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白夜物語  作者: 神津 有栖
第一章;出逢い
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第九節;月夜

月の光が、屋敷を照らし出した頃。華宮は、和宮のことを今日のことを考えていた。


けれど、それを考えていても結局行動に移せない、移すことのできない華宮は、自身の瞳や不自由さを苦やしんだ。


本当に、熾仁が和宮を幸せにしてくれるといっていた…けど…けれど、本当なら……


そう考えてしまうと心のそこから自分自身が嫌になった。



「こんなとこにいては風邪を引くぞ…」


「……」


「おい」



なんだか、聞き覚えのある声だった。

けれど、今その言葉に返事をしてしまえば、きっと私は弱虫だから泣いてしまうだろうと…



「お前の幸せは…?」


「えっ…」



突然のことだった。その言葉は泣きたくなるくらいに優しくて…頼ってしまいそうになるくらいに辛くなって…



「もう…もう…嫌なんです…」


「何がだ」



胸に響くように聞こえるその声は、私の心を清く、また優しく包み込む…


悩んでしまうことも…苦しんでしまうことも…全てわ忘れてしまいたくなる…



「木蓮殿は…私の道しるべとなってくれるのでしょう?ならば…ならば教えてほしいのです…」



結局私は…弱虫で、頼ることしか出来ない…ならばもう全てを消して、消えてしまえば、楽になるのだろうか…



「お前は…」


「…?」


「…お前は、生きるべき人間だ。

だが、その命を棒に振るうような行動は…他人ばかり考えてしまうことは…あまり、…いや、お前のためにはならない…」


ポタッ…


雫の音がした。

白い頬を伝う雫。それは、止めどなく流れ始める。



「どうして…どうして木蓮殿は…

そこまで私を…っ」


「私…俺は、臆病者なんだ…

道しるべであろうとしても、その道しるべをする相手がいなければ成り立たないだろう?」


「…それだけで?」



木蓮は、言葉を発しながら華宮の頭をそっとなで続ける。華宮は、それに身を任せ涙を流し続ける。

月光で輝く涙は華宮の白く透き通った頬を伝い流れる。



「華宮…俺に…

お前の幸せを教えてくれ」



木蓮はそっと華宮を抱き締めると安心させるように語りかける。



「そして、そしていつか俺に…

人の感情を教えてくれ…」



それは、初めて発される木蓮からの願いであった。




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