すべからく何かが起こるのが物語
ハーピバースデー 三十路~
ハーピバースデー 三十路~
ハーピバースデー ディア(ここには私の名前が入るのだが、昨今個人情報についてはうるさく言われている。まして、ここで私の名前を出せば塚田、間宮を初めとするこの物語の登場人物の特定が出来るかもしれない。それはいけない。そんなことがあってはならぬ。大宮、高島、千葉さんと言った女性だっているのだ。私が私たる名前をだしてはならぬ。これは常識的な判断であり、それすなわち皆を守るためなのである、という理由により削除)く~ん
ハーピバースデー 三十路~
「(上記と同様の理由で削除)君、おめでと~!」
ということで、私の誕生日会が始まった。実際の誕生日より時間はずれているが、そんなことは瑣末な問題でしかない。最も大事なこと。それは、こうやって誕生日を祝ってくれる人がいるという確固たる事実である。
「いやぁ、なんだかんだ三十路だね」
「おっさんだよ、おっさん」
「そんなこと言わないの!私達だって行く道なんだから!」
予定通り、会場は私の家。その居間である。人数が人数なので多少狭っ苦しくはあるが、皆思い思いにおおよそ車座に腰を下ろしている。そしてその車座の魔方陣の中央には机が置かれている。
間宮の時と同じく、机の上には惣菜がこれでもかと並んでいる。肉だらけではないが、スーパーでよく見るありふれたものだ。魔方陣で悪魔を呼ぶ供物としては、ちょっと迫力が足りない。
しかしここからが少し違うのだが、女子陣は手作りの料理を作って来てくれた。サンドイッチやおにぎり、はたまたち、ちんまりとしたグラタンだのも、机の上に並んでいる。色とりどりの手作り料理。
「ふふーん。すごいでしょ。私達だって女子なんだからね!」と大宮。いや、これはとてもいい。既製品の中に咲く手作りの花。男だけではこうはいかない。狐、狸、鼬という民俗学者が喜びそうな面々ではあるが、さすがに女子であり、ちゃんと気を使ってくれるあたりポイントが高い。本日はポイント三倍デーである。いや、十倍くらいでもいいかもしれない。
そうこうしながら誕生日会は続いていく。大雑把には笑顔が咲き乱れる会であった。楽しい。うれしい。素直に私はそう思う。
誰が誰とだけ話すでもなく、ただただ楽しさの神様がそこに降りてきていた。
女性がいるということで、若干中村の処遇に困るのではないか、と思われた。しかし、中村は女子陣と微妙な距離を取っているようで、林、片岡とで何やら話し込んでいた。時折笑いも起こっているようなので、何も問題はないのであろう。
わいわいがやがや、とも言える。ざわざわ、でもいい。雑多な言葉が溢れ、楽しい空間がそこにはあった。
今の私には、これだけの友人がいてくれるのだ。そのこと自体、神に感謝である。私は今、幸せをかみ締めている。こんな発言は私らしくも無い。それは重々承知である。しかしながら、妖怪物の怪であっても、祝われればうれしいし、皆が笑顔であれば、更にうれしいのは自明である。たまにはこんな日があってもいいのだ。ん?今何か変なことを言った気がしたが、まぁよしとする。
そんなことを考えていたら、私の横に塚田が座った。手にはオレンジジュースの瓶を持っている。そして、塚田は私に話しかけた。
「なんでだろうな。なんだかんだ、楽しいな。バカみたいなんだけど楽しいよな。高校生の時の俺らなら、考えにも浮かばなかったようなもんだ」
私もそれは思う。独身貴族円卓会議は、高校時代に発足した古の集団だ。だからと言って、当時はこういったイベントをやることは無かった。授業が終わると、とある教室に集まってなんだかんだと話をするだけだった。ただただ恋愛至上主義な現実を呪い、それに反旗を翻すことをだけを妄想し、時に笑い、時に涙し、日々を過ごしていた。不毛で非建設的で、まったくやるせない悪の組織である。
高校時代の話はいずれ書くかもしれない。いや、おそらく書くだろう。我等が如何様にして現実との激しい戦いを繰り広げていたかを記録し、皆にお伝えするのだ。まさにレジスタンスであり、思い出すだけで胸に嫌な思いだけが重く圧し掛かる話を、だ。
しかしそれは今ではない。今の私は誕生日会に忙しく、それどころではない。ただただ楽しくて仕方ないのだ。人間は快楽原則で生きている。楽しさを求めて何が悪い。
どれほど時間が経っただろうか。唐突に間宮が立ち上がり、声を上げた。
「さて!この辺でプレゼントの贈呈を行いたいと思いまーす!皆さん拍手ー!」
(ぱちぱちぱちぱち……)
皆から拍手を贈られる私。今回の主役なのだから当然なのだが、少し尻のすわりが悪い。こうやって祝われた経験があまり無いのだから仕方がない。そして、自分が有名人にもなったかのようで、少し気持ちがいい。
そして、プレゼントの贈呈が行われることになった。
さて。
ここで贈られたプレゼント。まさかそれが発端で、妖怪変化との戦いを強いられることになるとは、このときの私は露も思わなかったのである。火種はどこに潜んでいるか、それは分らないのだ。これは最早、運命である。