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白夜物語  作者: 神津 有栖
第一章;出逢い
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第五節;妖精



どうやら、彼は妖精と呼ばれるものだと言う。



「多くの人間は、私をそう呼ぶ」



そう、彼は言った。


悲しげに…華宮は顔色が窺える訳ではない。だから、音や気配に敏感なのだ。そして微かに感じた悲しげな声を不思議に思った。



「生きるのが、辛いのですか?」


「…なぜ、そう思う」


「貴方が…泣いている気がした」



初対面なのに、昔からいるような不思議な感覚。そして彼が辛いと華宮までもが辛く感じた。



「お前を…ずっと、見ていた」


「…はい」


「雨の日も…風の日も…よく晴れた日も…」


「…はい」


「だが、どれもお前は…」



"辛そうだった"



彼は続けていった。


辛そうに見えたのだろうか、和宮と話をしているときも女中から外の話を聞いているときも…


花を…育てているときも…



「何をそんなに閉じ込める」


「私は…利用されるだけの存在ですから」



すんなりと言葉が出た。


そう、使えない私はいつか親に利益がわたるような相手と婚姻させられ、その相手と共に檻の中で暮らすのだ。


変えることのできない、逆らうことのできない話。



「私…目が見えないのです。生まれてから1度も。どんなに綺麗だと言われても…その存在を見ることは叶わない。


 見ることができなければ、あまり動くこともできず、この屋敷から外なぞ出たことはありません…」


「お前は、外に出たいのか」


「出られるものなら…」


「お前は、見るということをしたいのか」


「見れるというのなら…」



彼の言葉一つ一つに本当の思いを告げる。


こんなに簡単に思いを吐く相手がいるだなんて思いもしなかった。


ましてや、最初は親が私を殺すために雇ったものだとも思っていたのだから…だが、私はまだ生きている。

"まだ生きてしまっている"



「貴方は…私の木蓮みたいですね…」


「…木蓮か?」



「花そのものの命は儚いですが…

私の道しるべになってくれる…そんな気がしたのです。」


「…"恩恵"か…」



木蓮の花言葉は、『自然への愛』『持続性』『崇高』『高潔なこころ』『慈悲』『荘厳』そして『恩恵』早々と春の知らせを届ける凛と咲く花…



「こんな私の…道しるべになって下さいますか?」


「私も…面倒な姫と出逢ったものだ」



優しい声と共に頭を撫でる不器用な手。暖かさに涙が出そうになった…



"ありがとうございます、木蓮様"



これが、初めて木蓮様と交わした私の約束でした。




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