることもあるのだった。
「和宮…?気持ちは嬉しいのだけれど、それは出来ないわ…」
「何故…ですか?もしかして私が役に立たないと思われているのですか?」
和宮は悲しそうにさも、分かっているかのように微笑む。それを声で感じ取った華宮は、そっと自身の足へと手を伸ばす。
「一緒に逃げたとしても…私のこの足じゃ直に荷物となって捕まってしまうわ…」
「でもっ!あの人達は、姉様を道具として扱おうとしています!私のただ一人のお姉様をあんな風に思っていたなんて…お兄様もお父様も信じられません!!」
金切り声を上げてでも和宮は叫び続けた。涙を流しながらも訴え続ける和宮。少し握っていた着物も今では、布を突き抜けて手から血が出てしまうのではないかというくらい握っている。
「…私は…、大丈夫!!
好いている殿方を見つけたの…だから、その方に連れ去ってもらうわ。」
口から出た出任せだった。好いている人なんていなかった。道しるべになってくれる方はできた。けど、気にはなっている程度のことだ。
でも、安心させなければならない。
和宮には、自身の可愛い妹には幸せになってもらいたい。
だから…
「だから、和宮も幸せになって?
好いている殿方の元で…」
納得していない様子の和宮だが、自身の姉に好いた者ができたというのならそれは安心しなくてはならないことだが、その者が本当に姉を幸せにしてくれるのかという心配が募る。
「さあ、皇居に戻って?心配してくれて嬉しいわ。」
華宮は早々と話を切ると、優しく悲しげに微笑み、今日はもう遅いからと一緒に床につくことになった。
「姉様…いつか、和宮に紹介してくださいね?」
「…ええ」
(それが、貴方にとっての幸せとなるのなら…)
双子の姉妹は、相手を思いただ幸せを願う。
それが、例え叶うものなのかも分からないままに。
その晩、木蓮は現れなかった。