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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

魔王の意義~俺は勇者を殺します~

作者:

開いて頂きありがとうございます

拙い文章ですが最後まで読んでいただければ幸いです






 それは、一人の勇者に用意された結末。




 「どうして!! なんでだよ!! あれで全部終わるはずだっただろ!!」




 それは、誰にも知られることなかった真実。




 「他にないのかよ!! なんかあるはずだろ!! 本当にこんな方法しかないのかよ!!」




 それは、たった一つの光を望んだ勇者の末路。




 「仕方ないよな。だって、俺が望んだのは―――――」




 それは、決して語られることのない世界の理。
















 「お前が魔王だな!!」




 今、俺の前には白い鎧に身を包んだ青年が立っている。

 その後ろには、動きやすそうな軽装をした獣人の少女とローブを着て長い杖を持つ人間の少年。そして、十字架を手にした白いシスター服を着たエルフの少女が立っていた。




 「そのとおり、俺が魔王だ。愚かな勇者よ」




 俺は椅子に腰を下ろしたまま答える。




 「魔王!! お前が魔物に命令して多くの人を傷つけているは分かっている!! 知らないとは言わせないぞ!!」




 そう言って俺をにらみつけてくる勇者の瞳には、確固たる信念と自信に満ちた光が宿っていた。



 ―俺にもあんな目をしていた頃があったのだろうか?

 いや、今は考えることではないな




 「そうだ、俺が命令して人を襲わせている」



 「く、やはりそうなのか」




 勇者は苦しそうに顔を歪めると、噛みつくように言葉を投げつけてきた。




 「どうしてだ!! どうしてお前は人を傷つける!! リーナの村もジーニアの両親もお前のせいで亡くしたんだぞ!!」




 リーナやジーニアが誰かは分からないが、恐らく後ろの三人の内の誰かだろうと俺は予測した。

 しかし、―――――



 ―どうして………か



 勇者の言葉を頭の中で復唱した俺は、小さな笑みを零してしまった。




 「なにがおかしい!!!」




 勇者には俺が死んだ人のことを思って笑ったと思われたらしい。



 ―なら、それなりの答えを用意しないといけないな




 「いや、あまりにも不思議なことを聞くからつい笑ってしまったのだ」



 「………不思議なことだと」




 勇者が怪訝そうな表情をする。




 「畑に生えた雑草を引き抜く理由など一つしかないだろう―――邪魔だからだよ」




 俺の言葉を聞いた瞬間、勇者の顔が憤怒に染まる。




 「魔王!!! お前には自分の犯した罪を償ってもらう!!」




 勇者の言葉をきっかけに戦闘が始まる。



 見た目通りに勇者と獣人の少女が前衛、ローブの少年とエルフの少女が後衛だった。


 勇者の攻めと守りのバランスのとれた戦法。

 獣人の少女の力強くも素早い攻撃。

 ローブの少年の強力な魔法。

 エルフの少女の的確な支援の魔法。


 作戦の立て方、チームのバランス、チームメンバーのコンビネーション。

 どれをとってもすばらしい完成度だった。



 ―だが、俺たちのときの半分の強さもない




 獣人の少女は、殴りかかってきたところをカウンターで腹部に魔法を撃ち込む。

 ローブの少年は、後ろに回り込んで首をねる。

 エルフの少女は、仲間がやられて同様しているところを壁に叩き付ける。


 結局、残ったのはボロボロになった勇者だけだった。




 「さあ、どうする勇者。お前の仲間はいなくなったぞ」



 「くそ、くそ、くそおぉぉぉぉぉぉ!!!!」




 勇者は無我夢中で剣を振りかぶってくる。




 「どうして、どうしてだよ!!」



 「なにがだ? 多くの人が死んだことか? それとも仲間が死んだことか?」



 「だまれ! だまれ! だまれ!!」




 勇者は半狂乱になってただ剣を振り回す。

 そこには攻めも守りもない。

 ただ、子供が木の棒を振り回しているだけの遊びにしか見えなかった。




 「理由を教えてやろう―――お前が弱かったからだ」



 「違う!! 俺のせいじゃない!! お前が―――」



 「たしかに、殺したのは俺だ。では、守れなかったのは誰だ?」



 「ッ!!」




 勇者の瞳に恐怖の色が混じる。




 「勇者、お前が弱かったから仲間は死んだのだ。お前が守りきれなかったから人は死んだのだ」



 「違う!! お、俺は悪くない!」




 勇者は剣を手から落とすと、床に膝を着いて両手で耳を塞いだ。




 「しっかりと見るがいい。お前が守れなかった者たちの末路を、お前が未熟故に失った者たちの姿を」




 俺の言葉に勇者は自分の周りを見渡す。


 腹部に大きな穴を開けた獣人の少女。

 首をなくしたローブの少年。

 壁に叩き付けられて潰れているエルフの少女。


 そこにはかつての仲間たちの変わり果てた姿があった。




 「違う…違う、違う、違う! 俺じゃない!! 俺のせいじゃない!!!」




 勇者は死体から目を逸らすと頭を抱えて喚きだした。




 「違うな。お前のせいだ」




 勇者の体がビクッと震える。




 「守りたければ力を得なければいけない。救いたければ力を手にするしかない」



 「あ、あ…あ………あ………」




 勇者はすでに言葉らしいことは発せず、虚ろな瞳で俺を見ている。




 「力を持たない者の言葉など、ただの虚言にしかならないのだから」




 俺が振り下ろした刃は勇者の首を斬り落とし、この戦いに幕を引いた。











 「お前で23人目だよ。俺を倒しに来た勇者の人数は」




 俺は椅子に座って首を失くした勇者に話しかける。

 そこに深い意味などない。ただ、少し話をしたくなっただけだ。




 「お前は信じられるか? この世界が魔王の存在によって維持されていると言ったら、お前は信じるか?」




 ―ま、信じるわけがないか

 俺だって魔王を倒して、初めてそのことが理解できたのだから




 俺の意識は過去へと向かった。





















 「愚かな勇者よ。お前は私を殺したことを後悔する日がくるぞ」



 「黙れ、魔王!! 俺がそんな後悔をするはずない!」




 胸を剣で貫かれた魔王はそれでも皮肉気に笑っていた。




 「ふふ、お前にも分かるときがくる。人がいかに醜く愚かな生き物なのかということがな」



 「うるさい!!」



 「私を殺したのはお前だということを忘れるなよ。お前には責任を負う義務があるのだ……か…ら………」




 その日、世界から魔王の脅威と魔物の姿が消えた。
















 「また、戦争か」




 城のバルコニーから見える黒い煙に俺の気分は沈んでいた。



 魔王討伐から五年。

 世界は戦火に包まれていた。


 今まで魔物の影響によって手が出せなかった地域をめぐって、国同士の争いが起きたのだ。

 魔王を倒すまではお互いに協力していたのが嘘のような状況であった。


 問題はそれだけではなかった。

 魔物の被害がなくなったことによって急激に人口が増え、食糧の需要と供給のバランスが崩れてきたのだ。

 計算によればあと一年も待たずに何万人もの餓死者が出るということである。




 「………これが、魔王の言っていたことなのか」




 俺が魔王の最後の言葉の意味を考えていると部屋の扉を叩く音が聞こえた。




 「どうぞ」




 俺の言葉に扉から顔を出したのは金髪の綺麗な女性だった。


 家族を魔物によって失い呆然としていた俺を拾ってくれた人だ。歳は俺の一つ上だが、性格や身長から俺よりも年下に見える。


 彼女は、俺が勇者に選ばれる前も選ばれてからも俺を支えてくれた大切な人だ。

 そして、俺の家族になる予定の人だ。




 「お茶をいれたから一緒に飲まない?」




 彼女は俺の姿を確認すると、恥ずかしそうに笑いながら聞いてきた。




 「ありがとう、もらうよ」




 ―何回この笑顔に救われたことだろう



 俺は自分の胸に灯る温かい光を感じていた。






 「ねえ」



 「なに?」



 「この戦争はいつになったら終わるのかしら?」




 遠くの空を眺めながらつぶやく彼女の声には、隠しきれない憂いが含まれていた。




 「どうだろう。仮にこの戦争が終わっても、また次の戦争があるんじゃないかな」




 俺の言葉に彼女の表所は曇る。




 「魔物を倒すために作っていた兵器を同じ人に向けるようになるなんて―――皮肉なものね」




 (お前には責任を負う義務がある)




 俺の頭の中では、魔王の言葉がいつまでも木霊していた。
















 「娘との婚約を破棄してもらいたい」



 「………え?」




 王様に呼び出された俺は、信じられない言葉に目を丸くしていた。




 「あの、それはどういうことでしょうか?」




 自分の耳がおかしくなってしまったのではないかと思った。




 「言葉の通りじゃ。我の娘には隣国の王子と婚約を結んでもらう」




 隣国、それは現在戦争をしている相手だ。

 長く続いた戦争でお互いに疲弊してしまい、そろそろ停戦するのではないかという噂がちらほらと出ていた。



―停戦協定のために人質にするつもりか!!




 「王、お言葉ですが俺は―――」



 「反論は認めない! これはすでに決まったことなのだ」



 「ッ!! ――――承りました」




 俺には膝を着いて王が退場するのを待つことしかできなかった。
















 その日の夜。

 俺は彼女の部屋に来ていた。




 「一緒に逃げよう! この国から出てどっか別の場所で一緒に暮らそう」




 俺は国を出るつもりでいた。

 彼女と一緒にいられないのならこの国にいる意味などなかったのだ。




 「冒険をしていたときに稼いだお金も人脈もある。なんとかなるよ」




 彼女は頷いてくれる。

 俺はそう確信していた。


 でも―――




 「ごめんなさい。私はあなたとは行けない」




 彼女は首を横に振った。




 「な! どうして!?」



 「私は王族なの。この国の民が幸せになれるようにするのが私の役目」




 彼女の瞳はまっすぐに俺を見つめていた。




 「そして、私がしなければならないことは隣国との停戦。これ以上、民に無駄な血を流させるわけにはいかないの」



 「たとえ隣国と停戦をしても、また違う国との戦争がすぐに起きる! こんなの意味がないじゃないか!!」



 「それでも!!」




 彼女の瞳は揺れていた。

 不安や悲壮が溢れだしそうになっていた。




 「これは私にしかできないことだから」




 だが、その瞳にその言葉に嘘も偽りも迷いもなかった。




 「大丈夫よ。私は隣国に行くけど、二度と会えなくなるわけじゃないもの。年に数回は会えるわ。それに、国同士で戦争をするようなことがなくなれば―――」



 「わかった」




 俺は立ち上がった。

 彼女に背を向けて歩き出す。




 「今まで、ありがとう」




 ―今まで、ずっと俺のことを支えてくれて、ありがとう




 「さようなら」




 ―二度と会うことはないだろうから、さようなら




 閉めた扉の向こうで彼女の声が聞こえたような気がしたが、俺は振り返らなかった。




 (お前には責任を負う義務がある)




 俺の頭の中に再び魔王の言葉が鳴り響いていた。
















 住むものがいなくなってから五年。

 魔王の住んでいた城は不気味な静けさを宿していた。



 俺は城の中で魔王が使っていたと思われる部屋で一冊の本を読んでいた。


 魔王が書いたと思われるその本には全ての真実が書かれていた。




 魔王とは世界のシステムの一つであり、与えられた役目は二つ。


 一つ、この世界で人が同種族同士で争わないために作られた制御装置としての役目。

 一つ、増えすぎる人間の数を調整するための抑制装置としての役目。



 このシステムは何代にも渡って引き継がれてきた。

 前の魔王が殺されれば、殺した者が次の魔王となる。その魔王が殺されれば、また殺した者が次の魔王になる。

 そうやって受け継がれてきたシステム。


 『世界の理』




 (お前には責任を負う義務がある)




 「ははは、なんだよ、これ」




 俺は力のない笑みを浮かべていた。




 「どうして!! なんでだよ!! あれで全部終わるはずだっただろ!!」




 こんなはずじゃなかったという思いが溢れてくる。




 「他にないのかよ!! なんかあるはずだろ!! 本当にこんな方法しかないのかよ!!」




 理不尽だという思いにさいなまれる。




 (お前には責任を負う義務がある)




 ―ああ、そうだろうさ

 魔王がいなくなったせいでこんなことになっているなら、責任は俺にあるだろうさ

 でもさ、俺はただ―――




 彼女の笑顔が頭に浮かぶ。




 ―彼女と一緒にいたかっただけなんだ




 だが、彼女は自分の役目を果たすために隣国に嫁ぐと言った。


 なにもかもがうまくいかない。

 ずれた歯車はもう元には戻らない。



 ―なら、せめて最後は彼女のために人間として生を使い切ろう



 魔王になれば人と同じ時間は過ごせない。

 故に、二度と彼女の前に俺が姿を現すことはない。



 それでもやらなければいけない。

 たとえ気が狂いそうなほど長い時間を孤独に過ごすことになっても―――




 「仕方ないよな。だって、俺が望んだのは彼女の幸せなんだから」






 この日、世界には新たな魔王が生まれ、世界は再び混乱に陥った。


 各地で起きていた戦争は止み、再び魔物と戦うために手を取り合った。

 そこに停戦の協定が結ばれたという話はない。
















 そこは魔王の城のすぐそばにある村。


 魔王が復活してからというもの、その村に住む人間は極端に減った。


 その村の中心で白く染まった髪を持つ老婆が子供たちに囲まれていた。




 「ねえねえ、おばあさんは昔からこの村に住んでいるんだよね」



 「ああ、そうだよ」




 小さな少女の質問に老婆はしっかりとした声で返答した。




 「おばあさんはなんで引っ越ししないの?」



 「魔物が怖くないの?」



 「ぼくの家はお金がないから………」



 「俺は怖くないぜ」



 「あれ、木の影と魔物を間違えて泣いていなかった」



 「あ、あれはちょっとびっくりしただけだ!」



 「あははははあ」




 老婆は子供たちの様子を微笑ましそうに見ていた。




 「ねえねえ、おばあさんどうなの?」




 質問をした少女が老婆の袖を引いた。




 「ああ、ごめんよ。なんでこの村から出て行かないかだったね」



 「うん!」



 「ふふふ、それはね―――」




 老婆は少女から視線を外すと、森の向こうに見える魔王の城を見つめて目を細めた。

 少女も老婆につられて城を見る。




 「私の大切な人が近くにいるからだよ」




最後まで読んでいただきありがとうございます。

ちょっと中二ぽかったでしょうか?

自分としてはできるだけシリアスにしたかったのですが、難しいです。

誤字や脱字なんかがあれば優しくご指摘いただければ幸いです。

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