プロローグ
「はぁ はぁ はぁ はぁ」
狭くうす汚い廊下をただひたすら走る。
全身が汗だらけで何がなんだか分からない。
怖い。
ただ怖い。
恐怖が全身を包み込む。
そして何かが追ってくる。
いや、何かではない。
アイツだ。
「な...なんなんだよ......アイツなんなんだよ!」
訳が分かんなかった。
いきなり出てきたかと思ったら、目の前で春香を殺すなんて...いや、あれは死んだっていうのか?...それすら分かんない。
とにかく、奴に捕まったら終わりだ。
いや、正確には奴らか。
いったい何人いるんだか。
分からない。
とにかく分からない。
でも、これだけは言える。早くここから出ないと...
死ぬ。
「うっ!?」
ドサッ
派手に頭から転んだ。建物内に音が響いた。
「くっ...そぅ...」
腹を強く打ってしまったらしく、かなり苦しい。
その時
ぺた ぺた ぺた ぺた ぺた
アイツだ。
あの音は奴しかいない。
ぺた ぺた ぺた ぺた ぺた
ぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺた
ぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺた
ぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺた
ぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺた
ぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺた
急に音が加速した!?
「まずい、早く逃げなきゃヤバ...」
遅かった。
「うっうわぁ!?」
目の前にはアイツがいた。
「......と.............けた.....」
アイツの声がぼそぼそしててうまく聞き取れない。
「な、なんなんだよお前は!」
思い切って大声をだしてみた。
「.......で.....んな..........ゆ....の?」
まだぼそぼそ喋っている。
「だから、お前は...!?」
気付いた時には距離が1mもなかった。
「なん.............るの?」
とても寂しそうな声だった。
「.............て?」
「ぼ.............く」
「ねぇ.............ょ?」
次第に言葉から怒りを感じた。
「こっ.............で?」
「こっ.................い」
「こい」
「こい」
「ごい」
「.............ごい!」
完全にアイツは怒っている。
その理由が俺には全然分かんなかった。
...その時までは。
「ふふふ.............ふふ」
不気味な笑い声だった。
そして、アイツはハッキリ俺にこう言った。
「喰べちゃおう」