第9話 反撃の開始
【国際政府首都グリードシティ 中央エリア 市街地】
何度も巨大雷が落ち、その度に建物は崩れていく。それに巻き込まれて市民や国際政府のクローン兵、クリスター政府のクローン兵たちが死んでいく。
「ソフィア将軍、我が軍も相当数の死者が出ています! あの上空の暗雲を何とかしないと、このままでは全滅です!」
「ええ、そうね……」
私は漆黒の雲に覆われた空を見上げる。エメラルド少将の言う通り、あの雲を何とかしないと、ここから出ることは出来ない。降り注ぐ雷に殺されるか、ここで軍用兵器や魔物に殺されるかのいずれかだ。いまこの瞬間にも、近くに雷が落ちる。
「ソフィア将軍っ!」
すぐ近くでクローン兵の悲鳴が上がる。そこには国際政府の上級軍人がいた。――ランディとファルガだ。2人とも国際政府軍の中将だ。
「……裏切られた気分はどう?」
私は腰に装備した剣を抜き取りながら、ゆっくりと近づいてきた2人に問う。だが、2人の答えは予想しないものだった。
「さすが、我らの将軍だ。まさに国際政府滅亡に相応しい」
「本当に楽しいことをしてくれる」
「…………!?」
狂っている……! 私は背筋に寒気を覚える。国際政府とクェリアを心の底から信じているのだろう。国際政府とクェリアのすること、成すことは全て正しい。そう思っているんだ……
「ソフィア将軍、お下がりください」
「あの二人は私たちが相手します」
側にいたルビー准将とサファイア准将がランディとファルガの前に立ちはだかる。ルビーが槍を手に、サファイアが弓矢を手にして、国際政府の中将たちに向かっていく。ルビーとサファイアは強いクローン軍人だ。簡単には負けやしないだろう。
「どうせ全ての者はここで死ぬのだ! 今死んでも大して変わりあるまい!」
「私たちはクェリアなんかに負けない! 絶対に生きて帰るんだ!」
ルビーは槍でランディの剣を受け止める。彼女はランディの剣を弾こうと、素早く何度も槍を繰り出す。ランディは防戦一方だ。
「死にたくなかったら、降伏しろっ!」
「何を、この小娘がッ!」
サファイアは紫色をした半透明の矢をファルガに向かって飛ばす。魔法アローだ。格闘系の戦闘をするファルガは、彼女の攻撃を素早く何度も避ける。サファイアは弓矢という飛び道具派。ファルガは格闘派。遠距離戦なら、サファイアの方が有利だ。だが、近づかれたら、ファルガの方が有利になる。
「お前たちも運のない連中だ。クラスタなどというティトシティの生き残りに、いいように扱われているだけ」
「クラスタ閣下は、自由と平和を守るクリスター政府の創始者だ! 私たちは――」
「フフ、確かにクラスタは自由と平和の復興者だろう。だが、その根底にあるのは我々への復讐心。機が熟した今、クラスタは本性を現し、復讐のためにグリードシティに攻め込んだ」
ランディはルビーを斬り殺そうと、剣を振り降ろす。彼女は素早くランディの足元に転がり込み、槍で彼を一突きにしようとする。だが、槍は彼の装甲服をかすっただけだった。避けられてしまった。
「お前たちは、クリスター政府は、クラスタに利用されたんだ。それに気が付かないとは哀れなクローンたちだ。――お前たちは、今も昔も、奴隷なんだよ!」
「…………!」
ランディの言葉に一瞬、怯んだサファイア。すぐ近くにまで迫られていたファルガの拳が、サファイアのヘッド・アーマーを殴り砕く。アーマーの破片と一緒に、血が地面に飛び散る。サファイアはその場に倒れてしまう。
「サファイア!」
「昔は連合政府の奴隷。今はクリスター政府の奴隷。お前たちは、いつでも国家の奴隷! この構図は変えられないのさ! 民、そして兵という名の奴隷共が国家に立て付くなど、ふざけるのも大概にしろ!」
サファイアを殴ったファルガはランディの言葉に、呼応するように叫ぶ。
「……そんな調子だから、国際政府も連合政府も崩壊の運命を辿った」
「…………!」
いきなり銃撃音が立て続けに鳴り響き、ファルガの身体を銃弾が何発も貫く。背後から撃たれた。彼は血を吐きながら倒れる。
「コ、コハク准将っ……!」
サファイアが血が伝う頭を抑えながら立ち上がる。ファルガを撃ったのは、コハク准将だった。彼女はマシンガンを腰に戻すと、サファイアに駆け寄り、その身体を支える。
「あの国賊、ファルガをよくも……!」
ルビーと戦いながら、ランディはコハクを睨み付ける。だが、突如、その動きは止まる。ランディの腹から巨大なナイフの刃が突き出る。
「私たちはお前たちのようにはならない」
「ぐっ……!?」
「これで終わりだ!」
ルビーが槍でランディの心臓を貫き、真っ赤な血が辺りに飛散する。ナイフが引き抜かれ、ランディもまた倒れる。
「クリスター政府が暴走しようものなら、私たちや市民を奴隷にしようものなら、市民がそれを止める。それが市民に課せられた義務だ」
ナイフに付いた血を振り飛ばしながらそう言うのは、タンザナイト准将だ。
「ソフィア将軍!」
タンザナイト准将の後ろから、ギョクズイ中将が走り寄ってくる。
「グリードシティを取り囲む暗雲は、首都最下層エリアにある装置が原因と分かりました」
「…………!? それを破壊すれば、もしかしたら……」
「恐らく暗雲も消滅するかと思われます」
ギョクズイの報告に、私たちは頷き合う。その装置を破壊すれば、暗雲が消える。暗雲が消えれば、あの雷は落ちて来なくなる。そして、この街からの脱出も可能になる。
「希望が見えて来たわね。――各部隊に連絡を!」
「イエッサー!」
<<登場人物>>
◆ランディ(男性)【死亡】
◇国際政府中将。
◆ファルガ(男性)【死亡】
◇国際政府中将。
◆ソフィア(クローン女性)
◇フィルド・クローン。
◇クリスター政府特殊軍大将/クリスター政府特殊軍一般部隊管理官。
◇元々は連合政府系組織「ヒーラーズ・グループ」のクローン軍人だった。
◆サファイア(クローン女性)
◇フィルド・クローン。
◇クリスター政府特殊軍准将/クリスター政府特殊軍一般部隊管理官。
◇元々は連合政府系組織「ヒーラーズ・グループ」のクローン軍人だった。
◆ルビー(クローン女性)
◇フィルド・クローン。
◇クリスター政府特殊軍准将/クリスター政府特殊軍一般部隊に所属。
◇元々は連合政府系組織「ヒーラーズ・グループ」のクローン軍人だった。
◆コハク(クローン女性)
◇フィルド・クローン。
◇クリスター政府特殊軍准将/クリスター政府特殊軍一般部隊に所属。
◇元々は連合政府系組織「ヒーラーズ・グループ」のクローン軍人だった。
◆タンザナイト(クローン女性)
◇フィルド・クローン。
◇クリスター政府特殊軍准将/クリスター政府特殊軍一般部隊に所属。
◇元々は連合政府系組織「ヒーラーズ・グループ」のクローン軍人だった。




