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物の怪日和(モノノケビヨリ)  作者: 白房(しろふさ)
第十九章 式神ふたたび
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始まりには蛮勇がいる

 デート。デートである。私は間宮と片岡の話の通り、千葉さんをデートに誘うのだ。


 しかし、間宮と片岡が帰宅してより一時間ほど経過したのが現在。

 私は電話をもてあそんでいた。


 自宅の居間。床には先ほど独身貴族どもが置いていった、デートコースを書いた紙。その横には電話。


 私はあと、千葉さんに電話をかけるだけである。電話を持つ。電話を鳴らす。しゃべる。この三つのアクションを起こすだけで、目的は果たされる。単純な問題であり、どこをどう考えても、それ以外の行動はありえない。


 しかし。しかしである。デートに誘う。そのことは、非常にハードルが高い。読者諸兄、「貴様は何を言っているんだ。今までも散々、千葉さんとは話をしているではないか」と思われるだろう。それは正しくて、私は何度も千葉さんと話をしている。


 だからといって、それが即ち「デートOK」のサインでもないわけである。一つのイベントの参加者、とは違うのだ。そう。違うのだ。私の誕生日会に来てくれた。それは素直にうれしいのであるが、もしかすれば、大宮と高島に誘われたから来てくれている可能性だってある。


 しぃなの時だってそうだ。しぃなという中継点があるから、我が家を訪れてくれたのかもしれない。


 そんなことを考えていたら、三十分ほど経過した。床には今だ電話と紙が置かれていた。紙に書かれた「プロジェクト:必殺デート」という言葉が、私の心に突き刺さる。必殺の部分が極太マジックで書かれているのが、余計心をもやもやさせる。


 ともかくどうしたものか。


 様々に思考を巡らせた結果、踊りを舞うことにした。


 読者諸兄、呆れるのは少し早い。まずは私の言葉を聞いて欲しい。そう。そうだ。その振り上げた拳を下ろし、座り、このお茶を飲んで欲しい。うまい紅茶があるのだ。なんならタバコもあるぞ。


 なぜ私は舞ったのが。


 桜は散るのではなく、舞うものだというが、今回の件とは関係ない。少し知的アピールをしたかっただけ、は八割正解である。残りの二割は、邪神の誘いである。


 話を戻す。舞った理由は簡単なことである。テンションを上げたかったのだ。今のテンションでは、千葉さんに電話をかけ、デートに誘うことは出来ない、ということだ。

 我ながら小心者の極みである。しかし、ここまで本作「物の怪日和」を読んでいただいている読者諸兄には、私がいかに脆弱な精神の持ち主で、矮小で、意気地の無い、ヘタレた男なのかはご存知のことだろう。ここまで自分で言って、余計テンションが下がってしまったことは、言うまでもない。


 居間にポータブル音楽プレイヤーを持ち込み、ミュージックスタート。


 チャララチャララチャララ……


 古いポップが流れる。私が高校生の時に聞いていた曲なので、それはまた古い代物なのだ。しかしこういう場合、聞きなれた曲のほうがいい、というのも自明である。


 私は踊った。舞った。音楽に合わせ、腕を振り、腰を振り、足をあげた。


 音楽は続く。私は更に激しく舞った。


 三分ほどで私の体力は底をうった。運動不足がたたっている。もう動きたくない。

 その場に寝転ぶ。心臓が大きく脈を打ち、鼓動が耳にはっきり聞こえる。汗は顔中を流れ、足が痛い。

 音楽は流れ続けていたが、遥か遠くから流れているような気がした。


 私は音楽を止めた。もう大丈夫だ。私のテンションは上がった。舞う。こんなことでテンションが上がるのだから、我ながら安く出来ている。

 なおここまでやってみて、酒を飲んだほうが話が早い、と思ったのは内緒である。


 荒い息を深呼吸でおさめ、私は電話を取る。電話帳から千葉さんの番号を検索する。


 千葉さん(鼬)。


 目的の番号は、数秒もかからず検索された。


 通話ボタンを押す。


 プルルルル……と呼び出し音がなる。


 「はい。もしもし。千葉です」


 千葉さんが電話にでた。

 いきなりデートに誘うのは無粋だ。世間話から始める。

 数分雑談をする。最近あったこと、面白かった本、などなど、そんなキャッチボールしやすい雑談だ。

 場も暖まったところで、本題を切り出す。


 「あの……千葉さん……」


 「はい?なんでしょう?」


 「今度の土曜日なんですが、お暇ですか?よかったら、あの……その……うん……デートしてくれましぇんか?」


 言った。言ってしまった。もう後戻りは出来ない。心臓がポンプになったように、機械的で大きな音を発する。

 そして、舌はまったく回っていなかった。


 「デートですか?」


 「デートでぷ」


 今度は噛んだ。


 「ふふ……今度の土曜は用事があるんです。でも翌週ならいいですよ」


 「翌週でお願いしまぷ」


 私はどこの舌足らずな萌えキャラなのだろうか。


 私達は、電話を切った。額から汗が止め処とめどなく流れる。心臓は言うまでもなく、おそらく血圧にいたっては、測定すれば即入院の有様だろう。


 しかし、結果は出た。デート。デートである。来週の土曜はデートなのだ。


 電話が終わった私は、さっきそうしたように、寝転んだ。そして大きく息を吸い、細く長く吐き、大きくガッツポーズした。

 私は今日、脆弱で矮小な、自分の精神をなんとか乗り越えた。やればできる子。自分で自分を褒めてやりたい。それが勇気なのか意思なのか。それとも蛮勇なのか。それはどれでもいい。大事なことは、結果を残せたことなのだ。


 それにしても、私はいつもかっこつかない。なんだよ「翌週でお願いしまぷ」って。

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