第九節;月夜
月の光が、屋敷を照らし出した頃。華宮は、和宮のことを今日のことを考えていた。
けれど、それを考えていても結局行動に移せない、移すことのできない華宮は、自身の瞳や不自由さを苦やしんだ。
本当に、熾仁が和宮を幸せにしてくれるといっていた…けど…けれど、本当なら……
そう考えてしまうと心のそこから自分自身が嫌になった。
「こんなとこにいては風邪を引くぞ…」
「……」
「おい」
なんだか、聞き覚えのある声だった。
けれど、今その言葉に返事をしてしまえば、きっと私は弱虫だから泣いてしまうだろうと…
「お前の幸せは…?」
「えっ…」
突然のことだった。その言葉は泣きたくなるくらいに優しくて…頼ってしまいそうになるくらいに辛くなって…
「もう…もう…嫌なんです…」
「何がだ」
胸に響くように聞こえるその声は、私の心を清く、また優しく包み込む…
悩んでしまうことも…苦しんでしまうことも…全てわ忘れてしまいたくなる…
「木蓮殿は…私の道しるべとなってくれるのでしょう?ならば…ならば教えてほしいのです…」
結局私は…弱虫で、頼ることしか出来ない…ならばもう全てを消して、消えてしまえば、楽になるのだろうか…
「お前は…」
「…?」
「…お前は、生きるべき人間だ。
だが、その命を棒に振るうような行動は…他人ばかり考えてしまうことは…あまり、…いや、お前のためにはならない…」
ポタッ…
雫の音がした。
白い頬を伝う雫。それは、止めどなく流れ始める。
「どうして…どうして木蓮殿は…
そこまで私を…っ」
「私…俺は、臆病者なんだ…
道しるべであろうとしても、その道しるべをする相手がいなければ成り立たないだろう?」
「…それだけで?」
木蓮は、言葉を発しながら華宮の頭をそっとなで続ける。華宮は、それに身を任せ涙を流し続ける。
月光で輝く涙は華宮の白く透き通った頬を伝い流れる。
「華宮…俺に…
お前の幸せを教えてくれ」
木蓮はそっと華宮を抱き締めると安心させるように語りかける。
「そして、そしていつか俺に…
人の感情を教えてくれ…」
それは、初めて発される木蓮からの願いであった。