第6話 国際政府崩壊へのカウントダウン
【政府首都グリードシティ 南部エリア 高架橋】
広大な政府首都グリードシティのあちこちから上がる黒煙。高架橋の下に広がる市街地からは爆音や銃撃音が聞こえてくる。
首都上空には、飛行型の魔物や連合政府の飛行型軍用兵器が飛び交っている。それらを駆除するために、市街地から次々と国際政府の航空機が飛んでいく。
「クラスタ閣下、これは一体なんでしょうか……?」
側にいたクローン兵が不安げな表情で私に問いかけてくる。だが、彼女の疑問には私は答えられなかった。私自身、この状況を理解できないでいた。
そのとき、高架橋上に設置された大きなシールド・スクリーンの表示が変わる。高架橋を通る市民への警告文から、1人の女性軍人の姿が映し出される。
「クラスタ閣下、この女は!」
「……分かっている」
――クェリアだ。
[国際政府臣民とクリスター政府の逆賊共に告ぐ。このグリードシティは隔離した。この都市を包む雲は破壊魔法――ラグナロク魔法だ。触れれば、即座に触れたモノを砕き、塵となる]
「…………!」
[外部からの侵入も不可能。つまり、助けは来ない]
クリスター政府の増援も不可能ということか。これは私たちクリスター政府に向けた、援軍は無駄というメッセージだな。
[グリードシティ全域に無数の魔物と連合政府の軍勢を解き放った]
そのとき、映像が切り替わる。どこか分からないが、大都市の市街地だ。恐らく、グリードシティのどこかだろう。無数の軍用兵器と魔物が、逃げ惑う市民と戦う国際政府クローン兵を無差別に虐殺している。
[魔物と連合軍は、人間を無差別に殺す]
大きな建物に、炎上した国際政府のガンシップが突っ込み、爆炎を上げる。混乱に陥った道路に、砲弾が撃ち込まれる。
[……さぁ、国際政府崩壊に相応しい戦いを始めようじゃないか]
再び映像が切り替わる。今度はどこかの高架橋上だ。私たちのいる場所とはまた違う場所だ。そこには、連合軍の軍用兵器たちが整列していた。その先頭に、2人のフィルド・クローンと1体の大型軍用兵器。
「クラスタ閣下! 連合軍のコマンダー・ライカとキャプテン・アレイシアです! それにあの大型軍用兵器はバトル=オーディン! いずれも連合政府の将軍です!」
「…………!?」
バカな、ライカもアレイシアも大戦で死んだハズだ。なぜ生きているんだ……? いや、答えは簡単だ。あの2人は元々フィルド・クローン。別のクローン2人をライカとアレイシアにでっち上げたに違いない。
[クラスタ、勝てると思ったか?]
「…………!」
[お前は地獄へと誘い込まれたのさ。……お前の“復讐”で仲間たちが死ぬ。どうだ? 楽しくなってきただろ? ハハハハ!]
そう笑い声を上げ、クェリアの姿は消える。シールド・スクリーンも消え、元の警告を表す表示に切り替わる。
「クラスタ閣下……」
「…………」
「あ、あの、防衛大臣閣下……」
「……全軍に司令を出せ。市街地に降り、連合軍の軍用兵器と魔物を一掃し、市民の救出に当たれ、と」
「イ、イエッサー!」
クローン佐官が私の元から走り去っていく。私はぐっと拳を握りしめる。この惨劇は私が招いたことなのか? 市街地から上がる悲鳴と戦いの音。たくさんの市民が死んでいく。そして、私の部下たちも死んでいく。
「…………ッ!」
私は通信機を手に取ると、ソフィアに通信を入れる。
[は、はい! クラスタ閣下!]
「ソフィア、私に代わって全軍の指揮を執れ」
[了解しました。……でも、あなたはどちらに?]
「……頼んだぞ」
[えっ?]
私は通信を一方的に切ると、腰に装備した剣を抜き取り、その場から駆け出す。墜落したガンシップや車両が転がっている高架橋の上を走っていく。
市街地から聞こえてくる銃撃・爆撃の音が次第に大きくなってきている。それに比例するかのようにして、人々の悲鳴も大きくなっていく。
私がグリードシティに攻め込んだから、起きてしまった悲劇なのか? 私のクェリアに対する憎しみから、グリードシティを攻め、この惨劇が…… いや、この戦いは防衛戦争だ。今、攻めなかったらもっと多くの人々が――
そのとき、上空から炎を上げたガンシップが、高架橋に勢いよく墜落する。その衝撃でやや地面が揺れる。ガンシップの破片と人間が辺りに散らばる。
「…………!」
それはクリスター政府のガンシップだった。辺りにはクリスター政府のクローン兵の死体が倒れている。上空で魔物に襲われたのだろう。
…………。……今、国際政府を攻めなかったら、もっと多くのクリスター政府クローン兵が死んでいただろう。だから、この戦いは……間違っていない。
「…………ッ」
私は頭に駆け巡る自責と後悔の念を晴らすかのように、その場から“逃げ出す”。自分の復讐戦で、たくさんの人々が死んでいく。防衛戦争――正しい戦争で、たくさんの人々が死んでいく。
前から人間型ロボット――バトル=メシェディと呼ばれるバトル=アルファの上位種ロボットが3体も走ってくる。
[攻撃セヨ!]
[破壊セヨ!]
バトル=メシェディは手に持ったアサルトライフルを使い、正確に私の急所を撃ち抜こうとする。私はその前に、魔法発生装置を内蔵したハンドグローブを振る。私の身体は物理シールドに包まれる。
シールドを張ると、私は2本の剣を手に、バトル=メシェディを斬り壊そうとする。剣の刃が、1体のバトル=メシェディの胴を斬り裂き、上半身と下半身で真っ二つになって倒れる。だが、他の2体には避けられてしまう。
[攻撃セヨ!]
私の後ろに飛んだバトル=メシェディは、私の右肩を狙い撃ちにする。数発の銃弾が当たり、強い痛みが走る。
私はハンドグローブを付けた手を振る。一筋の電撃がバトル=メシェディの胸を貫く。そのバトル=メシェディは火花を散らしながら、よろける。私はその隙をついて、剣で一突きにする。バトル=メシェディは崩れるようにして倒れる。
[破壊セヨ!]
最後のバトル=メシェディが私の首に向かって銃撃する。私はそれを素早い動きで避け、再びハンドグローブを付けた手を振る。2本の電撃が、クロス状に鋼の身体を貫き、そのバトル=メシェディは倒れ込む。
私はバトル=メシェディを片付け、再び走り出す。まずクェリアに会わなければ、どうしようもないだろう。ただ、彼女に会って、どうすれば惨劇を止められるかは、分からない――