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物の怪日和(モノノケビヨリ)  作者: 白房(しろふさ)
第十七章 大河童・雪女
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話が進んでいるようで進んでいない

 結婚という言葉には、一種独特の雰囲気がまとわりつく。就学や就職、出産などと並び称される人生の一大イベントなのだから、それは至極当然のことであろう。その後の人生を大きく変える可能性のある出来事である。


 独身貴族子爵を拝命する私にとって、結婚と言う二文字は大きな意味を持つ。簡単に言えば、現状において起こる可能性が無い出来事である。すっからかんなのである。

 これがゲームであれば、物語を薦めれば自動的に話が進み、相手を選び、晴れて結婚となるわけだ。ただこの世はゲームではない。そんな都合よく話は進まない。妖怪物の怪に彩られた人生であり、物語は進んでいくがイベントはさして起こらない。もう少し狂喜乱舞きょうきらんぶのイベントが起こってもいいと思うので、やはり人生はクソゲーである、


 過去を振り返ってみても、結婚とは無縁の人生であった。無論それは他の独身貴族にも同じことが言えるわけであり、つまり、だからこその強い絆で結ばれている。魂の繋がりなのである。もっとも、そんな絆なんぞは彼女でも作ってさっさと断ち切ってしまったほうが、社会的にも両親的にも自分の精神衛生上に至っても正しいのは明白である。


 話を現実に戻す。両親は私の顔を見たまま微動だにしない。父は私に視線のレーザー光線を放っており、目を逸らさない。母は何故か鼻歌を歌っており、それが静寂の闇を埋めた。


 私は考える。はたしてどうするべきか。いっそ、結婚は先だが彼女はいる、と虚偽の供述をするか。いや待て。「じゃあ写真見せて」や「どこで知り合った?」と言われたらそこで全ては終わりである。一回嘘をついてしまえば、その嘘を誤魔化すために、更に嘘で塗り固めねばならない。嘘彼女なんてのは許されない話であり、男子高校生くらいが群れの中でヒーローになろうと、口上を叩き出す時くらいにしか登場しない。


 嘘彼女は大抵、他所の女子高通いであり最近は会ってない、という注釈が付く。写真を見せろといえば写真が嫌いな子といい、会わせろよとなれば別れたとなるのがオチなのだ。このあたり男子諸君であれば、友人知人に一人くらいはそんなほら吹き男爵がいたであろう。そして、少なくとも三十路を迎えた男のする所業ではない。


 さて、ならばどうするかという話ではあるが、結論は既に出ている。「彼女はいない。ただ好きな人はいる」とするのである。もちろんこの場合、好きな人はいたちこと千葉さんであり、嘘はない。私は千葉さんに大小あれど好意を持っているのは間違いのないことなのだ。つまり、これを正直に話せばいい。


「本当か!?好きな人がいるのか!すごい進歩じゃないか!」


「あらー。よかったわね。好みの子なのね。前から言っていた、読書好きで眼鏡のとかそんな感じ、イシハラカンジなのね」


 父と母のそれぞれに言葉を書いてみると、このようになる。


 父はあれか、私が仏門か仙道の修行者とでも思っているのか。私は恋愛がしたくないわけではない。現状、出来ていないだけなのである。ここのあたりは強調してお伝えしておきたい。


 母は反応は普通だが、やはり駄洒落が混じる。そもそもイシハラカンジとは誰であったか。軍人であったような気がするが、果たしてあっているのか。このあたり、いずれネットで検索でもしてみようかと思う。


 その後、少し千葉さんについての話を一くさりしたのであるが、読者諸兄ご存知のことばかりなので割愛させていただく。父は写真を見せろと執拗しつように私に迫ったが、あいにくと千葉さんの写真は持っていない。今度メールで送るのでそれまで待て、と伝えたところ納得したようである。


 ともかく、私は嘘を付かずにこの場をやり過ごすことが出来た。父も母も、私の話が進んでいるようで、少しは安心したのかもしれない。孫はかわいいと一般的にも言われているし、その可能性があれば今のところは満足なのだろう。


 語りに語って二時間ほどであろうか。まるっとひっくるめて話はおおよそ終わった。早いような遅いような二時間と言えた。近況の時は時間が早かったが、孫の顔の時は時間が遅かった。このあたり、相対性という言葉が頭によぎる。時間は決して同じように流れているわけではない、と知識と経験をもって断言できる。


 さて、一段落ついて、はてさてこれからどうしよう、という話になった。

 そして、話は父のこの一言から進むことになる。


「じゃあ、回転寿司でも食べて、流れるプールにでも遊びに行こう!」


 これを聞いて、あぁ、やはりこの人は父なのだな、と改めて思った。父は寿司とプールが大好きなのである。母もそれに賛同し、私も別段文句は無い。その行動指針で動こうと相成った。それにしても、水泳用のパンツはどこに閉まったか。まだ履けるとは思うのだが。

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