第12話 総力戦
ビリオン=レナトゥス。民間企業にして世界最大の軍事企業。いくつもの大企業を吸収・合併して生まれた組織。ヒライルーという1人の若い女性がそのトップに君臨し、事実上の独裁国家のような組織でもある。
ヒライルーに率いられたビリオン=レナトゥスは、世界大戦にも深く関わり、大戦の随所で姿を現し、その状況をかき乱す。
かつては連合政府に所属していたが、同政府が衰退するとあっさりと見限り、分離・独立を果たした。その名残か、彼女らビリオン=レナトゥスは無数の連合政府軍用兵器を所有している。
「――では、首都中に現れた連合軍も……」
「ええ、恐らくはビリオン=レナトゥスの兵団よ」
クェリアはビリオン=レナトゥスと手を結び、無数の軍用兵器や魔物をグリードシティに解き放った。国際政府の軍民と私たちクリスター政府特殊軍を滅ぼすために。
ビリオン=レナトゥスの狙いはクリスター政府の勢力拡大に歯止めをかけることだ。この首都に攻め込んだクリスター政府特殊軍一般部隊は40万人。60万人中、40万人がこの首都にいる。私たちが全員死ねば……
「うわあぁっ!」
「やだぁっ!」
「強すぎる……!」
5体のデストロイ・フィルド=トルーパーは、レーザー光線を次々と飛ばし、辺りを破壊し、火の海へと変えていく。レーザーが着弾すると同時に轟音が鳴り、地面が砕け、真っ赤な炎が舞い上がる。数人のクローン兵が吹き飛ばされる。
「クリスター政府特殊軍一般部隊長官ソフィアをロック・オン。破壊する……」
「…………!? ソフィア将軍、逃げてくだっ――」
マシンガンでデストロイ・フィルド=トルーパーと戦っていたコハクが叫ぶ。そのデストロイ・フィルド=トルーパーは目にも留まらぬ勢いでコハクの脇腹を殴りつけると、私の方に向かって走ってくる。進路方向にいるクローン兵を殴り飛ばす。
「させるな!」
「ソフィア将軍をお守りするんだ!」
「デストロイ・フィルド=トルーパーを破壊しろ!」
数十人ものクローン兵がデストロイ・フィルド=トルーパーに向かっていく。彼女たちはアサルトライフルや魔法で走ってくるデストロイ・フィルド=トルーパーに攻撃を浴びせる。だが、デストロイ・フィルド=トルーパーは少し怯むだけで致命傷には至らない。
その内、1人のクローン兵が剣でデストロイ・フィルド=トルーパーの左胸を貫こうとする。だが、剣は少し刺さっただけだった。
「なっ!?」
デストロイ・フィルド=トルーパーはレーザー光線でそのクローン兵の身体を撃ち抜く。レーザーは彼女の身体を貫き、近くの建物に着弾して爆発を起こす。
「普通の身体じゃない!」
「ど、どうすれば……」
クローン兵たちの間に動揺が走る。デストロイ・フィルド=トルーパーは当然、普通に作られたクローン兵じゃない。彼女たちは遺伝子を高度に組み替えられ、その身体の中には機械が相当なレベルで入っている。脳にもメスを入れられ、思考回路は人間のそれとは異なっている。――まさに、生体機械兵器!
「いやあぁあッ!」
「逃げてぇ!」
「…………!」
別のデストロイ・フィルド=トルーパーがレーザーを飛ばし、混乱の極みに陥っているクリスター政府軍に浴びせていく。何度もお腹に響く爆音が起こる。……たった5体のデストロイ・フィルド=トルーパーによって、戦況が引っくり返されている。
「破壊せよ」
「攻撃せよ」
感情のない声。デストロイ・フィルド=トルーパーたちは歩きながら、手のひらからレーザーを飛ばす。その度に爆音と悲鳴が上がる。黒いアイ・ガードで覆われたデストロイ・フィルド=トルーパーの瞳。そこには、何の感情もない。
「もういやぁ!」
「ここから出してぇ!」
「死にたくないよ!」
私は泣き叫ぶクローン兵たちの声を耳にしながら、動乱の戦場を走り続ける。すぐ近くに暗雲の発生装置があるハズだ。それさえ壊せば、グリードシティから撤退できる。
「ソフィア将軍――!」
「…………! アルマンディン!」
微かに聞こえた私を呼ぶ声。目を向ければ、建物と建物の間にアルマンディン少将がいた。彼女の脇腹からは血が流れていた。
「アルマンディン、大丈夫!?」
「わ、私は大丈夫ですっ……! そ、それよりも、この先にコマンダー・ライカがっ!」
「コマンダー・ライカ……!?」
そう言えば、戦いの途中でコマンダー・ライカの姿がなくなっていた。唯一残っている再生したクローン将官。その彼女が……
私はアルマンディンと共に路地の奥へと走って行く。狭く複雑に入り組んだ路地を進んだ先には、小さな扉があった。その上には看板まである。――カフェ・ドリーム。
私はその扉を開け、店の中へと入る。そこはカフェじゃなかった。最新鋭のコンピューター機械が並ぶ広い空間だった。その部屋の中心には、円柱状のエネルギー波に囲まれた大きな黒いクリスタルが浮かんでいた。
「もしかして、アレが暗雲を発生させているクリスタル……!」
「お、恐らくは……!」
よく見ると、部屋には数人のクローン兵が倒れている。クリスター政府のクローン兵とコマンダー・ライカだ。
そのとき、入ってきた扉とその周りの壁がいきなり吹き飛び、炎と瓦礫が飛び込んでくる。いや、それと一緒に数人のクローン兵まで……
「ま、まさか……!」
扉があった場所の先は、炎の海だった。3つの大きな黒い影がこっちに向かって歩いて来ている。――デストロイ・フィルド=トルーパーだ。
チラリと天井を見れば、監視カメラが私たちを捉えていた。あのデストロイ・フィルド=トルーパーたちは、クリスタルを守る為に戻って来たに違いない。
「……悪いけど、あのクリスタルは壊させて貰うわ」
私は白い破壊魔法を剣に纏うと、デストロイ・フィルド=トルーパーたちに背を向け、クリスタルに向かって走り出す。デストロイ・フィルド=トルーパーたちも走り出し、私を追って来る。
あんなに大きな体なのに、デストロイ・フィルド=トルーパーは早い。あっという間に追いつかれそうになる。だが、そのとき、デストロイ・フィルド=トルーパーたちは後ろから押し倒される。
「行かせない!」
「ソフィア将軍、クリスタルを破壊してください!」
「デストロイ・フィルド=トルーパーは私たちが止めておきます!」
3体のデストロイ・フィルド=トルーパーを止めたのは、ルビー、サファイア、コハク、ヒスイ、ヘキギョク、タンザナイト。6人の戦闘系クローン准将たち!
私は彼女たちに頷き返し、そこからクリスタルに向かって飛ぶ。そして、白い衝撃波を纏った剣を振り上げ、勢いよく邪悪なクリスタルに向かって剣を振り降ろした――!




