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オペレーション:ネメシス  作者: 葉都菜・創作クラブ
第1章 †発端†  ――臨海都市ティトシティ――
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第1話 臨海都市ティトシティ

 【臨海都市ティトシティ ティト大学 25階 研究室】


 私は窓から外の様子を眺めていた。臨海都市ティトシティのほぼ中心部に位置するティト大学。市街地を人間型ロボット――バトル=アルファが歩き回っている。その手にはアサルトライフル。実弾が入った武器だ。


「父さん、“財閥連合社”のバトル=アルファたちの数が増えている」

「……ああ、どこからか次々と運ばれてくるようだな」


 イスに座った初老の男性――私の父さんが机で肘を突きながら、小さな声で言う。その声は少し震えていた。……無理もない。こんな状況、つい2日前までは誰も予想すらしなかった。

 2日前の夕方、彼らは突然、このティトシティにやってきた。おびただしい数の飛空艇が上空に現れ、あっという間に制圧されてしまった。


「財閥連合社は国際政府の業務停止命令を受け、総督のコマンドは裁判にかけられているハズだ。こんなことして、なにを始める気なんだ? ただでさえ世論は財閥連合社を非難しているというのに……」


 あの人間型ロボットは財閥連合という巨大民間企業が所有するロボットだ。戦闘用として開発されたらしく、国際政府に売り込もうと量産しているという話を聞いたことがある。

 だが、その財閥連合社は裏でクローン人間を量産し、実験台にしていたともいう。しかも、それを暴こうとした政府軍と財閥連合私設軍とで銃撃戦になった。それで、財閥連合は操業停止命令を受け、総督のコマンドは裁判にかけられている。


「……クラスタ、追い詰めたときこそが肝心だ。追い詰められた敵は、思わぬ反撃をしてくることもある」

「は、反撃って…… これが財閥連合社の反撃なのか?」


 私は窓から外の様子を再び伺う。バトル=アルファ以外にも戦車まで出てきている。空には、黒い中型飛空艇が浮かんでいる。財閥連合社の所有する軍艦バトル・シップだ。


「まさか、私たちを人質に国際政府に反撃をするつもりなのか!?」

「…………」


 バカな! あれだけの軍事力を誇る国際政府軍に勝てるハズがない。3ヶ月前も、財閥連合軍と政府軍で戦ったが、結果は政府軍の圧勝。勝てるハズがない。


「我々がもっとも危惧しなければならないのは、政府軍の動きだ」

「…………!?」


 財閥連合じゃなくて、国際政府の方……?


「政府軍は3ヶ月前、人質となっていた女性軍人がいるのにも関わらず、軍を財閥連合支部要塞に派遣した。結果として彼女は助かったが、一歩間違えれば彼女も死んでいただろう」

「……ここで市街戦に――いや、空爆か」


 父さんは無言で頷く。私は背筋を冷たくしながら、後ろを振り返る。空は灰色の厚い雲に覆われている。いや待て! 何か来ているぞ!


「父さん!」

「…………」


 そのとき、今まで何も写っていなかった薄いスクリーン・パネルに、映像が写る。チャンネルは国際政府放送――国家情報局の放送だ。


[ティトシティの皆様にお伝えします。本日、クェリア将軍兼元老院議員を委員長とする臨時安全保障委員会で、臨海都市ティトシティへの空爆が決定されました。テロリスト掃討のため、同市はこれより空爆されます。至急、避難所へ避難してください。これは訓練ではありません。繰り返します。本日、――]


 男性アナウンサーの声と共に、市街地に爆音が鳴り響く。窓から外を見れば、遠くから煙が上がっている。少しの間見ていると、次々と爆音が鳴り響き、道路や建物に砲撃が加えられる。


「今そんなことを言われても、逃げられるワケないじゃないか!」

「それが戦術というものだ、クラスタ。何時間前にこんな放送をしていたら、財閥連合軍に知られてしまう。だからこうやって、直前になって放送するのだ」

「…………!」


 父さんが話している間にも、何度も爆音が鳴り響く。すぐ近くの建物にも砲弾が撃ち込まれ、炎と煙が上がる。

 見ているうちに、財閥連合軍の軍艦も反撃を開始する。ティトシティはあっという間に戦場に変わっていく。


「政府はこの街をメチャクチャにする気なのか……?」

「市民の犠牲は隠される。その上で、財閥連合の仕業にされるだろう。最終的には“どちらがやったか分からない”ことになり、責任は敗北者――財閥連合社が追うことになる」

「…………!?」


 私はスクリーン・パネルに視線を戻す。臨時安全保障委員会とやらの様子が写っていた。クェリア臨時安全保障委員長を最高責任者とし、ティトシティを空爆。テロリストを掃討。市民の救助……

 いや違う。こんなことをしている場合じゃない! 一刻も早くここから逃げることが先決だ! 私はすぐに父さんの研究室を出ようとする。だが、父さんは座ったままだ。


「父さん!」

「……行け、クラスタ」

「えっ?」

「俺は腰が悪くてとても走れない。お前の足手まといになる」

「な、なにを言っているんだ!」

「……俺は40年以上、軍事・戦術と政治について研究してきた。そのノウハウはお前に叩き込んだつもりだ。俺の与えた知識と、母親から受け継いだ戦闘能力があれば、きっと逃げられるさ」

「そんなことはどうでもいい! 早く逃げよう!」

「知識と戦闘能力をどう使うのかはお前次第だ、クラスタ。それを捨てて、平穏に暮らすもよし。それを使い、“これからの世界”に身を投じるのもよし。……行け、クラスタ」

「イヤだ! 私は――」


 そのとき、大きな爆音と共に目の前が真っ白になる。そうなる直前、窓から炎上した小型戦闘機が突っ込んできた。父さんが素早く立ち上がり、手にしていた白い棒状の機械――魔法発生装置を使い、自分と私の前にシールドを張った気がした。

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