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白夜物語  作者: 神津 有栖
第一章;出逢い
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第四節;満月


それから数日後…


 雲が晴れていて、綺麗な満月が見える夜だった。

勿論、華宮はいつものごとく満月等見えない。

だが和宮が、昼間のうちに、今日の夜は満月の夜だと教えてくれた。


そんな妹は、

今日は珍しく熾仁殿と喧嘩をしたと泣きついてきた。


その話の中、満月と言うことを聞いたので、

それを切っ掛けに仲直りをしたらと助言をしたら、

礼を言うや否や颯爽と走り去っていった。


いやはや、可愛いものである。



「花の…薫り…」



優しく心が安らぐ花。

凛と咲き誇り、散っていく花。


―私と違うのは、可憐に咲き誇れるというところ。

だから私は花が好きで、憧れで…


和宮の顔がちらり、と思い浮かぶ。

…何を、何を考えたのだろうか私は。


花の匂いが濃くなる。

風が強くなっているのだろう。

体を冷やして、迷惑をかけないうちに部屋に戻らねば…



縁側から腰をあげ、部屋に戻る…


「綺麗なものだな」



突然低い男の声がした。



普通に考えれば、使用人。

けれど、今日は非番の日。

しかも、華宮の屋敷には女中も3人程度。

異性の使用人なんて、出会ったことがないのだ。



「どなたでしょうか…」



華宮は目が見えない分、

人の気配に過敏になっていた。

けれど、この者の接近は全くといって良いほど気がつかなかった。


と、すると…



「私を…殺しに来たのですか?」



きっと、私を暗殺にきたのだろう。そう考えた。

思えば、何もせず過ごす私のことなど、邪魔者で、

両親も自分のことが不用になったのだろう。


容易に考え付いた。

ならば、寿命で苦しむ前に死んでしまった方が楽なのではないか…?


ふと、そんなことを考えると、

いつも身近に思っていた死という事象を

より、近く感じた。



「…死にたいのか」


男は問う。


「……分かりません」



死ぬ恐怖はある。

私は死にたいのだろうか。


夜風が建物越しに当たっていた。

その中確かに華宮は、その男の方へと…

声が聞こえた方へと歩いて行く。


手を伸ばせば、暖かい人肌に触れる。

薄い着物、襦袢のような、浴衣のようなものをを着ていることも分かった。



「風邪を、引きませんか?」


彼は私を殺しに来たとも、違うとも言わない。

 でも華宮は周りから好かれていないことを自覚していた。

だからこそ、ここで死んでしまうことになってもしょうがないのだと…

しょうがないのだと思えるだろうか…


それは華宮にもよくわからないものだった。


だが、華宮はその男から香る花の微かな香りに心を落ち着かせていた。

それだけが、その男を心配できる余裕を生んでいた。



「少し…お話しませんか…?」


「…あぁ」



二人は、夜風をよけるよう縁側に腰掛ける。

暗闇の中輝く月光は、まぶしく照らす。


男は何処か悲しげだった。




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