アクヨリセイギ
ある日、旅人が村に入ると、
「はーはっはっ!!」
高笑いをしながら、一人の男性が近付いてきた。
髪は全て後ろに流し、袖が破かれたように無い服。そして首から背にかけて布を、マントのように垂らしている。変わった格好をした男性だ。
「やぁ旅の方! ようこそこの村へ!」
歓迎ありがとうございます 旅人は頭を下げてお礼を言った。
「自分は見ての通り、この村のヒーローをしている者だ! もし困ったことがあったら遠慮なく呼んでくれたまえ! でわな!!」
男性は布を翻しながら振り返ると、バサバサと棚引かせて走り去って行った。
この村にはヒーローがいるんですね 手を振りながら旅人は男性を見送り、宿屋へと向かった。
一夜明け、旅人は商売の出来そうな場所を探して歩いていた。
すると、
「はーはっはっ!!」
昨日と同じヒーローと名乗った男性の高笑いが聞こえてきた。よく見れば、少し向こうに布を棚引かて走り去って行く姿と、
「ったく……アイツめ、またやりがやったな」
旅人と同じようにヒーローを見送りながら何か呟いている、若干年上に見える男性を見つけた。
どうかしたんですか? 旅人は悪態をつく男性へと近づいた。
「見てくれよ、コレを」
男性は隣にあった引き車を指差す。中には果物が入っている。
「俺は隣の町からここへ商売へ来るもんなんだがよ。運んでくれるっつうから任せたらこの様だ」
ただし、その大半がひび割れていたり傷がついており、売り物として提供するのが本来忍ばれる状態だ。
「最初に来た時からそうだ。いきなり自分はこの村のヒーローだ、困っているようなら助けようとか言ってよ。ここまで運んでくるのに疲れてたからちょうど良いと思って頼んだら、力任せに引きやがるから商品がボロボロになった。以来来るのをどっかで見てるんじゃねぇかと思うタイミングで毎回現れやがる。毎度慎重に丁寧にって言うのに聞きやしねぇ。おかげで商売あがったりだぜ」
それは大変でしたね 同じ商売人として、旅人は男性に同情する。
「アンタも気をつけろよ、アイツはヒーローなんかじゃねぇ」
その時、
「あぁ……また、息子が何かやらかしたんですか?」
2人の元に、初老の女性が近づいてきた。その目は傷ついた果物に向けられ、申し訳なさそうな表情で頭を下げながらゆっくり歩いてきた。
息子、ですか? 女性の言葉に旅人は首を傾げて訊ね返した。
「えぇ……この村でヒーローを名乗っているのは私の息子くらいです。背中に布を背負っていませんでしたか?」
「間違いねぇ、ソイツだ」
旅人も頷いた。
「やっぱり……本当にすみませんでした」
頭を深々と下げて女性は謝罪をした。
なぜ、貴女の息子さんはヒーローを名乗っているのですか? 最もな疑問を旅人が訊ねると、ヒーローの母親はゆっくりと答え始めた。
「あの子は見ての通り、体躯に恵まれました。その利用方法を考えた彼は、人助けという手段を選んだのです……しかし、力が有り余り過ぎて、逆に迷惑をかけてしまうように……」
「正義感強すぎってところか。俺にしてみりゃ正義のヒーローってより悪の手先だぜ」
「村でも息子のことをあまり良く思わない人は幾人もいます。皆、助けられすぎた人達です」
……
説明を聞き終えた旅人は、新たに生まれた疑問をぶつけた。
そこまで知っていながら、息子さんにヒーローを辞めるようには言わないのですか?
その問いに女性は、先ほどと同じゆっくり答える。
「全員が全員、被害を被ったわけでは無いのです。中には彼を、ヒーローと認めてくれている人もいます。ただ少し、やり過ぎることがあるところは黙認した上でね。それに被害を被られた人の中も、結果以上にですが助けられているので、あまり悪く言えない、と言っていました」
「なるほどなぁ、確かに俺も、傷物にはなったが運んでもらったのには変わりねぇ。若干値を下げて売るくらいなら、まだ駄賃と考えればまぁ許せるか」
では、彼をヒーローと認めますか? 旅人は男性へと訊ねる。
「あー、まぁ悪よりは、正義のヒーローだな」
では、悪よりは正義。ただし悪よりの正義、のヒーローというのはどうでしょう?
「お、アンタ上手いこと言うね。それでいこうぜ、どちらかと言えば悪よりは正義な、悪寄りの正義のヒーロー。早速村の奴らに知らせようぜ」
その日、2人の旅商人が考えた言葉は、村人達に感心されて採用されることとなった。
この村には、悪よりは正義な、悪寄りの正義な、
アクヨリセイギな、ヒーローがいる。
正義のヒーローを悪の側から見てみれば、あっちの方が悪だと言う。
助けられてる人の方でも、必ず、正義に見てくれている人だけとは限らない。
この村のヒーローは少々やり過ぎているみたいですね。彼に自覚は全くありませんが。
それでは、