第5話 グリードシティの動乱
【国際政府首都グリードシティ周辺 南部平原】
クリスター政府首都ポートシティを発ってから10日後、私たちは遂に国際政府首都グリードシティにやってきた。大型飛空艇2隻を先頭に、中型飛空艇隻15隻が後ろから続く。
グリードシティにやってきたクリスター政府軍は、4つに分かれている。私の率いる南部部隊。ソフィア将軍が率いる北部部隊。ギョクズイ中将が率いる西部部隊。カルセドニー中将が率いる東部部隊。
「クラスタ防衛大臣閣下、国際政府軍です!」
大型飛空艇の最高司令室。最高司令席に座る私の横で、カイヤナイト少将が言う。彼女が指差す方向には、緑色のラインが入った白色の中型飛空艇5隻が飛んでいた。
「一斉砲撃開始! 相手は中型5隻だ! 一気に破壊しろ!」
「イエッサー!」
アルマンディン少将が指示を出すと、コンピューターを操作するクローン兵が大きな声で返事をする。この大型飛空艇や近くを飛ぶ飛空艇から一斉に砲弾が撃ち放たれ、国際政府軍の飛空艇は僅かな時間で木端微塵に破壊されていく。5隻の飛空艇は炎を上げながら、バラバラになって、平原に落ちていく。
「クラスタ閣下、ソフィア将軍の部隊がグリードシティに突入したそうです」
「同じくギョクズイ中将とカルセドニー中将の部隊も無事に市内に入れたとの報告です!」
「よし、私たちも一気にグリードシティに侵入し、国際政府を倒すぞ!」
「イエッサー!」
私を乗せた旗艦の大型飛空艇を先頭に、16隻もの飛空艇がグリードシティ内に入っていく。さっそく市街地から砲弾が飛んでくる。
「地上部隊を出し、国際政府軍を討て。地上部隊の指揮はアンバー少将とアルマンディン少将が執れ。空中部隊の指揮はカイヤナイト少将とエメラルド少将に任せる」
「イエッサー!」
クェリアのように空爆し、何もかも破壊すれば楽に終わるが、それをすればクリスター政府も国際政府と同じになるだろう。
しばらくの間、各部隊に作戦指示を出していたが、それが終わると、私は最高司令席から立ち上がり、最高司令室を後にする。飛空艇内を走り、航空機プラットホームで大型戦闘ヘリ――ガンシップの1機に乗り込む。ガンシップで、私も地上へと降りていく。いよいよこの時がきた。
[クラスタ閣下!]
「…………?」
先に地上に降りたアンバー少将から連絡が入る。ずいぶん、焦っているかのような声だ。それと同時に僅かだが、激しい銃撃音が鳴り響く。
[至急、飛空艇にお戻り、急いでグリードから脱出を! 急いでください!]
「ど、どうした? なにを言っている?」
「クラスタ閣下! あれをご覧ください!」
同じガンシップに乗っているクローン兵の1人が叫びながら、操縦席の窓を指差す。そこからは当然だが外が見える。……青い空に、真っ黒な雲が高速で広がっていく。それはグリードシティ全域を囲むかのようにして広がっていく。
「なんだあれは?」
不気味な黒い雲は、ドーム状に広がっていく。まるでグリードシティを包むかのような動きだ。
そのとき、ガンシップが大きく揺れ、私はバランスを崩して倒れそうになる。同時に警報音が鳴り響く。勢いよく降下していく。
「クラスタ閣下、攻撃を受けました!」
「ど、どこかに不時着し――」
そこまで言ったとき、ガンシップは下から強烈な衝撃を受ける。今度は床に倒れ込む。どこかに不時着したらしい。
痛みの走る身体をなんとか起こし、機体後方の出入り口から外へと出る。さっきの衝撃で扉が壊れていた。
「これは……!」
ガンシップが不時着した場所は、グリードシティの高架橋だった。それもかなり高い位置にある高架橋だ。市街地を見渡せる。
私の視界に入ってきたグリードシティの状態は想像だにしないものだった。都市のあちこちから煙が上がり、爆撃音や銃撃音、人々の悲鳴が満ち溢れている。
気が付けば、突然に現れた黒い雲はグリードシティを完全にドームのように覆ってしまった。市街地に届く日の光がさっきの半分程度になり、辺りは大雨の日のように薄暗い。一体、何が起きたんだ……?
◆◇◆
【政府首都グリードシティ 南部市街地】
それは突然の出来事だった。俺はクリスター政府の攻撃が始まると聞いて、避難所へと急いでいた。だが、不意に後ろから大勢の人々の悲鳴が上がる。
後ろを振り返れば、道路に大きな黒い雲の塊が現れ、そこから次々と黒い人間型ロボットが出てきていた。あのロボットはもう誰でも知っている。連合軍のバトル=アルファだ!
[破壊セヨ!]
「う、うわぁっ!」
[攻撃セヨ!]
「助けて!」
[破壊セヨ!]
「いやぁっ!」
激しい銃撃音が鳴り響き、連合軍の戦闘兵器は市民を無差別に撃ち殺していく。俺はその場から逃げ出す。だが、気が付けばあちこちから銃撃音が上がっている。どっちへ逃げればいいんだ……!?
◆◇◆
【政府首都グリードシティ 北部市街地】
私はバトル=アルファやバトル=ベータを慎重に撃ち倒していく。国際政府クローン兵として、市民を守らなきゃいけない。だが、市街地はもうメチャクチャだ。
[攻撃セヨ!]
「死にたくないよ!」
[破壊セヨ!]
「お母さんどこ! 置いてかないでぇ!」
[攻撃セヨ!]
「やだ、やだぁっ! 撃たないでぇえッ!」
叫びながら逃げ惑う市民、機械音を発しながら市民を撃ち殺していくバトル=アルファやバトル=ベータ。そして、普通は自然界にいるハズの魔物。三者が入り乱れ、下手に撃てない状況だ。
「カ、カーコリア中将に、れ、連ら、あぐッ!」
[破壊セヨ!]
「娘を助けてやってくれぇッ!」
「いやぁ、食べないで痛いよぉ!」
[攻撃セヨ!]
私は半ばパニックになりながら、震える手でアサルトライフルの銃口を前に向ける。と、とにかく1体でもバトル=アルファを……!
「う、うわっ!」
「ひぃっ!」
なぜか近くにいた市民と仲間のクローン兵が逃げていく。どうしたの……? そのとき、不意に背筋に冷や汗が流れる。後ろを振り返ると、そこには四足歩行をする大型獣ベヒーモスが前足の爪を振り上げていた。その目は私をしっかりと捉えている。
「やっ……」
鋭い爪が私の身体を切り裂く。そのときの衝撃でアサルトライフルはオートモードに切り替わり、引き金を引かずとも銃弾が発せられる。
道路に血が飛び散る。アサルトライフルは勝手に銃弾を飛ばし、メチャクチャに暴れる。銃弾がベヒーモスや私、私が守らなきゃいけない市民の身体に撃ち込まれていく。
「たす――」
[――セヨ!]
「や、――ぁ!」
[破壊――]
私は意識を遠のかせつつ、暴れるアサルトライフルを止めようと、それに手を伸ばす。だが、それよりも前にベヒーモスの爪が、私の頭を割る方が先だった――