第四節;満月
それから数日後…
雲が晴れていて、綺麗な満月が見える夜だった。
勿論、華宮はいつものごとく満月等見えない。
だが和宮が、昼間のうちに、今日の夜は満月の夜だと教えてくれた。
そんな妹は、
今日は珍しく熾仁殿と喧嘩をしたと泣きついてきた。
その話の中、満月と言うことを聞いたので、
それを切っ掛けに仲直りをしたらと助言をしたら、
礼を言うや否や颯爽と走り去っていった。
いやはや、可愛いものである。
「花の…薫り…」
優しく心が安らぐ花。
凛と咲き誇り、散っていく花。
―私と違うのは、可憐に咲き誇れるというところ。
だから私は花が好きで、憧れで…
和宮の顔がちらり、と思い浮かぶ。
…何を、何を考えたのだろうか私は。
花の匂いが濃くなる。
風が強くなっているのだろう。
体を冷やして、迷惑をかけないうちに部屋に戻らねば…
縁側から腰をあげ、部屋に戻る…
「綺麗なものだな」
突然低い男の声がした。
普通に考えれば、使用人。
けれど、今日は非番の日。
しかも、華宮の屋敷には女中も3人程度。
異性の使用人なんて、出会ったことがないのだ。
「どなたでしょうか…」
華宮は目が見えない分、
人の気配に過敏になっていた。
けれど、この者の接近は全くといって良いほど気がつかなかった。
と、すると…
「私を…殺しに来たのですか?」
きっと、私を暗殺にきたのだろう。そう考えた。
思えば、何もせず過ごす私のことなど、邪魔者で、
両親も自分のことが不用になったのだろう。
容易に考え付いた。
ならば、寿命で苦しむ前に死んでしまった方が楽なのではないか…?
ふと、そんなことを考えると、
いつも身近に思っていた死という事象を
より、近く感じた。
「…死にたいのか」
男は問う。
「……分かりません」
死ぬ恐怖はある。
私は死にたいのだろうか。
夜風が建物越しに当たっていた。
その中確かに華宮は、その男の方へと…
声が聞こえた方へと歩いて行く。
手を伸ばせば、暖かい人肌に触れる。
薄い着物、襦袢のような、浴衣のようなものをを着ていることも分かった。
「風邪を、引きませんか?」
彼は私を殺しに来たとも、違うとも言わない。
でも華宮は周りから好かれていないことを自覚していた。
だからこそ、ここで死んでしまうことになってもしょうがないのだと…
しょうがないのだと思えるだろうか…
それは華宮にもよくわからないものだった。
だが、華宮はその男から香る花の微かな香りに心を落ち着かせていた。
それだけが、その男を心配できる余裕を生んでいた。
「少し…お話しませんか…?」
「…あぁ」
二人は、夜風をよけるよう縁側に腰掛ける。
暗闇の中輝く月光は、まぶしく照らす。
男は何処か悲しげだった。